胎内毒素––Sleepy Dreamer––

宮間

症例:《知ったかぶり》一日目

 たしまりなくたにし、でいせのたなあ、いせんせ


「だ変大はれそ」

「いさだくてしかとんな」

 。たしにうよういと、いなわもおもになはいせんせ


《ソレガアタシハ嫌ダツタ》


「さるなくなてんなくたにしばれすとんゃちとっもが君。よだいせの君はのるなくたにし」


《余リニ無責任デス》


「がみきいなたもた分自んぶじりかっし。いるわが君。よいな係関いけんかはくぼ」


《シツテマスヨ。アタシハデキソコナイダモノ》


「ねすでんいなわ思もとんなもでんしでここがしたああゃじ」


「よいなわもお」


《サウデスカ》





 ぶつん。




「おはよう××ちゃん。よく眠れた?」

 お母さんがこちらを見ている。

 お母さんがこちらを見ている。

 お母さんがこちらを見ている。

「うん。よく眠れたよ」

 あたしはこうして嘘をつく。




 病気だろうが何だろうが、学校はある。動けるなら行かないといけない。

 空気感染も飛沫感染も接触感染もしない、この病気は変わっている。変わっていて、厄介だ。

 下駄箱を開ける。上靴に履き替える。靴をしまう。

 あたしが鞄を背負い直した時、偶然を装って先生が現れた。

「大丈夫なのか?学校に来て」

 先生はひょろ長い。先生は人の目を見て話す。それはそれはじっと見て話す。気持ちわるいくらいじっと見る。あたしはそれが気持ちわるい。

「平気ですよ先生。進行途中の夢が現実にならないのは検証済みでしょう?」

 あたしは笑う。先生は困った顔をする。先生は困った顔をする。先生は困った顔をする。

 上辺だけ困った顔をする。

 上辺だけ。

 上辺だけ。

「じゃあ、具合悪くなったら言えよ?」

 知ってますよ先生。

 先生のそれ、駄目な癖。

 あたしの目をじっと見るのは

 あたしを信用してないからです。

 あたしが嘘をついてると思ってるからです。

 あたしの嘘を見抜こうとしてるからです。

 あたしは先生の胸のあたりを見て答える。

「あたしは大丈夫ですよ」

 突如現れた謎の奇病––––––夢憂病むゆうびょう

 ひたすらひたすら同じ悪夢を見続け、悪化すればその悪夢が「眼が覚めていても」幻影となって迫り、最終的には現実となる病。

 罹患者は日本全土で一万人を突破し、迫りくる脅威に人々は恐れおののいている。

 原因不明、罹患者は老若男女問わず、感染経路も不明。特効薬はなく、強力な睡眠薬を用いることで病気の進行を和らげる。しかしそれの効果があるのも初期のうちで、進行が進むとそれも意味をなさなくなる。

 進行の早さも人それぞれ、罹患しても気づかず一生を終える人も多いと聞く。しかしそれも一握りだ。

 だから私は誓うのだ。

 目の前にいるこの男に、


 この病気に罹患かからせてやろう、と。


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