おさんですよ

@popo980131

第1話

あぁ、死んだ

今日はお産がありませんように

心の中でマジで願う。

******

「ささっと、チェック終わらせよう」

「うん」

うんと口では言いながら、ちーちゃんの手の動きに見とれる。ちーちゃんは同期18人の中でも、とても気がきいている。さすが、准看護学生から8年間産婦人科のクリニックで働いていただけある。

分娩室の掃除、お産のための器具や薬品のチェック、全て完璧だ。しかも、早い。そして、美しい。ちーちゃんを見てると無駄がない動きって美しく見えるんだなって思う。

助産師さんの中でも、動きが綺麗だなって思う人と「ではない人」がいる。今日私たちの実習担当の前さんは、綺麗な群に入っている人。でも、デビルだ。めっちゃ怖い。


実習に入る時に、実習担当者の前さんにちーちゃんと2人で挨拶をして、お産がありそうかどうかの確認をする事になっていた。

今日は私が直接介助の日。直接介助はお産があったらちーちゃんにサポートしてもらいながら、前さんに指導してもらって、お産の介助を行う。だから、挨拶もお産があるかどうかも私が聞かないといけなかった。


私たちいるんですけど。

挨拶してるんですけど。

産婦さんの入院がありますかって聞いてるんですけど。

顔が怒ってるんですけど。

私たちほんの1分前にあなたにお会いしたばかりなんですけれど。

返事なし。

動悸がする。

こんな時は、じっと待つ。ある意味我慢比べだ。

助産師学校に入学して、半年。

実習担当者さんから返事がないときの対応はできるようになった。

最初の頃はちーちゃんに「どうしよう」って聞いたら担当の助産師さんに「何か言った?」ってめっちゃ怖い顔で言われたっけ。あの顔を思い出すと身震いする。あの時は、前さんでは、なかったけど、、、。


5分ぐらい待ったところで(気分的には30分ぐらい)前さんの手が止まった。

「今日は産婦さんの入院はありません」

「ありがとうございます。」

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