覗き込む目(SS)

@piu-cort

覗き込む目

誰もがあの目を不気味だと思う。定期的に覗いてくるあれが、「人間」の「目」だということが最近の研究で分かった。この世界に入って天井を見上げると、白い海を黒い丸が動く。白い海に対して黒い丸が大きすぎるから、不気味にぎょろぎょろと動く。はっきり言ってしまえば、気持ち悪い。人間の目には届かないような、人間からすれば小さな点と線で出来たような僕たちをその不気味な目で見ては、口々に何か言っているようだった。かわるがわる別の人間の目が見てくる日には、恐ろしくてたまらない。


「生物学者」という目は、時々輝いた目を覗かせる。生物学者が大声をあげて喜んだ日には、何かと思って耳を澄ますと、僕たちが動いていることに感動を覚えたようだった。たしかに普段は、人間には届かない点と線だけれど、僕たちも生物なんだから当たり前だろうと少し呆れてしまった。


「学生」という目は、恐ろしく据わった目を覗かせる。「生物学者」は僕たちが生きていることに驚いたが、彼らはそれが当たり前であると落ち着いた様子だった。じっくりと眺めてくる者は居らず、たくさんの目が交代して覗くから、目酔いしそうになる。それと、この学生というのが不思議なのは、開いているのか分からないような薄い目で覗くこともあるのだ。


僕らは、「目」の世界を研究中である。「目」がどのような生物であるのか解明するのが目的だ。目が覗き込む世界に入った者は、例え不気味だろうと何だろうと、僕らの世界に「目」の世界の情報が少しでも多くなるように、目を観察しなければならない。いつ目が覗き込む世界に入るか分からないので驚いてしまう者も多く居るが、その謎すぎる生態への驚きが上回る。僕なんかは、それこそはじめは不気味で仕様がなかったけれど、今はかなり興味が湧いてきたものだ。


「またこの実験から始まんの?植物の観察とかさ、

小学生から何回やってんのって感じ」


「細胞の名前とかもう感覚で分かっちゃうんだけど。 もうこの授業要らなくない?」


「ほんとね、だるい。

あ、ちょっとピンセット取って」


「ピンセットは良いけど、やる気なさすぎて

眼鏡ガツガツ当たってるよ」


「あ、取るの忘れてたわ」


学生の目だろうか。据わっていてやる気がない。時々目の前を光が反射するのは今聞こえてきた「めがね」というもののせいだろうか?仲間に伝えると、新しい情報に興味を持つものが多かった。今日の観察終わりに、「目」の「めがね」について研究を進めて行くことが決まった。明日からこの世界に入るものへの引き継ぎも終わったので、そろそろ観察を終えよう。

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