夢の入口

@tabizo

夢の入口

 ありふれたアパートの一室。大学生である白石春男が一人で暮らしている。

夜も更け、春男は深い眠りについた。目の前に美しい大きなドアが現れる。

春男はドアを開けて中に入る。これから夢が始まるのだ。

つまりこのドアは夢の入口なのだ。ドアの向こうには見知らぬ世界が広がっている。

中に入った春男はひとまず安心した。ここ数日、怪物の国で化け物に襲われる夢や

サーカスの団員になったはいいがライオンに食べられそうになる夢などばかり見るのだ。

今日の夢はそういった類の夢ではなさそうだった。きれいなお城やお菓子の家など、メルヘンチックな建物があった。

「どうやら、おとぎの国のようだな。」

歩いていくと背中に羽をつけた妖精たちが飛び交っていて、オモチャの兵隊たちが行進していた。森に入ると木が親しげに話しかけてきた。しかし、森の中はどことなく不気味で、怪物でも出そうな雰囲気だったので出ることにした。森から出ると今度は小人の国があった。

すべてのものが春男よりはるかに小さい。なんだかミニチュアセットの中にいるようだ。

海に出た。小さな船が何艘か浮かんでいた。海といっても春男にとっても風呂場の浴槽を少し広くしたほどでしかなかった。どんどん進んでまた陸にあがる。しばらくして、春男は周りの建物がどんどん大きくなってきてることに気づいた。正確には春男の体が縮んでいってるのだが、春男にはまわりが大きくなってきているように見えた。どんどん歩いていくと大きな切り立った崖があった。覗いて見ようとして足を滑らせた。深い谷底にスーッと落ちていく・・・。

あそこに落ちたら間違いなく命はない。あ~もうだめだ。

そう思った瞬間、春男の体は急に軽くなり、まわりの景色がパッと消えた。

そうして春男はいつも目を覚ますのだ。いつも死ぬ寸前で目が覚める。夢の中で死ぬことはまずないのだ。とはいえ、春男はいつも目を覚ますと汗びっしょりになっていた。

それから数日、春男は夢をみなかった。


ある日、春男はまた夢をみた。しかし、その夢はいつもと少し違っていた。

いつもは簡単に開くはずのドアがなかなか開かなかった。

力づくでドアを開けてみると、そこには一面の荒野が広がっていた。いつもなら馬に乗ったインディアンがたくさん現れるようなとこだった。しかし、何も現れない。しかも荒れた土地の他にはほとんど何もない。

「なんだ、つまらない。」

そう言って春男は歩き出した。小高い丘の上に小さな墓標があるのが見えた。

そばにいくとそこにはなんと春男の名前が書かれていた。

「何だこれは・・・縁起でもない、面白くないイタズラだ。」

そう言って春男は不機嫌に歩きだした。

いつの間にか歩いてる道の両側が切り立った崖になっていた。ハゲタカが春男のはるか頭上を舞っている。突然、大きな音とともに大きな石や岩がゴロゴロと上から落ちてきた。

逃げる暇もなく春男は石や岩の下敷きになり、生き埋め状態になった。

体中が痛い。いろんな場所をケガしているらしい。しかし、春男は痛がってばかりはいられなかった。内部の酸素がしだいに少なくなって息が苦しくなってきたのだ。

「ああ、息ができない・・・死にそうだ。」

しかし、いつまでたっても夢は覚めない。春男の意識が遠くなっていく―。

その頃、春男の部屋には元栓が壊れたために漏れ出したガスが充満していた。


END






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