第13話 救出と新たな影
(おね……がい……止まって……)
その頃、マリアは激しい動悸のおさまらない胸を押さえて、うずくまっていた。
エルトからの強烈な怒気がマイクローゼを介して直接ぶつけられたため、全身を巡るマイクローゼが活性化を始めたのだ。
荒い息を吐きながら、顔をあげる。
(……役にたてた……の、かな……)
霞む視界の中では、先ほどまでエルト騎がいた場所の木々が揺れている。つまり、戦いは接近戦へと変わったという事だ。
ぐらり、と少女の体が傾く。高木の幹で自分の体を支えていた手が、離れたのだ。
バランスを崩した少女の体は、両腕で自らの体を抱くようにして、高木から落下した。
「……」
真っ逆様に落ちる少女の唇が、かすかに動く。
その動きは、読唇術を収得している者にはこう言っているように見えただろう。
――よかった。と。
「マリア!?」
スピーカーから届いた、吐息混じりにつぶやかれた言葉に、つばぜり合いを続けるジャックは思わず叫んでいた。
「パンドラ!マリアの元まで急いでくれ。全速力だ」
『了解です』
マリアとマイクローゼ交換を行っているこの騎体の管制心理であれば、迷うことなく彼女の元へたどり着けるだろう。
『シッ!』
首をめがけて振るわれたナイフ。それを剣で弾いた勢いを利用して騎体を反転させると、パンドラを疾走させる。
後ろから自分をめがけて飛んでくるいくつもの矢を、巧みな走りで避け、あるいは樹木を盾代わりに使い、パンドラはその騎体性能を限界まで出してマリアのところへ疾駆する。
「……見えた!」
視界に、落下していく小さい影を捉えた瞬間、ジャックはパンドラの両手を水をすくい上げるような格好にかえる。武器の小剣はとっくに腰の鞘へ納めていた。
「跳べ!」
足下に横たわる大樹の根を飛び越え、その勢いを持ったまま腹ばいになると。それまでついていた速度を利用して滑っていく。
その間にも、マリアはどんどん地面との距離を詰めていく。
「間に合え――っ!」
ジャックの叫びにこたえるように、パンドラはその腕を可動域限界までのばす。
そして――少女の小さな体が、漆黒の巨大な両手に包まれた。
「空から落ちてきた少女を、助けたのか?」
言葉にしてみてもいまいちよく理解できない行動だったが、エルトはいつの間にか攻撃の手を止め、その光景をただ見つめていた。
「木の上から落ちてきた……少女?いや……子猫?」
口からでた単語に、エルトは目を見開いた。
なにを言っているのだ。今落ちていたのは間違いなく少女の姿をしていた――では、子猫とはナンだ?
口走った言葉の意味を探して、心に出来た亀裂を押し広げると、記憶の中へと分けいっていく。
「子猫……レットン……あの夜……」
口から溢れる記憶のかけらが、マイクローゼによる鎖をゆるめていく。
「あ、僕は……」
焦点の合わなくなった瞳から零れ落ちる涙をそのままに、エルトは騎体を進ませようとする。
「……っ!」
その瞬間、影からにじみ出るようにして出現した何者かの気配を感じ、濃緑の騎体は踵をかえした。
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