ピースフル・ウォー

綿貫むじな

戦場

 見渡す限りの晴れた青空に、一つの筋状の雲が伸びていく。雲が出来ていく先にはゆっくりと飛行する爆撃機の姿がある。爆撃機は目標を定めると機体下部に取り付けられた爆弾を投下、目標物は大きな爆発に包まれて後にはばらばらになって焼け焦げた人間の死骸と様々な構造物の破片しか残らない。爆発が起きるごとに地面が抉れ、土煙がもうもうと辺りに舞う。

 爆撃が行われた大地にはもう木も草も残っていない。

 それでもまだ人が残っている。歩兵たちが死骸となった仲間たちを弔う事もできず、横目に眺めつつも壕を掘って二、三人が入って指示を待っている。容赦ない爆撃や砲撃の中に待機するのは耐えがたい精神的苦痛だ。だがそれも歩兵の仕事。歩兵は歯を食いしばりながら命令を待つ。

 彼ら歩兵の傍らには戦車たちが同じく進撃の指示を待っている。

 更に背後には支援部隊である砲兵が今まさに相手陣地にめがけて砲撃を仕掛けている。歩兵の進撃を助ける為に、相手の砲を止める為に。

 今、ひとつの砲撃が敵の重要拠点を直撃し、にわかに敵が慌てふためいている通信を傍受できた。


「チャンスだな」


 司令部で息をひそめて機を伺っていた北アメリカ軍司令のアダムは、この時を逃して他にタイミングはないと直感していた。

 

「これより全軍進撃を開始せよ」


 歩兵たちは叫び声を上げてそれぞれの陣地から飛び出して銃弾と砲撃が飛び交う戦場を駆け抜けていく。戦車はエンジンがうなりをあげ、無限軌道が大地を踏みしめながらゆっくりと、歩兵を守りながら、また歩兵に守られながら進んでいく。

 今彼らが戦っている所は背後は海。進む先は有刺鉄線とクレイモア地雷で守られており、そこを抜けてもトーチカからの機関銃による制圧射撃が展開されており、歩兵だけでは抜くことが出来ない。もちろん敵の歩兵もおり、手榴弾やロケットランチャー、スティンガーミサイルによる射撃も侮れない。

 状況的に見ればアダム率いる北アメリカ連合軍は明らかに不利だが、先ほどの砲撃の成功によって敵は浮足立っている。その隙に工兵部隊が敵構築物の間近まで近づき、爆破処理を行う事に成功した。

 敵の機関銃による脅威はなくなった。

 何らかの抵抗はまだあるだろうが、砲兵部隊による火力支援がそれらを散発的なものにとどめてくれるだろう。

 今、歩兵部隊を邪魔するものは何もない。

 彼らは戦車と共に駆け抜ける。血と銃弾と叫びをまき散らしながら。

 

 一方上空では、敵味方入り乱れての戦闘機のドッグファイトが行われていた。制空権を争っている。南北アメリカ連合軍の戦闘機F-40は敵機の背後を取ろうとターンし、速度を上げて追い詰める。ロックオンを振り払おうと必死で敵戦闘機もスピードを上げるが、今更遅い。

 機関銃の射撃。

 命中。

 敵機は被弾し、パイロットが脱出して機体はそのまま機首を下げて高度をどんどん下げていく。行く先は地面。墜落。爆発。

 空中戦は圧倒的に北アメリカ軍が有利だった。戦闘機の性能の差と、パイロットの練度が段違いであり、また連携が非常によく取れていた事もあってあっという間に敵を撃墜へと追いやっていた。

 かくして制空権においては北アメリカ軍は完全勝利をおさめ、これもまた地上部隊の進撃の助けとなったのである。


 空からの爆撃がなくなった今、歩兵・戦車部隊は敵の散発的な抵抗を退けながらも徐々に侵攻を進め、最初の上陸地であった海岸から市街地へと進軍していた。

 市街地は遮蔽物や障害物が多く、隠れる場所には困らない。かといって砲撃をしても瓦礫が増えて余計に隠れる場所が増えるだけなのであまり意味がない。

 文明が進歩した現在においては、遮蔽物に隠れた兵士や戦車、罠等を見つける手段もあるので以前ほどの苦労ではない。それは敵も同じではあるが。

 市街地での攻防は三歩進んで二歩下がると言った具合で中々進撃速度を上げる事は出来なかったが、それでもじわじわと敵陣営を追い詰めて北アメリカ軍は更に進撃を続けていく。

 重要拠点を破壊、占領し、また先へと進む。

 敵陣営の支配する地域は開戦当初と比較してもう二割程度でしかなかった。

 敵司令部は目の前にある。味方兵士たちの疲労も溜まっているが士気も高い。

 あとは司令部に突入して司令官を捕虜にするか、殺してしまえばこの戦闘も終わりとなるだろう。

 アダムはそう思ってほくそ笑んでいた。


「……ロックオン警報! 司令部にミサイルが飛来してきます!!」

「何!?」


 レーダー網をかいくぐってこれるミサイルがあるとでも言うのだろうか? アダムは疑問に思ったが、最近開発されたステルス性能の高い巡航ミサイルがある事を思い出し、唇を噛んだ。


「対空砲火は!?」

「間に合いません!」

「総員退避せよ! 退避!!」


 叫んでいる間に、敵のミサイルは北アメリカ軍司令部の中心部へ正確に直撃し、司令部は爆発四散した。勿論アダムも爆発に巻き込まれ、死亡した。

 彼の目の前には何もない。ただ黒い空間が広がっているのみ。


 そして網膜に、GAMEOVERの文字が映された。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る