第2話 はじめての告白
小学校を卒業して数日たった日に
とある男の子が家まで尋ねてきたところから始まる。
その子は、1年生の時に同じクラスになり意気投合して
よく遊んでいた男の子Sくんだった。
途中から同じクラスではなくなったり、
男の子と遊ぶより女の子同士で遊ぶことが多くなったりしたけど
廊下ですれ違えば、互いにちょっかい出し合うような仲だった。
きっと私の心の片隅にも「好き」という感情があったのだろうが
それを表現するには幼すぎたのかもしれない。
まだほんのりと卒業式の余韻も残るうす曇りの昼間に
Sくんは、私を訪ねてわざわざやってきた。
いつもと雰囲気の違うSくんに私もすごく緊張した。
「君のことが好きです」
きっと彼も私も人生初の「告白」だった。
今もあの緊張感がよみがえるということは
お互いの緊張は計り知れないものだったに違いない。
「ありがとう」
私は、これしか言えなかったし
これからどうしたら良いのかも想像がつかなかった。
Sくんは、ホッとした面持ちで
「じゃぁ」
と手を振り、さわやかに帰って行った。
颯爽と自転車をこいで去っていく彼の背中を見ながら
”今のは何だったんだろう”と思った。
「付き合う」という言葉も知らなかったような幼子な私に告白した彼。
彼もまた、そのあとの展開は想像していなかったのかもしれない。
翌日から中学へ入学するまで何度も彼は私に会いに家を訪れた。
何をするでもなく、母が出してくれたお菓子を食べたりするだけだった。
私個人の部屋があったわけでもないので居間で過ごす不思議な時間だった。
母がパートに行っていない時に たまたま2人きりになった時があった。
いつもは妹がいたり、母がいたりするのだが なぜかその日は2人だけだった。
ふとSくんが
「膝枕してくれる?」
と言った。
断る理由がないし、膝枕の何が良いのかがわからなかったので
膝を貸すことにした。
沈黙した時間が10分ほど続く。
自分の膝の上に他人の頭を乗せるなんて、
8歳離れた妹にしかしたことがないのでとても緊張した。
たった10分ぐらいが、1時間にも2時間にも感じた。
膝枕を終えると満足したようにSくんは帰っていった。
”Sくんは何がしたかったんだろう?”
当時の私にはとても不思議なことだった。
男性にとってそれは憧れにも似た行為だったことを知る。
その日を境にSくんは私を訪ねてこなくなった。
気付くと入学式が終わり、中学校生活が始まっていた。
学校でSくんを見かけることもなく、あのドキドキもだんだん忘れて
日々忙しくしていた。
「そういえば、Sくん見ないな」
私の記憶違いかもしれないが、
Sくんは中学受験をして別の中学校に行っていた。
「はじめての告白」は、私の心の奥底で薄れずに記憶に残る淡い出来事だった。
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