第3話 上司
「ご馳走様でした」
いつもより早く夕食を終えた少年は2階の自分の部屋に戻った。
「もういいぞ。」
少年がため息混じりの声で自分の中に呼びかけると、今度はへそのあたりから霧と共に昼間の少女が出てきた。
「昼は背中からだっただろ。」
「えぇ〜っと、うーん、多分ランダムなんだよね。人に憑依したのは初めてだからわからないけど。」
「とりあえず重要な事を昼間聞き忘れたんだが。」
「え、なんです?もしかして告白とか...」
「名前だ!」
少女のボケに容赦なく突っ込んだ。
「何でそんなに執拗に迫ってくるんだよ。そもそも使い魔って結婚する必要あるか?」
「愚問ですね、そりゃあ私だって悪魔と人間の間に生まれた存在ですよ。完全に悪魔の血を引いていないと大体数万年で死んでしまいます。だから子孫を残すために悪魔の憑依の対象は逆の性と決まっています。」
「そうか、それで名前はなんだ。」
少年はそれた話を戻した。
「えーっと、上からは自由でいいって言われてるんだけど、決めるのが面倒くさくてねー。」
「えぇー」
どうやら少女はまだ名無しのようだった。その後も少年は少女から有力な情報を掴もうとしたが、答えてはくれない事がほとんどだった。少年は机に座って問題集を開いた。学校は中高一貫だが正直高校はいい高校とは言えなかったため、県内のトップ校への進学を考えているが、もう少年は数学は数Ⅲまで網羅しているので中学生の記述回答が逆に苦手なのだった。三平方の定理を使う問題も全て三角比を使ったりしているので大体のテストでの減点は未習の定理の使用だった。丸にしてもいいじゃないかと抗議した事もあったが、学校側はあくまで既習の定理を理解出来ているか試す為のテストだからと言って妥協しなかった。
少年が二次関数の演習をしているとなにやら背後から会話が聞こえてくる、ふとふりかえると何故か20歳過ぎぐらいの多少苛立ちを感じる程度のイケメンが少女と話している。
「あの、どちら様ですか。」
男が聞いてきた。
「こっちの台詞なんですがそれは。」
少年は何がなんだかわからなくなってきた。
「あ〜、ほら昼間言ってたウチのボスです。」
どうやらこの男が例の中二病上司らしい。少年はとりあえずお辞儀をした。
「今日で有効期限があと一年になる少年がいると聞いて挨拶回りに来たんだが、上手くやってるのか?アスタロト。」
「もう、社内のコードネームで呼ばないで下さい、ルシファー社長。」
「君だって社外でそれを言うのはやめなさい。」
相当な人達だなと少年は思ったが、そこは本人の自由だろうと割り切った。
「それで永多君だったな、君の名は。」
「そうです、今一体どういう状況ですか、もう何が何だかサッパリです。」
「詳しい話は彼女からいずれ聞くことになるだろう。まあいい、ところで今君は私がどう見えているかね。」
男はあぐらをかきながら真剣な顔で尋ねた。
「どうって、20歳近くの男性ですが。」
「やっぱり悪魔っぽくは見えてないのか。」
男性はがっかりしたような声で呟いた。
「私は見る人によって違う姿に見えるんだ、正確にはその人が一番崇高に思っている存在に見えるんだ。ある時は全能の神、またある時は禿げた坊主、そのまたある時はメシア、とにかく色んな風に見えるんだが、何も崇高に思うものがない時はこのようにただの男性に見える。本当に悪魔の格好で出てこれたのは数少なくて先日面白そうな魔法陣を見つけて出てきたら悪魔の姿だったんだが、その魔法陣の前にいたイカれた男が[遂に大悪魔ルシファーが降臨なすった、さあ共に世界を滅ぼそうぞ!]とかわけのわからない事を言い始めたので速攻帰ってやった。そんな能力ないっての。ちなみに使い魔の姿は契約者の容姿に依存するからそんな姿になってるんだ。とにかく俺は悪魔として悪魔の格好でいたいんだよ。」
男が涙を流し始めたので少年が話を変えた。
「ところでこれから俺はどうしたらいいんですか。」
「そうだな、とりあえずあの使い魔と話し合って決めてくれ。使い魔は契約期間中なら契約者と結ばれる事は可能だからたまに執拗に迫ってくる輩もいる、あいつのようにな。あいつは新人だがやる気だけは無駄に強くてだな、迷惑を起こすかもしれないが、自分の分身だと思って大切にしてやってくれ。それでは私は次の天才に挨拶してくる、達者でな。」
そう言って男は姿を消した。ベッドに目をやると少女が小説を興味深々に読んでいた。
「ところでお前は一体どうしたいんだ。」
少年が小説を取り上げて尋ねた。
「そうですねー、とりあえずせっかく就職したのに契約を切られては困るのであなたには契約続行してもらって、いずれ結婚とかしちゃったりして。その為に使い魔は契約者に似るって聞いてわざわざあなたを美男子にしたのに。」
「余計なお世話だ。そもそもなんで自分の化身みたいな存在と結婚しなきゃいけないんだよ。それにこの国だと男性の結婚は親の許可があっても18歳以上だ。」
「まあまあ落ち着いて」
すると唐突にドアが開いて父が入ってきた。
「おーい、幸雄。風呂空いた、ぞ?」
((やべえ、見つかったぁぁ!!!))
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