第10話 西の神
透明な板に乗って浮上した僕たちは、ある部屋へ通される。
「神の間、などと呼ばれる部屋だ」
「……神? まさか」
「そのまさか、ってやつかな」
彼を見ると、ナリアがカウチに横たえられたところだった。
「まあ、納得しない事には話が進まんからな。……そうだな、これでどうだ?」
彼の左の掌に、流氷のような形をした氷が形作られた。
「よい、しょっ!」
おもむろに彼は、広間の階段上に氷塊を投げる。
すると氷は姿を変え、着地したそばから美麗な細工の、立派な椅子へと姿を変えた。
「あぁ……」
何とも言えないため息が口をついて出る。これは神の所業というほかあるまい。
「うん、分かってくれたようだから話をするよ」
神は大仰に頷いて、玉座に腰かけた。
「俺は、西の神だ。といっても、就任一日目の新米でね。伝承に関して言えば、君たち土地の子供の方がよく知っているだろう」
片眉を上げて何かを促す神。
「……すわってもいいですか」
「どうぞ」
伝わっている伝承は数えるほどだ。適当に答えておこう。
「いいかげんな子供には、神様の罰が下るそうです」
すると、驚く顔をする神。
「あっはっは! うまく伝わってないってことがよくわかったよ!!」
上機嫌な西の神。神はたくさんいるというが、みんなこんなのだったら疲れちゃうぞ?
そして気づいた。この神、リリに聞かせないように話を進めているのじゃなかろうか。
それにしては、大声で笑ってるな。気のせいだ。
「……そうそう。そういう優しい顔があるから、俺は君たちを助けたんだ」
心を読んだように神は付け加える。
「そうですか」
突然不安になる。もしかしてこの神、まだ本題を口にしていないのでは?
いつの間にか出現していたガラスの紅茶に手を付けていない。
その視線に割って入るように、神は紅茶に口をつける。
「……さて。ここからが本題だよ、ロン」
名乗ってもいない僕の名前を、平然と口にする神。
額に汗が流れるが、もう大したことでは動じない。
「現在、君たちの体は俺の力で補っている。正直、あそこで死んでいてもおかしくはなかったのさ」
「ロン君は体のショックが大きかったが、そこの彼女は精神的な要素が強かったみたいでね、気付かせることができなかったんだ」
カウチを眺める神。僕もつられてその寝顔を見つめた。
「そろそろ目覚めるだろうが、君たちだけをずっと守っている訳にはいかなくてね。……君たちの寿命はまだまだある。運命と人生を
さっきから何かが引っ掛かる。こいつの喋り方は何かがおかしい。
「僕たちの体は一体どうなっているんだ?さっきから的を射ないハナシばっかりだ」
言いにくそうに口の端を歪めて話し出した。
「あそこで君たちが死亡するのは実に大きなイレギュラーだったんだよ。塔の崩壊に巻き込まれる事なんてありえない事だからね」
姿勢を少し崩して続ける。
「君たちの寿命はまだ長い。しかし、力学的に衝撃を免れることはなかった。だから、無事だった部分で体を再構成し、その器に君たちの魂と寿命を付与したんだ」
ついに、質問が口を突いて出た。
「僕たちは全くの別物に改造されたのか?」
その質問に、視線を上げる神。
「いや。同じだともいえる。ただ単に、俺の力が加算されているだけだ」
変なことを言う。
「ん、うう。ろん……」
「目覚めたようだね」
「ナリア。よかった……」
和む部屋にたちまち悲鳴が響く。
「えっ?誰っ!」
「助けてくれたんだよ。このひとが」
「え?たすけたって、え?どういうこと」
ナリアはショックが大きくて記憶が飛んでいる様だ。
オルド【朝東風シリーズ二作目】 登月才媛(ノボリツキ サキ) @memobata-41
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