第27話 始まる戦争
―1—
霧崎がオレに宣言をしてから3日経った昼。
毎日弁当を作ることにも疲れてきたので最近はよく学食を利用するようになった。コンビニや購買で買うよりも比較的安く済むし、学生のことも考えてあってボリュームとバランスも取れている。
おぼんを手に取り列に並ぶとオレの前には偶然隣人の白川の姿があった。
「あら、三刀屋くんも学食なのね」
「最近はもっぱら学食だ。弁当だと手間がかかるしな。学食だとコスパもいい」
「まるで自分で弁当を作っていた人の言い方ね」
列が前に進んだので白川もオレも前に進む。
「自分で弁当を作ってたからな」
「へぇ、三刀屋くんって意外と女子力が高かったのね」
白川の口から女子力という言葉を聞くことになるとは。魔獣のことや兄のことしか考えていないように思っていたからビックリした。
まあ白川は顔は可愛いし、制服も玉城や江村のように着崩していないので清潔感がある。スカートは少し短いが十分許容範囲だろう。
弁当だってスポーツテストの時のサンドイッチとか自分で作ってきていたように見えた。それで女子力が高いかどうかは分からないが。
「日替わり定食をお願いします」
白川が先に注文して席の確保に向かった。オレも白川と同じものを頼み、後を追う。
「なんで数ある席の中から私の前を選んだのかしら」
味噌汁をすすり顔を上げる白川。
お昼時で混雑しているが、白川の言う通り空いている席はここ以外にもいくらでもあった。
ただオレも何の理由も無くこの席を選んだわけではない。
「白川の耳にも一応入れておいた方がいいと思ったことがあってな」
その言葉におかずを掴もうとしていた白川の箸が止まる。
「3日前に霧崎と南條が接触してきた」
「霧崎くんが……それで彼は何か言ってた?」
「3日後に
「そうね。特には無いわ。強いて言うならすれ違う時に毎回不気味な笑みを向けられることぐらいかしら」
そう言って止まっていた箸がおかずを掴む。
以前白川は、霧崎に
これまでたいした動きが無いだけにそろそろ動き出してもおかしくはない。
「一応白川の方でも気を付けておいてくれ」
「分かったわ」
協力関係にあるのだからこれくらいの助言はしておいていいだろう。
「ところで三刀屋くん、最近毎日勉強会に顔を出しているようだけど」
「誘われた手前、流れでな」
勉強会は、第1回目から毎日開かれている。今日で4回目だ。
誘われた手前とは言っておきながら、あの空間が悪くないと思っている自分がいる。
誰かと話しながら勉強をすることなんて今までなかった。それが新鮮で楽しいのかもしれない。
「白川もどうだ?」
「私はいいわ。三刀屋くんの話だと兄が心配だし、私は病院に行くわ」
「そうか」
それから白川とはテスト範囲についての意見交換をして残りの昼休みの時間を潰した。
1人でテスト勉強している白川は、すでにテスト範囲を一通り復習したらしい。そこからテストに出そうなところを独自でピックアップして2周目に入るそうだ。
オレが出そうだと思っている範囲と大体被っていたので、オレもこのまま勉強を続ければ赤点は回避できそうだ。
―2―
放課後になり第4回目の勉強会の時間がやってきた。
今日は図書室が込むことを見越して教室で行われることになった。メンバーは第1回から変わらずオレ、橘、和井場、江村、武藤の5人だ。
オレたちの他にも居残りをしてテスト勉強をしている人もいた。
学校だと分からない問題があった時、すぐに瀧川先生に聞くことが出来るという利点があるからな。家で1人で勉強をしていて分からない問題が出てくるといつまでもそこでつまずいてしまうものだ。
瀧川先生もテストには協力的なので、時々教室に顔を出しに来てくれるそうだ。
「ねえ、お昼に食堂で三刀屋くんが白川さんと2人で食べてるの見かけたんだけど2人って付き合ってるの?」
「おい三刀屋、俺は聞いてねーぞ」
江村のそんな話からテスト勉強は始まった。どうやら見られていたようだ。
白川に好意があると言っていた武藤もこの話題に食いついてきた。
「いや、たまたまだ。1人で食堂に行ったら偶然白川と会ったんだ」
この説明に間違いはない。紛れもない事実だ。
「でも三刀屋くんと白川さんって隣の席でしょー。なんかそれだけじゃなさそうな感じがするんだよね。和井場くんはどう思う?」
「わいは白川さんとはあんまし関わりが無いからな。ちょっと分からんわ」
和井場が困ったように笑顔を見せる。なぜだか分からないが入学式の日から白川は和井場のことを避けているのだ。
すると、1人で勉強をしていた塩見がキィーっと椅子の音を立てて立ち上がった。机に並べられていた教科書類をバックに急いで詰め込むとチャックも閉めずに教室から出て行った。
一瞬静まった教室内も塩見がいなくなって再び平常運転に戻る。
「あれって塩見さんやな?」
「何かあったのかなっ」
コミュ力高い系の和井場と橘が塩見の様子がおかしかったことを心配する。
こういう周りや他人の異変に気付けるところが人気と直結しているのだろう。相談とかしても親身になって聞いてくれそうだしな。
「私、あの子何考えてるか分からないからあんまり好きじゃないんだよね」
塩見とは正反対の性格にいる江村が興味無さそうに机にあったシャープペンを握る。
「これから同じクラスでやっていくんだし、そういうこと言っちゃ可哀想だと思うな。それに同じクラスになったのも何かの縁だと思うよっ」
「ま、まあ、橘さんがそう言うならさっきの発言は取り消すよ」
実に平和主義らしい橘の意見だ。
クラスや学校内である程度の地位を築いている橘の意見とあっては江村もそう言うしかなかったようだ。
「でさ脱線したんだけど結局三刀屋くんは白川さんのこと好きなの?」
脱線したのは分かるがどう元に戻したらそんな話になるんだ。江村は興味津々といった様子でオレの答えを待っている。
どうして女子は恋バナが好きなのか。まあ男子も似たようなものなのかもしれないが、オレはこの手の話が苦手だ。どんな顔をして話せばいいのか分からない。
「白川は隣の席で良く話すクラスメイトってだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「なんだつまんないのー」
江村はオレに何を期待していたんだか。
武藤も何もないと分かるとターゲットを橘に移したようだ。苦戦している数学の問題集を橘に見せていた。
オレも問題を解こうと数学のノートに目を向けようとしたら瀧川先生が教室に入ってきた。腕で抱えるようにして大量の紙パックのジュースを持っている。
「どうだ、テスト勉強は進んでるか?」
「今やってるところっすよ」
武藤が気怠そうに先生にそう返す。
どこかから、恐らくあの紙パックは購買で売っているものだ。それを教卓に置くと瀧川先生がそのうちの1つ、イチゴミルクを右手に持った。
「勉強を頑張っているお前たちに先生から差し入れだ。甘いものでも飲んでいったん休憩しろ」
「うおっ、マジか! 先生流石っすわ」
武藤がイチゴミルクを受け取ると腰に手を当てごくごくと喉を鳴らす。
「んー、甘いけど美味いぜ」
勉強をする時は脳を使うので糖分を取ると良いとされている。それを知ってか机の上にチョコレートを置いている生徒もいた。
教卓の上にはイチゴミルクの他にもバナナジュース、コーヒー、水やお茶など様々な種類の飲み物が揃っていた。甘いものが苦手な生徒もいることを予想してのチョイスだろう。
その中からオレはバナナジュースを手に取る。
「三刀屋くんはバナナジュースか。じゃあ私は桃ジュースにしよっ。瀧川先生ありがとうございます」
「ああ、どういたしまして」
先生に礼を言った橘は、瀧川先生にテストで分からない問題の相談を始めた。瀧川先生は、橘から数学の問題集を受け取ると、説き方を細かくアドバイスしていた。分かりやすい説明だったのでついオレも立ち聞きしてしまうくらいだ。
と、問題が解き終わるといういいところでポケットの中のスマホが振動した。
画面を見てから廊下に移動する。スマホには知らない番号が表示されていた。
『誰だ?』
『クックックッ』
電話越しの相手から不気味な笑い声が聞こえてきた。
『霧崎か。どうやってオレの番号を知った?』
『騒がしいな。そこは学校か? 早く帰って来いよ三刀屋奈津。戦争を始めるぞ』
オレの質問には答えず一方的に話し始めた霧崎。こうすることで自分のペースにしようとするいつものやり方だ。
『戦争とはまた随分と物騒だな』
『なに、予告はしたはずだぜ。俺がお前より先に三刀屋の家に着いたら
ということは霧崎はまだオレの家にはいないということか。オレの家の場所は恐らく以前付けられた発信機でバレている。
『あばよ』
オレが言葉を発する前に電話が切られた。まずい。家にはクロもいる。霧崎に見つかったら何をされるか分かったもんじゃない。
オレは教室に戻ると帰り支度を急いで済ませた。
「みんな悪い。ちょっと用事があったのを思い出した。このジュースも誰か飲んでくれ」
「お、おい三刀屋」
武藤の声を背中に感じ、オレは家へと向かって走った。
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