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V-6はイサーク・ミハイロヴィチ・ヴァシレフの26歳の姿だと記憶している。初期実装の青年体8体のうち、6体ある男性体のひとつだった。
名前の通りスラヴ系、コーカソイドらしく骨格からして大きい、黒髪にブルーグレーの瞳を持つ色白の男性。PBに登録された情報だと身長は182㎝。たしかマーシャルアーツが得意で、近接格闘においてレプリカントの誰より強かった。
目の前で現実になった彼も、立ち絵から抜け出してきたような見た目でわかりやすい。
「ようこそ、ワシントン基地へ。私はV-6、他の複製体がないので、イサークとお呼びください。普段はアナニエフ中将の側近を務めています。しばらくはあなた方のフォローに回るよう仰せつかりました」
「ありがとうイサーク。わたしはK-12。元の名はアルベリヒ・エル・キングスレイヴですが、先にK-2が配備されているようなので呼び名は任せます」
「S-5、フィデリス・ノア・サマースキルだ。フィデリスでいいぜ、よろしくイサーク」
「それではアルベリヒとフィデリスと呼ばせてください。これからよろしく」
順番に握手をすると、イサークは微笑む人の名の通り淡く口の端を上げた。
自分で定めた予定通り食堂に到着すると、待機していたのかイサークが出入り口付近の机についていた。素早く立ち上がり向こうから自己紹介された。
あの中将はどうやら自分と似た人種を近侍においたらしい。異国で故郷の言葉を聞いて安心するようなものだろうか。
側近というのは、ゲームでもあった制度だ。プレイヤーの仕事を補佐する役目を持つ、出撃時のオペレータでもある。ゲームのホーム画面に常にいる。
「出迎えられず申し訳ありませんでした。PBのメインルームまでは案内役をつけましたが、その後はご不便なかったでしょうか」
「ああ、ご心配なく。それより、申し訳ないが勝手に見て回らせてもらった」
そう伝えると、イサークは軽く手を挙げて制す。動きは最小限だが表情が豊かで、眉尻を下げている。
「あなたたちのホームなのですから、ご自由に見てくださって構いませんよ。マップ機能もきちんと使えているようですね、良かった。見て回られたのはメイン施設内だけでしたでしょうか?あとで一通り案内しますが、オートマタに案内させた部分は省きますか?」
「わたしは生活部分を確認したので、出来れば業務で必要になる箇所を見て確認したい。サマースキルも同じく回ったが、アンタはどうだ」
ふりかえると、サマースキルはあらぬ方向を向き笑顔で手を振っていた。
視線の先はW-1、コーデリア・グレース・ウォリナーだ。色っぽい雰囲気の、諜報と機械操作が得意で近接格闘なら断然寝技と言い張る後方支援向きだが暗殺もこなせる女性体。たしかアルベリヒとはもともと知己だったはずだ。同い年で、18歳の頃に同じ任務に就いている。
目が合ってすぐに手を振られたので、こちらも軽く手を挙げて返す。あとでいくらでも話す機会はあるだろう。
「サマースキル、話は聞いていたか?」
「オレはアルに任せるよ。どうせしばらくは同じ任務になるだろう?」
「だからアンタはファーストネームで呼ぶのはやめろと言っているだろう、サマースキル。イサーク、すまないがこいつはかなり緩い。頭の出来は悪くないと思うが、もしかしたらあなたに迷惑がかかるかもしれない」
これ見よがしにため息をついてあきれて見せると、イサークは楽しげに笑っていた。
「はは、かまいませんよ。それにレプリカントは優秀な人間を選んで加工した、なんて言われてますからね。きっと杞憂に終わります。それに教育係なんですから、遠慮なく頼ってくださると嬉しいです。それでは明日一日、施設と装備の説明に使用します。あまった時間は訓練に、出撃は明後日以降にしましょう。今後の育成計画も明日ご説明します。今日は歓迎会ですので、ゆっくりなさってください」
笑顔ですごいブラックジョーク飛んできたな……。
話しているうちに18時になっていたらしい。食堂に初期実装レプリカント28機がそろっていた。中将の姿はない。
イサークは食堂の中心へわたしたちを誘うと、通信を開いた。
「全部隊通信開きます。『やあみんな、おつかれさま。今日は予定通り新しいお仲間がきたよ。こちらはK-12とS-5、もうすでに配備されているKとSの若年体だ。詳しいデータはすでにPBに登録されているが、あとは本人たちの口から聞いて欲しい』」
頭に直接響くのと、耳から聴こえる音。すこしの違和感があるが、まあ誤差の範囲内だろう。すぐに慣れる。
「『彼らは起動から10日、機能検査しか受けていないそうなので、実地での戦闘訓練でデータ採取を行う予定だ。なにか不都合、不具合があれば助けてあげて。報告はいつも通り私に。では、新たな仲間の誕生を祝おう』」
スパークリングワインの入ったグラスを渡される。グラスはプラスチック製だが形はシャンパングラスでステアが長い。
わからないように、すん、と匂いを嗅ぐと、とても良い香りがした。高そうだ。
隣を見るとS-5が目を輝かせていた。そういえば酒好きだった気がする。ワインよりビアやエールの方が好きそうだと思っていたのだが。
「乾杯」
チァーズ、コングラッチェ、様々に聴こえてきた声を処理する。
イサークにグラスを掲げると、同じように軽く掲げられた。
「ありがとう、イサーク。あらためてこれからよろしく。もしあなたがよければ、あまり丁寧な言葉は使わなくていい。わたしのほうが後輩なのだから」
「こちらこそよろしく。わかったよ、アルベリヒ。できれば良い友人関係が築けると嬉しいな」
「わたしもそう思う、あなたとは気が合いそうだ」
いつのまにか消えていたS-5はもう女性達に声をかけにいったらしい。イサークと顔を見合わせて苦笑した。
それからイサークとともにテーブルを回り、自己紹介をしていく。戦場でサポートしてもらうことになるかも知れないので、一人一人しっかり挨拶した。
ひとつ、先に配属されているはずのK-2とE-5に挨拶ができなかった。何度か確認したが食堂内におらず、イサークにも確認したが結局会えずに初日は終わった。
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