勇者と魔王の子

ryunosuke

プロローグ 「最強の勇者と最恐の魔王」

 世界に二つの種族が存在していた。

 人間と魔族である。

 二つの種族は、世界を二分し対立していた。

 やがて対立は戦争へと変わり、世界を血で塗りつぶしていく。


 人間は世界を救うために。

 魔族は世界の支配のために。

 己が種族の主権を得るがための戦争である。


 人間と魔族の兵力は拮抗しており、戦争は長きに渡り終結を見せず、

大な被害と兵を失い、互いに衰退していく。

 人間と魔族は、紛争を解決するために協定を開いた。

 その結果、一つの提案が上がった。


 それは『人間と魔族が代表者一名を選出して、一騎打ちを行う。勝利を収めた種族がこの世界を統治する』である。


 人間側も魔族側も戦争を継続するだけの国力が有しておらず、この提案に賛成した。



 人間代表は『勇者エレン・オルトーゼ』

 魔族代表は『魔王ガイゼン・グランハルト』



 決戦の場は、人間と魔族の領地の境目である『ポイントゼロ』である。

 ポイントゼロとは、戦争の始まりの地であり、向かった者は誰一人として戻らない激戦の地でもあった。そのため、そう名付けられた。


 荒野と化したポイントゼロに、人間領地から颯爽と現れたのは銀髪の若き女性。

 勇者エレン・オルトーゼだ。

 透き通るような白い肌と蒼い瞳。

 端正な顔つきと華奢な体躯。

 光輝く剣と防具がなければ、美しい姫君にしか見えない。

 エレンは、その姿から『白銀の姫』とも呼ばれていた。



 そして魔族領地からは『漆黒の獅子』の異名を持つ男、魔王ガイゼン・グランハルト。

 堂々たる体躯は、暗褐色に染まり黒い紋様が刻まれている。

 長い漆黒の髪は、獅子の鬣のように乱れ逆立っている。

 真紅に光る瞳は、鷹のように鋭く威圧感を放っている。

 姿形は人間に近いが、異様さは拭えない。

 そして、竜のかぎ爪みたく鋭く尖っている漆黒の腕。

 大きく特化しており、節があり鱗のように覆われている。



 ついに――両雄相まみれる。

 ここに世紀の瞬間が訪れる。 



 ――――最強と最恐が、剣を爪を振り翳かざした。 



 勿論、勇者エレンは人間の中で最強である。

 勇者とは神に選ばれた唯一無二の存在。生きる伝説なのである。

 そのためエレンは崇拝され人間の女王となった。

 神にも等しい存在が敗北を喫するはずがない。


 当然、魔王ガイゼンも魔族の中で最恐である。

 魔族は人間とは違い、王を他者が選ぶなどあり得ないのだ。

 王は選ばれるものではなく、奪うものだからだ。

 魔族にとって、強さが全て。ただ強者に従うのみ、それが魔族のたった一つの掟なのだ。

 その掟が地に伏すはずがない。 


 人間たちも、魔族たちも、互いの王の勝利を確信していた。


 両者は、互いの世界の理想のため戦った。

 剣を振り、切り裂き、魔法を放ち、吹き飛ばす。

 されど、勝負は決着を見せなかった。



 三日三晩続いた戦いで、両者は疲れ果てた。



 ――四日目 どちらからともなく武器を置き、握りしていた拳を緩めた。


 二人は休憩に入る。  

 互いに一定の距離を置きながら座り込む。


「そなた、強いな……」

「……あなたこそ。こんなに手こずった魔族は初めてよ」

「よく言うぞ。そなたこそ女の身でありながら、それだけの武勇。勿体ないわ。魔族ならば、我が妻にしたかったものだ」

「えっ!?」

「あっ、ち、違う。そういう意味ではない!」



 ――五日目 二人は近寄り、普通に会話を楽しんでいた。


「名をなんと申す?」

「エレン・オルトーゼ。あなたは?」

「ガイゼン・グランハルトだ」

「よろしくガイゼン」

「あぁ、よろしく頼む。エレン」

「ふふふっ」

「はははっ」


 どちらかともわず手を差し伸べた。

 二人はしっかりと握手を交わした。

 人間も魔族も温もりは一緒であった。



 ――六日目 二人は手を繋いでいた。


「ねぇ、あなたは何が好きなの?」

「俺は魔怪魚のソテーと金獅子の肉と、あとは…………エレン、そなただ!」

「……わ、私もあなたが好き!」


 なんと、二人は出来上がってしまった。 



 ――七日目 二人は恋に落ちた。


「ねぇ、あなたは子供は好き?」

「ああ、逞しい男児ならな」

「そうね、私たちの子供ならきっと強くて可愛いわ」

「なっ!?」


 ガイゼンは暗褐色の頬をどす赤く染めた。


 勇者と魔王は出来上がる、そんなあり得ない参事が起こってしまったのだ。

 世界中が驚愕した。

 自分たちの勇者が、魔王が、なぜそうなる? と。

 世界の行く先を嘆いた。



 ――十日後、二人は婚姻を宣言した。


 思わぬ形で、長きに渡る戦争は終焉を迎えた。

 こうして人間と魔族の争いに終止符が打たれた。

 二人は人間と魔族の遺恨を失くすため、互いの領土の境目であるポイントゼロに新しい王国を築いた。

 二つの種族の王が世界の中央に存在すれば、争いが二度と起こらないと願いを込めて。

 ほどなくして王子が産まれた。



 赤ん坊の名はマルクス。

 見た目は母エレンのように人間だが、左手だけ悪魔のような手をしている。

 瞳は左右で異なり、右目は蒼く、左目は紅い瞳を宿していた。



 ここに、勇者の血と魔王の血を受け継いだ――最強で最恐の遺伝子が誕生した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る