-3日目- 「無限タイムループ」

私は覚悟を決めた。どうせタイムループを繰り返すなら、無為に時を過ごすよりも意味のあることを成し遂げたい。たとえ、それが翌日にはまったくの徒労に終わったとしても、またその翌日も同じことの繰り返しに終わったとしても、自分が納得出来るまでやり遂げればいいのではないか?もしかしたら、いつかは落胆し、悲嘆に暮れる日が訪れるかも知れない。でも、それはそれで仕方ないではないか。今はこの様な有り様であっても、ほんの3日前までは未来とはどうなるかは判らないもので、私ひとりの手で何とか出来る様なものでは無かった。それがタイムループのパラドックスに閉じ込められたおかげで、多少なりともその日のうちの先の未来がうかがい知ることができ、危機を回避出来るギフトを得られたのである(ギフト?むしろ呪縛に近いけれど)。私の中でそうした時の答えが判っているのであるならば、それを見過ごさずに受け止めるのか、それともやり過ごして次へと向かうのかの取捨選択は、私自身に任されているのではないか。そうしたことでその先にやってくる未来が、同じなのか、またそうでないのか、それはまったく判らないという点では、意味は本質的には同じ筈である。たとえ、挫折し、絶望感に苛まされる可能性があるにしても、当面は逃げることなく、目の前の問題に立ち向かって対処していこうと心に決めた。

先ずは彼女に自殺を思い留まらせることが先決だ。突然、見ず知らずの女が現れて、「死んじゃ駄目、命を大切にして。」だなんて声を掛けられたらどうなんだろう。驚くだろうか。私なら、気味が悪くて、むしろ警戒するかも知れないな。あの娘にしても、それは同じかも知れない。彼女が心の奥底で抱えている闇、投身自殺をするまでに悩み追い詰められた葛藤を含めて、彼女の抱えている苦しい想いを汲んだ言葉を掛けてあげる必要がある。どうしたらいいの?私は自分の場合を除いて、あの様な生死を分かつ様な場面に直面した経験が無かった。だから、彼女に何て声を掛けたらいいのか皆目見当もつかない。初対面の、まだ会話すらもしたことの無いあの娘の前に、立つのですら躊躇われる。いま、私が出来ることだけを考えよう。時が凍結した瞬間、見開かれたままの瞳を通して、私の中に流れ込んで来た彼女の死を迎える間際のあの絶望的な哀しみと畏れの感情、それは私だけが彼女と共有して、私だけが知っている。その想いを明日の彼女に伝えなければならない。もしかしたら、その想いを告げられた暁には、私が時を繰り返すその意味が明らかになるかも知れない。それが私を行動へと突き動かす原動力となった。



その夜の午前零時ちょうど、山の手線のホームから私は身を投げた。



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