7 自分の魔法と

「結局あの女子のこと分からなかったな」


 久炉は少し昔のことを思い返しながらため息をつく。花火はそれを横目に口を開いた。


「でもさ、本人が反省してるって言ってたんでしょ? なら少しは信じてみたら? まあ……私も正直信じられないけど」



 練習場所の鍵を手に入れるために柴田の元を訪れた際。真っ先に言われた事が昨日の女子生徒が謝罪していた事を知らせる言葉だった。


 仮面の女子生徒は目を覚ましてから、ポイント制への焦りから、適当な生徒に戦いを挑んでしまったらしい。あの仮面は素性を判別され、今後の学校生活に影響が出ることを懸念したためであったとか。


 そして、可能であれば、彼女の詳細についての詮索は控えて欲しい。これは柴田からの頼みだった。女子生徒は久炉達に素性を知られたくないらしい。考えてみればそう考えるのも自然なことだ。


 仮にも久炉は学園の初代生徒会長である。生徒の代表という立場の人間に悪事を言いふらされたら、この学園で生活していくのは困難となる可能性が高い。


 これには久炉も軽い憤りを覚えた。他の生徒に吹聴するつもりは元からない。だが、『もし、あの子の顔と名前が分かって、これから先、仲良くできる?』という言葉に湧き上がった感情は一撃で沈められた。


 あれだけ追い回された相手とは友好を築くのは難しい話だ。それならば知らないままの方がいいのかもしれない。というのは建前だ。あんな思いをしたのだ。納得なんてできるわけがない。



 どう考えても彼女とは『制度に焦ってつい仮面を手に取り、偶然見かけた生徒に攻撃を仕掛けた』等という出会い方ではなかった。


 用事で呼ばれていた職員室を出て、少し歩いた先で出会った彼女。偶然とは縁遠い出会いだった。

 後をつけられたか、適当な生徒を待ち伏せいていたところを通りかかってしまったか――久炉はそのどちらかである気がしてならなかった。


 今更ながらに倒れた棚やら備品やらをかき分けて彼女の仮面を引っぺがしてやればよかったと思うが、時はすでに遅い。教員が駆け付けるまで呆然としてしまった自分達も悪かった。


 いつかは彼女の魔法を見れば判別できるだろう。身の安全のためにも早めに相手を割り出したい。とはいえ、相手の詳細が分かったところで、自分達が戦えなければ自衛できない。

 そう考え、魔法の練習へと意識を切り替えた。



 その後、久炉と花火は柴田から魔法実習棟の個別魔法実習室の鍵を借り、魔法の練習に来ていた。

 ここは個人が魔法の練習をするために作られた部屋だ。魔法に対して防御力の高い素材で壁や床が作られているため、部屋を吹き飛ばすような事態は起きない。


「この後また生徒会の用事あるんだっけ? 早めに練習終わらせよっか」


「あー、うん、めんどくさいわー……。昨日は花火から魔法使ったし、今回は俺からやろうかなー」


 少し見栄を張り、部屋の中心部へ向かう。花火は爆発の可能性を知っているからか、さっさと出入り口付近に下がってしまった。

 調子に乗ってしまったが、今度は事故なしで魔法が使えるだろうか。不安が湧く。


 腹を括る。昨日のように右腕を突きだした。魔法を発動する。よくわからない感覚に意思を込めた。ぞくりと震えが起きる。不安でも恐怖でもない。高揚感だった。


 左手首にはめられた腕輪灯った赤い光。例の感覚から魔法が発動することが伝わる。爆発の惨状は体に叩き込まれていて、反射的に目を閉じた。

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