第30話

「やあ」


 思っていた通り、待ち構えているルシファーの姿があった。

 あのぞっとするような冷たい目は消えていて、見慣れた胡散臭くて美しい笑顔を浮かべて立っていた。

 ……何を企んでいるのやら。


「ソレルを何処に連れて行ったのよ! どこにいないじゃない!」

「『どこにもいない』か。 ふうん? 君には色んな能力があるみたいだけど、分からないこともあるんだね。へえ」


 何か思案しているようで、値踏みするような視線を向けてくる。

 イラっとするなあ。

 睨みつけていると、再び緩い笑顔を浮かべて口を開いた。


「近づこうとしたあいつが悪いんだよ。俺は大使と認めていないからね。でも君は認めてるから、半殺しで許してやろうかなって」

「半殺し!? どういうことよ!」

「俺は手を出してないよ? でも、早くしないと死ぬだろうなあ」

「何処に連れて行ったのよ!」


 危険な場所に連れて行かれたことは間違いないのだろう。

 魔物の巣、とかだろうか。

 早くしないとソレルが餌になってしまう!?

 もしくはエリュシオンでベヒモスに拷問されているとか……!


「君一人で来てくれるなら案内するけど?」

「結構よ! 場所だけ教えなさいよ!」

「教えても、俺しか行けない場所なんだけどなあ」

「え」


 ルシファーにしかいけない所?

 エリュシオン内の何処かだろうか。

 ゲーム時代にそんな場所があったかどうか記憶を探るが……全く出てこない。


「マイロード、あのエルフなど放置するべきです」


 必死に考えていると、サニーがはっきりと言い切った。

 そう言うと思った。

 サニーの言う通り、自分の安全を考えるなら見捨てるのが賢明な判断なのかもしれない。

 サニーの同行も認めてくれないようだし、一人でルシファーと対峙するなんて怖すぎる。

 でも……。


 『忌み子仲間だ』と言うと、呆れたように笑っていたソレルの顔を思い出した。

 憎まれ口を叩きながら去って行く姿も。

 ……どうしよう。


「俺はどっちでもいいけど?」


 助けてあげたいけど、確実に何か企んでいるであろうルシファーについて行くなんて自殺行為にしか思えない。


「俺が信用出来なくて迷っているのなら、君に触れないと約束しよう。何ならメガフレアをぶっ放さないように魔法を封じてくれてもいい」

「……どういうつもりよ」

「君と話がしたい、デートがしたいだけだよ。魔封で足りないなら、縛ってくれてもいいけど?」


 縛って連れて行くなんて何プレイよ。

 そんな趣味は無い。

 でも、悪さが出来ないように、しても対処出来るようにするのは良い考えだ。


「じゃあ、これを着て」

「何だ、これ……随分と呪われているじゃないか。……君はこんな物を何処で手に入れるんだろうね」


 放り投げて渡したのは、エルファープの頭を模したフードがついているローブ、『(防具):エルファープローブ ★8』だ。

 ユミルに着せたエルファープスーツは『衣装』だが、今渡したのは歴とした『装備』だ。

 装備は鍛冶屋に頼むと、武器や防具にアイテムを合成して強化してくれる。

 強化には成功率があり、レア度が高い程成功率は低くなる。

 成功すると防御力が上昇し、プラスの効果が付与されたりするが、失敗すると防御力が下がり、マイナスの効果がついてしまう。


 ルシファーが手にしている私のエルファープローブは、失敗作……というか大大大失敗作で有る意味レアなものに仕上がった一品。

 どんな高レベルの者でも、強制的にエルファープの平均的な能力に変えてしまうという恐ろしいものになった。

 エルファープの平均的な能力は身近なところでいうと、ネルが一番近い。

 つまりルシファーが、ネルと同じ程度になってしまうということだ。

 それなら何があっても対処出来るだろう。


 併せてソレルにも渡したオプファーリングをつけて、シールドを張って、完全防備でいけばなんとかなる……はず。


「あはは、こんなに呪われたのは初めてだよ、凄いね! 小さな箱に押し込まれているみたいだ、結構苦しいな。どう、似合ってる?」


 思案している間に、ルシファーは躊躇い無くエルファープローブの袖に手を通していた。

 苦しいと言いつつ、楽しそうだ。

 マゾなのか?

 怖い要素を悉く回収するつもりなのか、こいつは。

 ご丁寧にエルファープの頭を模したフードも被った。

 テーマパークで浮かれてキャラクターの帽子を被っている人にしか見えない。


 ローブをしっかりと着込み、準備は万端という視線を向けてくるルシファー。


「行かないの?」

「ああもう……行くわ!」


 保身だけを考えると見捨てたいけど、ルシファーは凄く怖いけど、やぱり見捨てることは出来ない。

 私が助けないと『死ぬ』のだから、放っておくということは私が殺したも同然に思えるし……。


「マイロード、私も」


 当然付いて行くと横に並んだサニーに、ルシファーは冷めた目を向けた。


「『レイン一人』だと言っただろ。デートについてくるなんて無粋だよ。というか定員が三人までなんだよね。エルフと俺達で満員。残念だったね」


 定員が三人ってどんな場所なんだよ。

 大体デートではない。

 こんなに覚悟をして臨まなければならない命がけのデートなんて嫌だ。


「お前が消えろ」

「俺がいないと行けない場所だって言っただろ?」

「なら……マイロードにはここでお待ち頂いて私が行く」

「お前なんてお呼びじゃないんだよ」


 サニーとルシファーの言い争いが続きそうだが、悠長にしている時間は無さそうだ。

 何が起こっているのか分からないが、ソレルが息絶えてしまう前に助けなければいけない。


「サニー、私が行ってくるよ。急いだ方が良さそうだし、もう行くから」

「マイロード!」

「心配してくれてるのに言うこと聞けなくてごめんね。でも、見捨てたら後悔しそうだから。それに私はサニーの『ロード』なんだから大丈夫よ! 出来るだけ早く帰ってくるから」


 手を握って説得すると、険しい顔をしながらも後ろに下がった。

 納得してくれた……というより私の様子を見て『言っても無駄か』と諦めてくれたのだろう。


 恐る恐る領土から一歩足を踏み出した。

 ここからは身の安全が保証されていないと思うと、嫌な汗が出てきた。

 領土から出る私を、ルシファーは何でも無い様子で見守っていた。

 出た後も飛びかかってくるということはなかった。


「さあ、行こうか」

「マイロード、くれぐれも油断なさらないように」


 サニーの忠告に頷き、足を進めた。

 囚われのお姫様を助けて、さっさと戻ってこよう。

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