騎士の軌跡Ⅰ ‐夜明けの騎士~Knight and little girl~‐

零識松

第1話 騎士と少女と



 ――星歴1006年に勃発したアロストル共和国とヴァルザール帝国による戦争は、既に開戦から7年が経過しようとしていた。

 以前は騎馬隊を率いた騎士の突撃こそが華であった戦場は、その様相を一変させていた。

 生身の人間に代わって戦場を駆け抜けるモノ――鋼の肉体の中に水銀の血が流れ、搭乗する騎士の操縦によって駆動する人工の巨人。

 登場以降、その一騎当千の力で瞬く間に戦場を席巻したその巨大人型兵器は、鋼鉄騎士――シュタールリッターと呼ばれていた。



  ――星暦1013年


 しとしとと降り続く雨が、テントがわりに張った布とぶつかる。

 その音をぼんやり聞きながら、ジャックの意識は夢とうつつの狭間をたゆたっていた。

 3日間、携帯食糧と水筒で腹と喉を満たしつつ、不眠でシュタールリッターを全速力で走らせ続けたその身体は今、疲労の極致にあった。

 かけ布団代わりにくるまっていた防寒用シートをのろのろとした動作でどかすと、固まった関節をほぐすべく横たえていた身体を起こす。

 彼が身に纏っているのは、朱色を基調としたヴァルザール帝国軍の軍服だ。しかし、その裾や袖はほつれてぼろぼろになり、色も鮮やかさとは無縁になりつつある。

 さらに、襟についているべき階級章も、シュタールリッターのパイロットを示すヴァルキリーマークもない。本来それらがあるべき場所には、ピンの穴が残っているだけだ。

 ようやく小降りになってきた雨の中、外へでる。

「はぁ……」

 ストレッチをはじめながら、ジャックはこれまで身に起こった出来事へ思いを飛ばす。

 それまでの日常が一変し、彼の人生を覆したあの日へと――。

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