マカロニサラダウエスタン
竜宮城 司
第1話 ハッピーガールズ
ここは酒場。丸太で作られた壁には弾丸で付けられたであろう焦げた穴が其処らに空いている。一階は酒場であるがまるでカジノの様に皆々がトランプゲームに勤しんでいる。二階は宿屋で吹き抜けの中でベッドやソファーが乱雑に置かれ賭けに負け落ち込む者や娼婦などを買って一緒に眠る者などがほとんどだ。
そしてそこに一発の銃声音が店内になり響く。
「てめぇ、さっきイカサマしただろ!」
テーブルにうずくまった男は答える事はない。テーブルには真っ赤な血を噴出している死体が転がっている。目は白目を向き激痛を食らった顔で硬直している。
「よせよせ、お前が頭をぶち抜いたから返す言葉もねぇだろ」
銃を撃った右側の男に向かって左側の男が肩を叩きながら喋りかけた。
「ハハハ、そりゃそうだ」
笑い声の中で次は二発の乾いた音が響いた。右側の男は銃を持った手を撃ち抜かれ左側の男が左膝を撃ち抜かれて床に手を付く。
「うるせぇ、人が寝てる間に何騒いでるんだ」
「て、てめぇ。いきなり何しやがる!」
左側の男が右手の銃を二階へ向けるとそれよりも早く閃光が飛んで来る。その弾は右手に命中して指と赤い花火が飛び散った。
男の右手が血みどろになって銃を落とし膝も落とす。
「何するって? ここは何が起こっても文句は言えねぇ世界だろ? 仲間の頭がトマトみたいになっても犬が遠吠えするが如く普通の事よ。さぁ、お前も祈りを済ませろ。もう一ゲーム待ってられるほどに私は甘くはないよ」
二階にはテンガロンの娘が立っていた。そして二人に向けて数発の破裂音が向けられた。
ここは火星。右を向いても死体。左を向いても死体。後ろも前も死体の山。これはそんな世界でのお話。
「
長身で赤いジャージを着た胸の大きなな赤い髪でヘアスタイルは後ろにお団子一つの娘が頭を掻きながら言った。
「構わないじゃないか。どの道、賞金首だ。イカサマのフォード兄弟。ポーカーでイカサマといちゃもん付けて金を巻き上げる汚い奴らだ。後の一人は誰だかしなねぇが。まぁ、そいつは運が悪かったのさ。それに俺がやった訳じゃないだろ」
さっきの子とは真逆な背の小さなテンガロンハットにビキニの上半身にデニムのローライズ、靴はウエスタンブーツを履いたそばかすがある金髪ツインテールの子が笑って返した。
「姉さん、寝起きの悪さ何とかした方が良いっす。気に食わないからかたっぱしに殺すのは人道上良くないっす」
「人道も何もないさ。この星は無重力なのさ。法律も金も命もね」
「……、ホントにここの人は物騒な所っす」
肩を落とすジャージの子に姉さんと呼ばれた娘は頭を叩いて、
「とりあえず、
公安。この星では警察の意味ではなくあくまで地域の保安を担当する部署。賞金稼ぎなどに賞金首などを紹介する場所でもある。
統一されてログハウスの様な木造建築。観音開きのドア。壁には幾つもの賞金首や探し人などの張り紙が無造作に貼り付けれれている。奥にはカウンターがありそこにはショットガンを手元に置いた薄茶色のシャツにズボンと胸に星型のバッチを付けた保安官が椅子に座っている。
「やっほー。良い仕事入ってる?」
カウガールが笑顔でドアを開けその真逆の嫌な顔をした保安官が、
「げっ! アンラッキーガールズ」
「その呼び方辞めろ」
カウンターに立ってる保安官にカウガールが小突く。
「で、何か良い仕事ないっすか?」
ジャージの娘が首を傾げて尋ねた。
「仕事はあんたらで勝手に探してくれよ。あんたらの噂は結構聴いてるんだ。強盗事件有れば犯人殺して奪った金をねこばば、賞金首を見つければ周りの人間も皆殺し。付いた異名が不幸を運ぶ少女達、アンラッキーガールズ」
「だから、その呼び方辞めろって。だいたいこの星じゃ死ぬのは当たり前だろ? 今更俺達の責任にされてもねぇ」
カウガールが跳ね返す。
「だったらまともな仕事してみろってんだ。だいたい昼の事件も聞いてんだぞ。お前ら危険過ぎるんだよ」
保安官が怪訝な顔で話す。
「うるっせぇなぁ。女一人で出来るまともな仕事なんてねぇだろうが。」
「現在二人っすよ」
ジャージの娘が壁に貼ってある賞金首を見ながら返した。
「黙れ、蝶子」
「嫌っす」
蝶子と呼ばれた赤ジャージの娘がすぐさま反応した。ため息をしてカウガールが続けて、
「第一、まともな仕事っつたら炭鉱で重労働かバーで安月給のウエイトレス、後はまとまった金と言えば売春婦くらいなもんだ。絶対嫌だね」
蝶子はカウガールに指を指して、
「それに姉さんが真面目に働くなんて無理な話っす。寝起き悪いし、性格悪いし、貧乳だしで」
「貧乳は余計だろ」
カウガールは胸を両手で隠す。
「仕事に寄っては大いに関係あるっすよ」
蝶子がジト目で返す。
「返す言葉がねぇぜ……」
カウガールは落ち込んだ表情をした。
「……、あんたら思った以上に頭おかしいな」
保安官が呆れ顔だ。
「そうかい? 頭狂ってるから賞金稼ぎに向いてると思うが?」
カウガールが得意げに返す。
「そりゃそうだ。さてとミルクと蝶子と言ったけ? 気を取り直そう。思った以上に面白い会話だったから気に入ったよ。どんな仕事が望みだ? これも仕事だから紹介するが?」
ミルクと呼ばれたカウガールは、
「そうだなぁ。出来るだけ賞金が高いほうが良い。最低三十万は欲しい」
「姉さん、今週はギャンブルでかなりすったからっすね。取っ払いでも金が欲しいっすよね」
蝶子は片手をパタパタして財布が空っぽのジェスチャーをする。
「黙れ」
「はいっすー」
ミルクは蝶子を睨み蝶子は目線を上にして返した。
保安官はファイルを取り出すとそこから近くに居る賞金首張り紙を探していた。
「んー、実績的に殺人犯系が良いよなー。ある程度手荒でもあんたらなら大丈夫か……」
「お、これは悪くない。誘拐事件解決。犯人懸賞金二十万の賞金首。報酬は三十万プラス懸賞金。ここからは近場だし、早ければ一週間で出来る」
ミルクは壁に張り出されている張り紙を見て話した。
カウンターに居た保安官は、
「ま、待て待て。確かに近いが誘拐事件だ。人質を助けつつなんてあんたらの柄じゃねぇよ」
ミルクはカウンターをドンと両手で叩くと、
「うるせぇ、だからやるんだよ。ドンパチ専門でやってるから妙な噂が立つんだ。ここらで一丁人助けでもしたらアンラッキーガールズなんて言われなくなる」
「で、でもよぉ」
「うるさい」
ミルクは保安官にに銃口を向けた。
「じゃあな。来週には人質を救ったラッキーガールズって周りで噂になってるだろうさ」
ミルク達は上機嫌で去っていった。
赤茶けた荒野の中で二人を乗せた馬車はガタンガタンと道を行く。周りには何も無くてただひたすらに岩と赤土と植物と言えばサボテンに唐草だけ。空は真っ青で雲一つない。馬は舗装されてない道や土煙にも負けずに力強くも走り続ける。
「で、姉さんどうするっすか?」
蝶子の問いにミルクが答える。
「どうしたものかねぇ? 人助けってのは得意じゃないからねぇ。ほら、三年前の事件も人質殺しちまったし。なぁ、蝶子」
蝶子は手をおでこに付けて、
「だと思ったっす。あれ以来、評判が逆鰻登りに転落してるっすからねぇ。取りあえずは姉さん、手出さないで下さいね」
「なんでそうなるんだ」
ミルクの問いに蝶子は指を突きだして銃の方を指すと、
「だって姉さん。すぐ殺しちまうでしょ。この類の事件は慎重にしなきゃだめっす。とても姉さんには出来ないっす」
「ッハ、やってみないと分からないだろうが」
「絶対無理っす。百万かけても良いっす」
する蝶子の言葉にミルクの目の色は輝き声も高く、
「本当に?! 百万くれんの!?」
「あ、余計な事言っちゃったっす」
「よし必ず人質救出して百五十万手にいれっぞ」
「ちょっと、ちょっと賞金額まで総取りは酷いっすよ!」
ミルクの発言に蝶子は慌てた。
「お前さんら次の村で降りるのかい?」
ミルク達に声をかけたのはスカーフでほっかむりをした初老の女性だった。
「そうだが。何か有るのかい?」
ミルクがその問いに答える。
老婆はその細い目で二人を見つめると、
「いいんや。あそこは小さなギャングがしきっているだけよ。下手に行ったら殺されちまうだけよ」
ミルクは腕を組み自慢げに、
「ッハ、ギャングが怖くて賞金稼ぎが出来るかっての。こっちたらギャングの2つか3つ叩いてるんだよ」
「正確にはもっと叩いてるっすけどね」
蝶子が反応した。
「そうかいそうかい。気を付けていきなよ」
老婆が満足げに首を縦に振った。
ミルクと蝶子は途中で別の村に降りた。この星でも馬以外にも移動手段が有り二人はこの街に有る列車に乗るために降りたのだ。
そして二人は駅に居る。赤レンガ作りでモダンな作りだ。屋根は緑の瓦。建物の中央には大きな時計が有り所々に細かな彫刻が有って中々美しい。線路は五本有りそれぞれに大変大勢なお客が居る。ガヤガヤ声が聞こえる。
「やっと落ち着いて眠れるねぇ」
背伸びしながらミルクは蝶子に話しかけた。
「そうっすね。これから三日間の路線旅っすから、せっかくだから一等車両の席を買ってふかふかベッドで寝ましょうかね」
「お、奢ってくれんの?」
ミルクは蝶子を横目に見て言うが蝶子は目を合わさずに、
「だったら姉さんは三等席で雑魚寝でもして下さいっす」
「冗談だって。俺だって暖かいシャワーとベッドが欲しいよ」
ミルク達は一等席を買って久しぶりの緩やかな時間を楽しむ予定だった。
「ん?」
ミルクは一等列車の廊下で見覚え有る顔を見つけた。
「おい、婆さん。馬車で有った婆さんじゃないか」
「あやまぁ」
そのお婆さんもこっちに気付いた様子でにっこりと笑った。
「何だよ。まさか同じ列車とはな。あれ? もしかしたら同じ村に行くのかい。奇遇だねぇ」
「そうだねぇ。奇遇だねぇ。奇遇だねぇ」
ミルクの問いにお婆さんも首をコクリコクリとさせて返した。
「そうだ。ちょっと酒でも飲みながら話さないかい? 一人旅なんだろ。暇つぶしに昔話でも話してくれよ」
「あぁ、良いよ。良いよ」
ミルクの提案にお婆さんは両手を振って遠慮した。
「あ、あの。姉さん、酒はちょっと……、辞めて頂けませんかねぇ」
蝶子はミルクに向かって囁いた。
「あぁ、そうだったねぇ。まぁ、良いさ婆さん俺は付き合えないから珈琲とかで良いかい? 今は禁酒中なんだよ」
ミルクは頭を掻きながら謝る。
「ああ、良いよ、良いよ。気にせんで、わしも年でお酒は辛いからねぇ」
「そうかいだったら良かった」
そしてミルク、蝶子とお婆さんで食堂車に向かったが、
「ん?」
ミルクと蝶子の目線の先には同じ黒いバンダナで口を隠した三人が食堂車に走っていくのが見えた。
そして二人はピンと来た様子で、
「悪いな婆さん。ここから先はちと危ないから自分の席に戻ってなよ。蝶子、良い手らなしだ。行くよ」
「了解っす」
ミルクはニヤリと笑い、蝶子は手首と足首をバタバタしだした。
「静かにしろ! 金を出せ! 撃ち殺すぞ!」
簡単な単語でその席の全員に全てが予想できた。彼らは列車強盗である。場には三人の両手に拳銃を構えた黒いバンダナで口を隠した男達が居た。
「さっさとしろ! 出ないと片っ端から撃ち殺すぞ! おい、そこの子供からやれ。子供の死体見たら流石にみんな気分悪くなるだろう」
リーダーらしき一人が右の共犯者に声をかける。そして命令された男は子供に向けて銃口を向けると赤い水が飛び散った。
その右側に居た男の。
「はいはい。強盗さんご苦労さん。こちら賞金稼ぎハッピーガールズでーす。大人しくしたら両足で許す。騒ぐなら頭ぶち抜いて殺す。だから大人しくしていろ」
そこに現れたのはやはりミルクと蝶子であった。ミルクは銃を構え蝶子はどこから持ってきたか分からないソファーを持ち上げていた。
「姉さん、ここは自分に任せて欲しいっす。こんな狭い所じゃ姉さんが銃を乱射した時のとばっちり半端ないっす」
蝶子はミルクを横目で見て提案した。
「仕方ないねぇ。その代り賞金は折版だよ」
ミルクも横目で銃をしまう。
「まぁ、かまわないっすよ。
さて、強盗さん自分は大人しくしてたら腕の骨だけで許すっすよ。手荒な事は好きじゃないっすからね」
その挑発を受けたリーダーはキレ気味に、
「ふざけんじゃねぇ! こっちたら仲間一人殺されてんだ。このまま引き下がれるか!」
それを聞いた蝶子は冷静に、
「おやおや、これから何人も殺す予定の人がそんな事言うっすかね。そう言うの端から見てると悲しいっすよ」
リーダーは挑発された様子で、
「うるせぇ、おい、二人かがりで行くぞ。相手は銃を持ってねぇからやっちまうぞ。その後はあそこでほくそ笑んで居る奴だ」
「あん? 俺の事か?」
ミルクがそれに反応した。
「他人の心配してたら倒しちゃうっすよ」
蝶子も反応した。
「うるせぇ、うるせぇ。どうせそのソファーで銃弾を防ごうって気だろうがこっちにはショットガンもあるんだぜ。これでお前のソファーごと一発で……」
「いつから盾にするって思っていたっすか?」
蝶子の手にはもうソファーは無かった。そしてリーダーの横では鈍い音。
リーダーが横を向く。そこにはソファーで顔をぶち抜かれていた仲間の姿が哀れにも倒れていた。
「だから他人の心配をしてる場合じゃないって言ったっす」
すると前に居たはずの蝶子がそのリーダーの後ろに回り込んで居た。そして蝶子は足を蹴り上げて見事にリーダーを床に叩き付けられた。
「どうっすか? 生きてるっすかー? まぁ気絶させるつもりだったから死んではないっすけどね」
男からは返事はない。口からは泡が噴出しており目も白目を向いている。
「お嬢ちゃんら強いねー」
ミルクが後ろを振り向くとさっきの老婆が見ていた。
「おうよ、護衛任務なら任せなって」
ミルクは得意げに返した。
「おや、そうかいそれは心強いねぇ」
手早く縄で三人を締め上げた蝶子は手でほこりを払いながら得意げに、
「お、さっきのお婆さんじゃないっすか。見てたっすか? 照れるっすねー。自分あんなのめじゃないっすよー」
「たりめぇだ。あんな程度で死んでたらこの星で生きていけねぇよ」
ミルクがジト目で返す。
「まぁ、そうっすけどねー。ちょっとは褒めて下さいっす。あ、そうだ。臨時収入入った事だしさっきの続きで食事でもどうっすか? 自分、運動したんでお腹減ったっす」
蝶子がお腹をさするとミルクはニヤリとして、
「お、良いんじゃね? おい、婆さんどうだい? 蝶子の奢りだってさ」
「誰もそんな事言ってないっすけどまぁ、三人分くらいなら良いっすよ」
蝶子は笑顔でお婆さんを見てお婆さんも両手で拍手をして、
「まぁまぁ、良いんかね? じゃあ、言葉に甘えようかねぇ」
食堂車。中は美しい木目と彫刻の高級な作りである。ミルクと蝶子に老婆は車両の中央にあるカウンターバーに揃って腰を下ろした。
「ミルクとケーキ」
「珈琲とケーキっす」
「わたしはコーヒーだけにするかねぇ」
「相変わらず姉さんがミルク頼むのはちょっとウケるっす。いくら飲んでも伸びないし、大きくならないっすよ」
「黙れ。ただ好きなだけだ」
蝶子が手で口をおさえて小馬鹿にするとミルクが返した。
「にしてもお嬢ちゃんら強いねぇ。賞金稼ぎだって? すごいねぇ」
「まぁな。伊達にここで生きてないってやつさね
ミルクはケーキを一口食べてそのミルクを一気に口に含むと、
「あー、上手いねぇ。やっぱり甘いケーキと牛乳は最高だね」
「ミルクとか本当に子供っすね」
「んだと、蝶子。決めた酒飲む」
「あー、ごめんなさい。ごめんなさいっす」
蝶子は慌てて頭を下げた。
「二人とも本当に仲が良いねぇ」
二人の話に老婆は微笑ましい顔だった。
「あ、そうだ。婆さんどうせここで有ったも何かの縁だ。遺言くらいは聞いとくぜ」
「ちょ、姉さん。いきなりその言葉は語弊を産むっす」
ミルクの言葉に蝶子が小声で返す。
「ああ、そうだね。家の家訓でね。『遺言は絶対に守れ』ってのがあるんだ」
「ほう、そうかね」
お婆さんは首をコクリとして聞いた。
「ああ、遺言ってのはそいつが最後に残す約束だろ。そんな言葉は人生で一番大切な言わば言霊なんだ家系の問題でよ。死に際は大切にしろって事だな。まぁ、生きていくには特に関係もない話だが何故か律儀に守っちまうだなこれが」
「ほうそうかい」
「で、何か遺言あるかい。約束は守るよ」
ミルクは得意げに両腕を組んだ。
「そうだねぇ。こんな見ず知らずの老婆に話しかけてくれるだけでも大そうな事なのにお願いまで聞いてくれるとなるとねぇ。そうさねぇ。これからあんたらがやる仕事の成功をお願いしようかねぇ。どうか助けてやってよねぇ」
「お、そんな事で良いのかい? 本当に優しいねぇ」
ミルクはお婆さんの答えに笑顔で返す。
三人は車内で楽しく談笑していると駅にはすぐ着いた。
「じゃあな。婆さん達者でくらせよ」
「ああ、あんたらもね」
ミルク達はお婆さんと別れ村に向かった。
寂れた村。以前は炭鉱だったのだろう。錆びた採掘器具や鉱石のクズやたがちらほら見える。馬は痩せ。人は死んだ魚の目をして特に動きもせずに座り込んで居る。建物には所々がくらびれてひびやら穴やらが有る。まるで死んだ村。そんな印象を二人は持っていた。
「なんか死んだ村って感じだねぇ」
周りを見渡しながらミルクが言った。
「初っ端から酷い言葉っすね。ここの住んでいる人たちの事も考えて欲しいっす」
「ッハ、俺は殺意の籠った視線以外は気にしねぇ」
ミルクが無い胸を張って返す。
「相変わらずの意味不明な堂々ぷりっすね」
蝶子が思わず肩を落として答えた。
「これからどうするね?」
「取りあえずは人に聞き取りっすね」
蝶子が周りを見渡すと一人の男性が目に入った。当たり前の様に顔に死相が出ていた。
「あのー」
「おい、おっさん。賞金首ってのは何処に居る?」
ミルクが銃口を突き付けて聞いて来た。
「ちょ、ちょっと行き成りっすか?!」
蝶子が慌てて止める。
「な、なんだ。あんたら、突然に」
おっさんが驚いて後退りをした。
「良いから話しなよ。こっちたら百五十万かかってんだ」
ミルクが銃をちらつかせる。
「解った。解ったから銃をしまってくれ」
「だったら早く教えるんだね」
ミルクが銃をしまって答えた。
「賞金首なら炭鉱の四番洞窟に居るよ。看板が出てるから見つけるのも簡単だろ。
てか、あんたらその賞金首を狩ろうって訳じゃないよな。やめとけやめとけ。ってあれ?」
ミルクと蝶子はおっさんに背を向け去って行く。
「炭鉱の四番洞窟だな。ありがとよ。おっさん」
「おい、待て。あの賞金首は、」
おっさんの言葉も聞かずに二人は炭鉱に向かった。
炭鉱。ここにも錆びた採掘道具や石ころがある。ただ違うのは人も居なければ馬すらもう居ない事であった。
「あのおっさん何か言ってなかったすか?」
蝶子が思い出したかの様に切り出した。
「さぁね。まぁ、話なんて八割無視してたら良いんだよ」
「うあー、超適当っすね」
「処世術って言って欲しいね。話なんてわざわざ全部聞いてたら切がね」
ミルクは歩きながら空を向いて蝶子に返した。
しばらく歩くと一つの洞窟に生活感がある食料品やらゴミクズやらが見えた。ついでに死体も二、三体転がっていた。
「どうやらここの様っすね」
蝶子が小声で聞く。
「ああ、百五十万、百五十万」
同じようにミルクも小声だ。
「本当に人質は殺さないっすよね。最悪、全部パーっすよ」
「え! マジで?! 面倒くせー」
「ちょっと」
「解ってるって。まぁ、お手並み見てなってさ」
ミルクはそっと歩みを進めた。静かにそして集中して。しばらくするとほんのりと明かりが見えた。そこには酒を飲んでいる男と怯えている少女。
「まったくよぉ。ボスはなんで俺を認めてくれねぇんだ。毎回毎回裏方ばっかり。俺だって表に出たらもっと活躍できるのによぉ。お前もそう思うだろ?」
「す、すいません……」
その少女は黒いセーラー服を着て髪はピンクのロング。右目には泣きホクロがあり胸が大きかった。
それを見た酔っぱらいの男は、
「おぉ、嬢ちゃん胸でかいなぁ。もっと近づいて良い」
「い、いやです……。すいません」
セーラー服の娘は謝りながら後ずさりをする。
「良いじゃねぇか。減るもんじゃねぇし」
「あほうが、そんな顔だったら精神的に減るっての」
酔っぱらいが振り向く前にミルクはトリガーを引いた。
「あれ? 割とあっけねぇ。こんなもんでよかったのか? 嬢ちゃん大丈夫か? 助けに来たぜ」
ミルクは銃をしまい少女に話しかけた。
「すいません。ありがとうございます」
セーラー服の娘は謝りながらお礼を言う。
「良いって事よ。で、お名前は?」
「すいません。ニートって言います」
ニートは再び頭を下げる。
「そうかい。手配書に書いてあった通りの名前だね。よし、これで百五十万は俺のものだね」
「すいません。何かいました」
「い、いや。気にするな」
ミルクとニートは手をつなぎ歩き蝶子の待つ洞窟の入り口に出て来た。
ミルクは声を跳ね上げ、
「よお、約束通り百五十万よこせよ」
「開口一番それっすか。しかも被害者さんの目の前で」
蝶子はあっけらかんと返す。
「あ、あのすいません。私はこれからどうなるのでしょうか?」
ニートはあたふたした様子だった。
「安心しな、ちゃんと村に返してやるさ」
するとニートはよりあたふたした様子で、
「すいません。それ本当でしょうか? あの出来たら別の所に……」
「何言ってんだ。村に戻さねぇと賞金が貰えないじゃないか」
ニートは謝りながら提案されたがミルクに却下された。
「なんか事情でもあるっすか?」
「すいません。何もないです」
蝶子の問いにニートは悲しげな表情を見せていた、
帰り道。三人で歩いている最中に蝶子はミルクに近寄り、
「ちょっとちょっと姉さん。なんかおかしくないっすか?」
蝶子の問いにミルクは興味無さげに、
「そうかい。まぁ、俺達の仕事はあいつを助け出して村に返すまでが仕事だ。それ以上は関係ないね」
蝶子はそれ以上話さなかった。ミルクがこういう人間と知っていたから。
村に戻った三人。すると村人全員が集まっていた。
ミルクはうかれた様子で、
「お、みんなでお出迎えか」
するとミルクの前に一人の杖をついた老人が来てこう言った。
「あんたらなんてことをしてくれたんだね」
「何って?」
ミルクは聞き返す。
「ギャングの一人を殺しただろう。本当になんてことをしてくれたんだね」
「何言ってるか全然分からねぇなぁ」
ミルクは不機嫌そうに返した。
「この村は炭鉱で昔は栄えておった。村人もたくさん居て、それなりに集客も出来ていた。この娘が来てからと言うもの炭鉱が枯れ、村は寂れこの様だ。次第に保安官も雇えなくなり悪者どもがこの村を襲うように」
「だから?」
ミルクは不機嫌そうに再び返す。
「そんな時だ。小さいがギャング団がこの村にやって来た。親玉はこういった。『わたしたちに従いなさい。そうすればこの村を守っていやる』と」
「で?」
ミルクより不機嫌な顔をした。
「まだ分からんか。この村はギャングに逆らったら終わりなんじゃ。お前さんらは余計な事をしてくれたな」
老人はニートの腕を掴むと、
「この娘の事情は風の噂で聞いた。所々で不幸をまき散らして居ると言うものだ。ある所は強盗に襲われ、ある村では大火災が起きたと言う話だ。こいつは不幸を呼び寄せる。今回の事件が良いあり様だ。せめてものお詫びに夕方にこの娘を処刑する。どうせ身寄りもない娘だ。死んでもかまわんだろ」
「ちょっと、それは完全にこじつけじゃないっすか?」
「蝶子」
蝶子の話にミルクが割って入った。そしてニートに近寄ると、
「ニート知ってたのか?」
「す、すいません。私が悪いんです」
ニートはまだ謝りながら返す。
「お前はそれで良いのかい?」
「すいません。良くないです。良くないですが……」
ニートはその場に泣き崩れた。そして、
「すいません、すいません。全部私が悪いんです。私が……、私が……」
涙を流すニートにミルクにかけた言葉は、
「それがお前の遺言かい?」
そしてミルクは去って行った。蝶子を連れて、
ニートの処刑二時間前。ミルクと蝶子は村の安宿に泊まっていた。
「姉さん良いすか?」
蝶子が声を荒げて言った。
「良いって何がだい?」
ミルクは反転して銃の手入れをしながら冷静。
「だってあの子殺されちゃうんすよ。何にも悪いことしてないのにそんなの可哀想っす。自分悲しいっす」
「何言ってるんだい。ここでは死ぬも生きるも自分次第。死にたいなら勝手に死なしてやった方が良いだろ」
蝶子とは正反対にミルクは至って冷静だった。
「あれ絶対本心じゃないっす。あの子、本当は生きていたいっす。姉さんだってあの子のこと解ってるでしょ」
「くどいね。いい加減にしな!! だいたいあの子を助けて何の得があるって言うんだい。俺達には関係ないことだろ」
ミルクの怒号に蝶子は声を小さくして、
「姉さんあんまりっす……」
その後しばらくの沈黙があり、二人の間に気まずい雰囲気が流れた。そしてミルクが、
「さてと、せめてもの悔いを残さないためだ。あいつの死にざまを見に行くか」
「はいっす……」
ミルクは自分の思っている以上に冷徹な人だ。蝶子はそう心の中で思った。
ニートの処刑まで五分前。広場には人が一人分の高さの木製で出来た床と柱に首吊り用縄。柱近くの三つの中でスイッチが有り。どれかがその縄と連動し床が外れるシステムである。
そこには目が死んだ大観衆とミルクに蝶子の二人が立っていた。二人の周りには万が一を考えてなのか屈強な男達が立ちふさがっていた。もしも銃を撃とうものなら即座に感ずかれるであろう。
「これより罪人ニートの処刑を行う」
老人が声を張り上げて言った。
会場は妙な静まりと気持ち悪いほどの重い雰囲気が漂っていた。そこには一人だけ麻袋を被されたニートの泣きじゃくる声だけが響いてる。
泣くニートの横に老人が近寄り、
「ニートよ、何か言い残す事はあるか?」
「すみません、すみません。助けて下さい。助けて下さい」
「そうか、助けて下さいか。では少々早いが処刑を始める」
村の若い者が三人スイッチの前に立つ。そして老人が杖を上に掲げて、
「それでは処刑開始!!」
老人が声を高めて杖を振り下ろすとスイッチが同時に押されてニートの下にある床が外れる。それと同時に縄が張る音が会場に響き渡った。
会場が騒然となった。それはニートが処刑された歓喜の声ではない。何故かニートの縄が切れて床下に落ちたからだ。
「な、何が起きた!」
老人が目を丸くして言った。
「こ、こいついつの間に!?」
屈強な男の前には閃光の様な速さで銃を抜き取りなおかつ弾を縄に当てたミルクの姿が、
「姉さん!」
蝶子が喜びの声を上げる。
「貴様ら何をするんだ」
屈強な男が襲おうとするもミルクが銃を向けると黙り込んだ。
「まぁ、俺に逆らえるくらいならギャングを倒せてるだろうなぁ」
薄ら笑いをしているミルクは次に真面目な顔をすると、
「聞け、お前ら! 俺はさっきこいつの最後の言葉を聞いた。『助けて下さい』とそして俺は遺言を守る女だ。だからこいつの助けた。もしもお前らがニートに手を出すんだったら俺を敵にすると思え!!」
それに応答する者はいない。それだけの勇気があるのなら彼らはこんなていたらくになってはいないからだ。そしてその隙に蝶子はニートの前に出て、
「ニートちゃん。助けに来たっすよ」
そこには何が起きたか分からないニートの姿があった。蝶子はニートの顔に被さってる麻袋を取ると、
「大丈夫っすか?」
「は、はい。すいません」
ようやく状況を理解できた様子のニートだった。
村から馬車を奪ったミルクと蝶子にニートは荒野を走る。
蝶子は不思議そうに、
「そう言えば、あいつに賞金かけたの誰っすかね?」
「さぁな、でもこんな寂れた村でも少しは優しさがある人間が居るってことさね」
ミルクは知っていた。あの電車で出会った老婆があの観衆の中で頭を下げていたのを。
終
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