まぼろしの駅

末千屋 コイメ

第1話

 ――ああ、夕日が眩しいな。

 目を覚まして率直に思った感想はそれだ。でも俺には不思議だった。俺がこの電車に乗った時、確かに日は沈み切っていたのだ。何故夕日が見れるんだろうか。そもそもここは何処なんだろうか? 車内を見渡すが、とっくに客は降りたようで誰もいない。電車なのだから座っていればまた発車するだろう。俺はケータイのアプリゲームでもしながら待とうとスリープボタンを押す。再び俺には不思議なものが目にとびこんできた。時間が戻っている。俺が乗った電車は19時52分発だった。しかし、今は16時14分を示している。どういうことなのだろうか。

「お客様。終点でございます。こちらの折り返し運転はありませんので降りてくださいませ」

「あ、スンマセン」

 真っ黒いロングコートに黒い帽子を被った車掌に降りるように促されたので、俺は初めて駅へと足を着けた。空には焼け落ちるような夕焼けが広がり、夜の気配が血のような残照に染まっていた。夕焼け雲は薄く薔薇色に染まっていた。それはまるで空に綿を疎らに散りばめたかのようであった。ホームの屋根のある箇所に、駅名が記されていた。ここは夕焼けの里という駅のようだ。すぐにケータイで検索をかける。ひっかかるのは都市伝説のページばかりだ。俺はTwitterでの検索をかける。ここに辿り着いた人は過去にもいるようだった。だが、どれも観光の感想である。都市伝説なのか観光地なのか判断に困る。対策もわからない。俺は夕焼けの里へ着いたことをツイートすることにした。もしかしたら誰かが何か知っているかもしれない。駅の時刻表は真っ白でいつ電車が来るのかもわからない。都市伝説のページを見ていると「ここから帰ることはできない」と記されていて不安心をかきたてるだけであった。

 俺が夕焼けの里のツイートをしてから3分した頃だ。リプライの通知があった。俺は縋るような思いでリプライを確認する。


 @Ryo2_Sao_ FF外から失礼します。当方、夕焼けの里についての知識があります。まずは、改札を出て右へ向かって歩いてください。しばらくするとお地蔵さんがあるので、そこを左。そして小川を渡ったところを斜め右。そのまま真っ直ぐ進んだ先にある屋敷を訪ねてください。続きます→

 @Ryo2_Sao_ この道中。背後に気配を感じたり、悪寒が走ることがあると思います。絶対に振り向いたり、声を発してはいけません。それでは、お気をつけて。


 俺はリプライ主に感謝の言葉を送ると、早速改札を出た。相変わらず夕日が眩しい。眼前には大自然が広がっている。車さえも通っていない。田んぼがあるのだからきっと人がいるのだろう。ふと空を見上げると人影が見えた。空に人影? 俺はもう一度空を見る。人影は無い。気のせいだろうか。地蔵を左に曲がる。急に背中を何かが触れたような悪寒が走る。だが、振り向いてはいけない。さっきもらったリプライ通りに行かなくては。俺は急ぐ。気持ち悪い。振り払うように走る。小川を渡ったあたりで悪寒は消えた。何だったんだ。斜め右の道を行き、しばらく緩やかな坂を上ると、リプライにあったように屋敷があった。インターホンに近付き、押そうとした瞬間――


 「いらっしゃい。呪願怨室本舗じゅがんおんしつほんぽへ」



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