POLAR TRILLS
ミーシャ
囲いの中から
まるで感じ方を変えてしまうと、こうも指先の返し方が違ってくる。
ひとり部屋の中で高い天井を仰ぎ、停止した空気の流れを作り出す。
右腕を伸ばし、左手を額に押し付け、そのまま体重移動しながら灰色のカーペットに左足をすべらせる。そうしてわずか30センチの距離を移動する。
閉じ込められてから三日、食べもせず飲みもしない。そんな対象をどこで見るでもなく確認するでもなく、私の誘拐犯は、この世界のどこかで眠っている。
だから私は怒りがこみ上げる。この部屋はとても広いが、夜はこないのだ。
8×10ある白色の明りが春の日光を思わせるが、それでも時折、私の呼吸に明滅して、頼り甲斐がない。私の必要としているエネルギーは、こんなちっぽけなものでは無い。あぁ太陽がそこにあったなら、いいだろうに。
私は、6日目を迎えるまでには、誘拐犯も様子を見に来るのではないか、という期待を抱いていた。しかし、7日経っても彼は来ず、私は、自分がやはり嫌われものだと思うしかなかった。もう少し、私に関心を示してくれてもよさそうなものだが、そうもいかないのだろう。
一か月前、思い起こせば、地球の三分の一の水が消えたときになって、彼らは私を頼った。
私は彼らにできる最高の解決策を提示したが、彼らは逆に難色を示して、私をテロリスト呼ばわりした。自分の好意が、それに見合う好意によって受け容れられないことは、経験から学んでいる。
しかし、今回ばかりは八つ当たりもいいところだ。
問題なのは私ではなく、統率のとれない彼らの不足によるものだ。そんな彼らの個人的なことに、私は一度だって、責任を負ったことなど無い。彼らは、私というものに甘えているのではないかと思う。最終的には、私が何らかの手立てを、それも無償でやってくれると勘違いしている。
私は、ひどく見くびられたものだと思う。
それほどに善人であったことなどかつてないし、地球上のどの人間だって、私に期待される以上のことを成し遂げたものなどいない。
誰も私を正確に理解しないのに、どうして私を頼るのだろう。また、頼れるなどと早合点するのだろう。幸せな発想かもしれない。しかし、私には彼らのそんな「幸せな」頭の仕組みが、皆目理解できない。
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