第9話 8年前の夜

 8年前。真夜中の某所。とあるビルの屋上で二人の男が対峙していた。 一人は、金網に背を付け、白衣を着た老人。左手には、銀色の砂が入ったフラスコをもっていた。そして、もう一人は、霧島周防だった。霧島は、白衣の老人に向かって銃を構ええていた。

「そこまでだ!! 尾崎博士、それを渡してもらいましょう」

霧島がそう言って、尾崎の持つフラスコを睨みつけた。

「これが何なのか解かって言っているのかね?」

尾崎は、少し挑発的な態度でそう言った。

「マテリアル・ナノマシンの密造は、法律で禁止されている。つまりお前は、犯罪者だ」

「確かにナノマシンでは、あるが、ただのナノマシンでは、ない。これは、未来だ。そう子供達の希望と言う名の未来だ」

「戯言は、もういい。それを渡し、投降してもらいましょう」

霧島が少し声を落として言うと、尾崎は、呆れた様子で頭を少し傾けた。

「ふむ。例え貧しくとも子供達には、未来が必要なのだよ。未来があれば生きて行ける。お前も狂った老人達によって、未来を奪われた一人では、ないか」

霧島は、尾崎にそう言われて、強く奥歯を噛み締めた。尾崎の言うとおり霧島は、老害達によって人生を狂わされていた。一流大学を出た所でこの国の景気は、どん底だった。希望した就職先などなく、日々暮らすだけの給料しかもらえない職しかなかった。老人達の行った売国政治のおかけで、九州と北海道は、他国に占領されてしまった。もう、この国の経済は、浮上できなくなってしまった。この閉塞感に誰もが疑問を持ち、抗う事のできない無力感にさいなまれ続けている。権力と金を持つのは、老人達だけで、若年者は、何も持てなかったからだ。老人達は、若年者を恐れ、権力と金を取り上げてしまったのだ。

「たしかそうだ。しかし、そのナノマシンで世界を変えてしまうほど、俺は、現実に絶望していない」

「本当にそう思っているのか?」

尾崎は、霧島の言う「絶望していない」と言う言葉が信じられずにそう問いかけた。そして、この日の夜。世界は、ナノマシンによって書き換えられたのだった。

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