僕と上田さんのマイズナーテクニック

積地蜂 密(つみちばちみつ)

「幽霊なんてものを信じている奴はみんなアホだろ」

 友光は言った。

「え?」

 僕が返す。

「本当に幽霊なんてものがいると仮定しようか」

「うん」

「本当に幽霊なんてものが存在するのなら、いずれは存在の証明が出来るはずだ。何故なら本当に存在しているのだから」

「うん」

「でも現在の科学では証明できていないな」

「うん」

「おかしいと思わないのかな?」

「何が?」

「人類は飛行機で空を飛べて、50年も前に月にまで行って、インターネットという超便利なものを生み出して、数万キロ離れた所と瞬時に通信が可能で、そんな魔法の様な科学力を持っている。幽霊なんてものが本当に存在するのなら、科学でその存在の証明位は可能なレベルなんだよ。本当に存在するのならね」

「幽霊は科学では証明出来ないんでしょ」

「だからその思考回路がアホなんだよ。幽霊イコール科学では証明出来ないものとして思考が停止しているんだ。決して幽霊と科学は相容れないものじゃないんだよ。相容れないってなんで決まってるんだよ。もし本当に幽霊が存在するのなら、科学がその存在を証明出来たっていいじゃないか。ここまで高度な科学を持ってしても証明出来ないものは、いないと考えるほうが妥当だということに気付いていない」

「まだそこまで科学が発展してないんじゃない?」

「やれやれ。じゃあ、現在の科学では証明出来ないけど幽霊は存在する、と仮定してみよう。存在するイコール物理的にいるってことだ。だとしたらいずれ科学は100%その存在を証明できてしまうよ。昔からしてみたら夢のようなことまで可能にしてきた科学なんだから。幽霊いる派の連中は何故か科学では永遠に幽霊を捉えられないと考えている。だからアホだなって思うんだよ。幽霊が実際に『いる』とか『存在する』ってんなら『なんらかの力学が働いて存在している』ってことだというのがわかってない」

「うーん」

「幽霊を信じてる平安時代の人がさ」

「うん」

「現代に連れて来られたら、幽霊はいないなって理解すると思うよ」

「なんで?」

「平安時代の人間にスカイプなんて使わせてみろよ。これ、中国にいる人と会話してるんですよなんて言ったら腰抜かすよ。映画の『アバター』を3Dで見せてみろって。幽霊どころの騒ぎじゃないよ。そんな科学力でも解明出来ないなら幽霊なんていないな、って平安時代の人のほうがあっさり納得すると思うな」

「まあね」

「霊感があるとかいう人いるじゃん」

「うん、いるね」

「本人は確かに見えてるのかもしれないけどさ、そんなものは脳のエラーだろ。ただドーパミンの分泌が多いだけだよ。なんでそこを疑う事をすっ飛ばして霊感が強いとか言っちゃうのかな? 現代人のくせに」

「まあ、一理あるけど」

「金縛りにあって誰かに首を締められる、なんて体験は俺でもある。幽体離脱もある。でも俺はそれを心霊現象だなんて思わない。脳がそういう錯覚を起こさせているだけだ。心霊現象とかいう外的要因ではない。断言出来る。幽霊だって見たことがあるぞ。子供の幽霊だったな。まあもちろん幽霊なんかじゃないぞ。幽霊のような幻覚だ」

「へー」

「霊感があると思っている人は、同じ体験をするとそれを幽霊だとか心霊現象だとか思っちゃう訳だ」

「うんうん」

「……だから、さ」

「うん」

「だから……」

「これもドーパミンが出過ぎてるだけってこと?」

「……うん」

「二人揃って?」

「……うん」

「友光と僕、二人揃ってドーパミンが出過ぎてて同じ幻覚を見てる?」

「……」

「もう! 認めなさいよ! 私の声聞こえてるでしょ!」

 と、幽霊の上田さんは言った。

「いや、聞こえない!」

「聞こえてるじゃん」

「どうすれば認めてくれるの?」

 上田さんが言う。

「沢田、つねってくれ」

 その上田さんを無視して友光が言う。

「え? なんで?」

「これは俺の夢なんだ。きっとそうなんだ。だから痛くなんかない。殴ってくれたっていい。遠慮はいらないぞ。さあ!」

 本人の希望ならしょうがない。僕は友光の腹に一発入れた。

「うっ」

「上田さん、それでお願いって何?」

 僕は悶絶する友光を横目に上田さんに向かって問いかけた。

「さ、沢田よ……み、みぞおちはやめい……つねろと言ったはずだ……」

 友光の声は本当に苦しそうで、みぞおちはやり過ぎたと少し反省した。

「実は……頭をかち割って欲しい人がいるの……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る