TRICK OR TREAT OR…?
@akarixyuri
第一幕 Ⅰ
鐘には二種類の鐘が存在する。
始まりを告げるモノと終わりを告げるモノだ。
では今から鳴るのはどちらの鐘?
夜の九時、この部屋にある大きな大きな時計は鐘を鳴らします。
今から鳴るのはどちらの鐘?
間もなく彼らは目を覚まします。
どちらの鐘が今から鳴る?
答えはカンタン。
起きるのだから、始まりの鐘。
…だけど、本当に理由はそれだけ?
これは彼らにとって始まりの物語。
彼らと彼にとって、これは始まり。
だから、鐘は鳴る。
だから、カンタンな理由。
『彼はここで泣いていた』
針は静かに、しかし確実に、音を立てる。
ゆっくりゆっくり、だがやはり確実に進む。
その針…秒針がローマ数字で表記された「ⅩⅡ」まで来たその時に、二人の兄弟…短針と長針も揃って同じ数字を指し示した。
何の感情も持たない機械は、カチッと無機質な音色を奏でる。
それを追うかのように、鐘は鳴った。
暗闇が支配する、この部屋で。
その部屋に眠るは一人の男。
棺に入った一人の男。
男の目覚めと共に、明かりが灯る。
支配はすぐに解ける。
この部屋の主は彼なのだから。
「くくく…ぁハーハッハッハ!!」
林檎がそのまま入ってしまうのではないか?と錯覚させるほど口を開き、男は上機嫌に笑う。
棺から出てきたその姿は寝巻きなどではない。
今日という宴に相応しき、それはまさに「衣装」。
黒いマントをなびかせ、男は今に酔う。
「遂に…遂に待ちに待った日が来たか!」
いつからそこにあったのか。
時計の前には食卓があった。
…食卓?
そんな平凡な言い方は語弊だ。
そこにあるのはきらびやかな、しかし、少し小さい晩餐会の会場。
それもお菓子ばかりの。
テーブルの周りを囲むは美しく実った金の作物。
それら一つ一つに彫られた顔は、本来の美しさを損なってはいなかった。
男はその中に一人、立っていた。
「久しぶりに飲む人間の血は、どんな味がすることだろうか…。早くあの喉仏に喰らいつきたい。いや、鎌でかっ切るのも悪くない、か。」
男は一人、溜め息を吐く。
それは負の感情を孕んだモノではない。
ただただ、喜びに満ち溢れていた。
「今日は、死んだ者の霊が、生前住んでいた家に訪ねてくる日。つまり、この世ならざる者、人間でない者が、魔界と人間界を自由に行き来できる日でもある。さぁ、我らはこの世ならざる者…今日という日を讃えようではないか。」
男は
笑う。
「ハッピーハロウィン!
そして
トリック オア トリート!!」
男の声を合図に、作物…カボチャが光る。
彫られた穴から漏れる光は艶やかだった。
テーブルに置かれたボトルのワインも、それにつられて、赤く輝いているように見えた。
流れ出した音楽がさらに場を盛り上げる。
「ベートーヴェンの第8番、『悲愴』…タイトルはさておき、今のこの雰囲気に随分マッチしているなぁ…フフフフフフ、アーハッハッハッハッハハハハ!!」
「格好つけすぎよ、ハクシャク。」
男…ハクシャクは突如現れた女に頭をはたかれた。
「んが…。」
と、同時に音楽が鳴り止む。
ハクシャクは、ゴシックロリータで身を固めた女を静かに見た。
「…何をする?」
「キメすぎててムカついたのよぅ。にんにくでも持って来て泣かせてあげましょうか、ドラキュラさん?」
男のことをドラキュラと呼ぶ女自身もまた、妖怪であった。
フランス人形特有の関節の動きの悪さを無視し、ドールは己が指に自身の自慢の金髪を絡ませた。
ハクシャクは鼻で笑うと、ドールの後方にいる男に呼びかけた。
「セバスチャン、何故音を止めた…?」
「そちらの方が面白いかと思いまして…プ、クスクスクス!」
片眼鏡を反射させながら、セバスチャンは口を歪ませた。
「何なんだ貴様ら?おい、セバスチャン。お前確かフランケン族に仕えるゾンビだったよな?ゾンビ族ごときがそんな態度を取るのは、フランケン族の恥、ではないか?」
ハクシャクがセバスチャンの顔面目がけて詰め寄る。
セバスチャンの爛れた皮膚からは臭いはしなかった。
「クス、わたくしみたいな執事は変、ですか?わたくしは自分がしたいようにします。フランケン族の名前を出して、わたくしが怯むとでも?」
それを聞いたハクシャクが、きょとんとしてのは一瞬だけだった。
すぐに口角を上げ、
「ぷ、くくく、」
「「「アーハッハッハッハッハッハ!!!」」」
二人と一緒に笑ってみせた。
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