葬華
虚月はる
序章
鈴と、笛と、太鼓の音。祭囃子が聞こえてくる。
朱色の鳥居を潜れば、参道を囲むようにいくつも並んだ提灯と様々な出店たちが明かりを灯し、黄昏時の薄闇を淡く明るく照らしていた。年に数回の祭りに浮き足立った人々は、皆一様に楽しげに笑っている。
からん、ころん。からん、ころん。
心地よい軽快な音を立て、祭囃子を遠くに聞きながら、賑やかな夕闇の世界を歩く。何かに、誰かに誘われるように。その足は奥へ奥へと進んでいった。
人の行き交う参道を抜け、少し寂れた境内へ入る。
視線を落とすと鳥居と同じ朱色の彼岸花が一面に咲いているのが見えた。それは燃え揺らぐ炎のようで。今にも、消えてしまいそうで。祭りの終わり特有の寂寥感に似たものを覚えた。
ふと顔を上げれば、黒い浴衣に身を包み、頭部には祭りで買ったのであろう狐面がつけられている少年が、こちらに背を向けて立っていた。
『ねえ、』
その背中に声をかければ、視界がぐにゃりと捻じ曲がった。次の瞬間、気づけば地面には彼岸花が咲き乱れ、空間を隔絶するように続く鳥居が、尽きることなく真っ直ぐと広がる道に立っていた。視界には彼岸花と鳥居の朱、そして自らと少年の姿だけが見えた。まるで、この世はそれだけしか存在していない、かのように。数メートル離れた先に立っていた少年が、楽しそうにくるりと廻って。
『かくれんぼ、しようよ』
そう言って、闇の中に融けた。跡形も、無く。
『——きみは、だれなの?』
呟いたその声を掻き消すように、或いは応えるように、彼岸花が風に揺れた。
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