エピローグ

 魔人武術家軍団との死闘の後、一週間が過ぎた。傷ついた身体も治り、櫻澤茜は家に帰ることにした。黒沼は、まだ入院している。本当に父親なのか確認したかったが、退院したら家に行くと茜に約束してくれたので、追及しなかった。

 佐伯童玄は亡くなった。表向き、病死ということになった。上矢女史がすべての関係者に手を回したのだ。彼女は童玄の遺言書に書かれた全財産の受け取りを拒否して学園の運営を任せ、郷里に帰ることにしたそうである。童玄の六人の元妻と子供、孫達は財産分与を要求したが、専任弁護士に追い返された。財産は教育事業にすべて寄付された。

 今泉が慰労パーティーを開催してくれたので、七人の少年少女は、パーティーを楽しんだ。勝利を祝ってノンアルコールビールで乾杯しようとしたが、死んだ佐伯童玄や、無理やり蘇らせられて利用された七人の武術家達を忍んで、献杯にした。

「御先祖様を呼び出して飲めば、普通のビールでいいんじゃない?」と蔵人が提案したが、「やっぱり、ダメでしょう? 私達、高校生だし・・・」と、沙織が却下した。

 ゾンビ武術家を殺した皆はまだしも、茜はまぎれもない生きた人間である徐雲を殺している。やはり、罪悪感は拭えなかった。

「だけど、その時は櫻澤先生と入れ替わっていたんでしょう? 茜が悩むことないよ」

 沙織が慰めた。

「あの〜、僕は、すっごい感謝してます。もう、イジメなんか怖くないから、これから、ちゃんと学校にも通えます。茜さんのお陰です」

 友矩の言葉に、魅幽もうなずいた。

「あたしも感謝してるよ。強くなれたし・・・」

「俺ももちろん。彼女できたし〜・・・」

 蔵人が沙織の肩に手を回すと、沙織はパッとその手を振り払った。

「あんた、慣れ慣れしいんだよ。誰が彼女だよ?」

「フラレタ〜、ショ〜ック!」

「カノジョじゃなくて、カレシじゃ〜ダメ?」

 しょんぼりしている蔵人に怜が猫のようにすり寄ると、魅幽がキレた。

「やっぱ、こいつ、ヘンタイだよ。お前ら、もう帰れよっ!」

 皆がガヤガヤしていると、茜がボソッとつぶやいた。

「私は、ずっと修行ばっかりしていたから、学校に友達いなかったんです。初めて友達ができたのが、良かったです・・・」

「そうだな。俺達、七人のサムライって感じじゃない?」

 正義がシャレたシメをいったつもりでドヤ顔をすると、全員が白けた顔になった。

「これだから、空手バカ一代はな〜・・・?」

「正義君、顔はカッコイイんだけど・・・そのセンスはねぇ〜?」

「だね〜?」

 正義は、地蔵のように固まった。

「まあまあ、正義君はよく頑張ったよ。七人の侍は古いけど・・・」

 今泉が正義の肩をポンポンと叩いて慰めた。


 翌朝、茜の帰りを皆が見送った。リュックサック一つで家まで歩いて帰るという。

「茜ちゃんは、それしかないよね〜?」

「江戸時代は、みんな、そうだったんだから・・・」

 全員が、茜の異常な乗り物酔いを見ているので、誰も止めない。

「それじゃあ、皆さん。お元気で・・・」

 ペコリと頭を下げた茜が去っていった。

 六人の少年少女と一人の中年になりかけた男は、桜吹雪の舞い散る中を去っていく少女の後ろ姿を、時が止まったかのように、いつまでも見つめていた・・・。

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