孤独な少女の願いと真実
唄神楽
第1話 案内人『エル』
この世界は創られた世界だ。
創造主である『ストーリーテラー』が創りし、『想区』と呼ばれる世界。
そんな世界が数多く存在している。 『想区』には定められた物語があり、人々は『運命の書』と呼ばれる一人一人に与えられる本に記された物語に従って決められた運命を生きる。
そんな世界で私はどうすればいいのだろう?
私の世界には何も無い。
私の『運命の書』は真っ白な『空白の書』。
私の『想区』は………
異常を起こした『ストーリーテラー』。
『カオステラー』となった創造主により悪夢へと書き換えられる物語。
書き換えられた『想区』は運命を狂わされ、いずれ壊れてしまう。
だが、『調律の巫女』と呼ばれる存在だけが、書き換えられた物語により狂わされた運命を元に戻す力を持つ。
これは、『調律の巫女』と仲間たちの旅にあった一つの物語。
カオステラーの気配を追って旅する『調律の巫女』レイナ一行は新たな想区へ到着していた。
「変だわ」
到着して直ぐに真剣な顔でレイナが呟く。
「どうした?お嬢」
レイナの表情に気が付いたタオが声をかけるが、レイナは困惑した様子で広大な草原を見回している。
「姉御?」
「何かあったの?レイナ」
タオ同様にレイナの様子に気が付いたエクスとシェインがレイナを見つめる。
「カオステラーの気配が消えたのよ」
レイナの言葉に三人が首を傾げる。
「何だよ、場所間違えたのか?」
「想区の中に入ったから上手く感知出来ないだけではないですか?」
「どこか調子が悪いとか?」
「分からないわ、こんな事初めてだもの。間違いなくこの想区の中で気配を感じたのに」
突然の事にレイナは考え込んで黙ってしまう。
「分からないならしょうがねぇ、この想区を調べれば何か分かるだろ」
明るく脳天気にも感じる態度でタオはその場から歩き出す。
「ちょっと!何があるか分からないのよ!勝手に行かないでよ!」
「来たばっかの想区なんだから分からねぇのは当然じゃねぇか。何もしないでいたってしょうがねぇだろ。まずは、行動あるのみってな。ここはタオ・ファミリーの大将である俺に全部任せな!」
「私はそんなファミリーに入ってない!それにリーダーは私だって何度言ったらわかるのよ!ちょっと!待ちなさいよ!」
喧嘩しながら進んで行く二人を呆れ顔のエクスとシェインが追いかける。
「毎度毎度同じ事で喧嘩するとか、姉御とタオ兄は色んな意味で大丈夫ですかね?さすがに、シェインは飽きましたよ」
「まぁ、喧嘩する程仲が良いって言うし、心配しなくても」
「新入りさん、本気でそう思ってますか?」
シェインの素早いツッコミにエクスは黙って二人の後を追った。
「クルルルル!クルッ!クル!」
レイナの心配をよそに草原を進む一行の前にヴィランの群れが現れる。
「おっと!へへっ、どうやら余計な心配だったみたいだな、お嬢」
「まったく納得いかないけど、ヴィランがいるならカオステラーがいるのは間違いはなさそうね」
得意げなタオに不満そうなレイナが答える。
「まぁまぁ、二人共仲良く」
「新入りさん、いちいちフォローしてたら身が持ちませんよ。さて、大した数じゃありませんし、サクッとかたづけちゃいましょう」
シェインは自らの『運命の書』である『空白の書』を取り出す。
他の三人もそれぞれの『空白の書』を取り出しヒーローの魂とコネクトする為に『導きの栞』を挟む。
「あれ?」
「えっ?」
「んっ?」
「はて?」
エクス、レイナ、タオ、シェインそれぞれが疑問の声を上げる。
「どうなってる⁉︎姿が変わってないぞ!」
レイナが慌てて『導きの栞』を確認する。
「お嬢!どうなってんだよ!」
「分からないわよ!こんな事初めてで!」
「いや、二人ともさすがに揉めている場合ではないです」
「どうするの⁉︎このままじゃ!」
「クルッ!クルル!クルー!」
動揺する一行にヴィランの群れが迫る。
「とにかく、この場は逃げるわよ!」
「チッ!しょうがねぇ!」
「その必要はありませんよ」
突然、背後より声が聞こえ一行が振り返る。
そこには黒いゴシックドレス姿に身を包んだ赤い瞳の少女が一人立っていた。
「君は?」
「今は私の事より、目の前にいるヴィランを倒す事が先では?」
長い黒髪を揺らしながら少女が目の前を指差し微笑む。
「あなた!どうしてヴィランの事を知っているの⁉︎」
「姉御、今はそれよりも」
「シェインの言う通りだ!お嬢!あんた!逃げる必要が無いって言ったな、どういう事だ⁉︎」
少女が微笑んだまま、タオの質問に答える。
「冷静になれば感じる事が出来る筈ですよ、内に宿したヒーローの魂を」
少女の言葉に四人は自身の内へと意識を向ける。
「確かにヒーローの魂が自分の中にあるのを感じるけど」
「どうして姿が変わらないんですかね?」
「しょうがねぇ!今は細かい事は後回しだ!」
「そうね、先ずはヴィランを片付けましょう!」
戦えると分かった四人がそれぞれの武器を手に戦闘態勢に入る。
「気を付けて下さいね、ヒーローの力を使えるといっても姿が変わらない以上、全ての力を引き出す事は出来ませんのでヒーローの切り札である必殺技は使えませんよ」
「ええっ⁉︎そんな!必殺技無しなんて!」
「せっかくですから、自分自身の必殺技でも考えるといいのでは?」
慌てるエクスに少女が軽い口調で答える。
「とにかくやるしかねぇ!いくぜ!タオ・ファミリーの喧嘩みせてやる!」
気合いをいれたタオが先陣を切ってヴィランの群れに向かっていく。
「いくぜ!必殺!タオ乱舞」
掛け声とともに槍を出鱈目に振り回しヴィランを吹き飛ばしていくタオ。
「タオ兄、さすがにそのネーミングセンスはどうかと」
最初は勢いで押していたが、徐々にタオの周囲をヴィランが囲っていく。
「もう!一人で突っ込むから!」
「姉御、ここはシェインにお任せです」
そう言ったシェインの手にはいつの間にか大きな銃が握られていた。
「えっ?シェイン、何それ?」
「シェインのとっておきです」
驚くレイナに対して、シェインは鼻息荒く自慢気な表情で銃を構え、轟音を鳴らしながら弾丸を連射し始める。
「一網打尽です」
タオの周囲を囲っていたヴィランを一掃したシェインは銃を肩に掛け、満足気に胸を張る。
「残りは少しだ。一気にいこう、レイナ!」
「ええ!援護は任せて!」
ヴィランに向かって駆けて行くエクスの後方で、レイナが目を閉じ精神集中を開始する。
レイナの周囲に魔力が集まり、力を発動させる。
「ソウルチューニング!」
エクスの体が光に包まれる。
レイナの力により自身の体に力が溢れるのを感じるエクスは手にした剣を握る力を強める。
「これならやれる!」
力を合わせヴィランの群れを倒した一行の前にメガ・ヴィランが立ち塞がる。
「グルル!グオォォォ!」
「こいつで最後だ!」
剣を構えたエクスがメガ・ヴィランへと向かって行く。
「ソードオブアッシュ!」
エクスの連続切りをうけ、メガ・ヴィランが倒れる。
「な、なんとか勝てた」
メガ・ヴィランにとどめを刺したエクスは安堵の溜息を吐く。
「お疲れ様でした。皆さんお強いのですね」
疲れ切った一行に拍手をする少女をレイナが睨む。
「貴方、何者なの?どうしてヴィランの事を知っているの?」
「それだけじゃねぇ。ヒーローの魂の事まで知ってやがったし」
「怪しさ全開です」
「君は一体?」
「では、自己紹介をしましょうか」
そう言って少女は長いスカートの両端を指先で摘み、軽く持ち上げお辞儀をして名乗る。
「私は『エル』。この想区の案内人です」
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