流れ星

夜中、寝ていると彼女から電話がかかってきた。

「どうした?まだ夜中だぞ」

『ちょっと、寝れなくて…』

沙織は時折こうやって寝れなくなることがある。

別に病気というわけではないのだがなぜかあるそうだ。

いつもはこうして電話をしていると安心して寝れるというので話しているのだが今日はなぜか朝やっていたニュースを思い出す。

「今から少しドライブに行くか。出れる?」

『今から?いいけどどこに行くの』

「いいところ」

そう言って電話を切り家を出る準備をする。

携帯、財布、鍵…

一つ一つを確認して忘れ物がないことをチェックする。

そうして車に乗り沙織の家に向かう。

「確か今日は流星群が一番見える日だったはず」

向かう途中何度が信号に引っかかったので信号待ちをしている間に携帯で確認をする。

やっぱり今日だ。ならよく星が見えるところに行かないと。

それからしばらくして沙織の家に着く。

夜の遅い時間なのでインターホンを鳴らすわけには行かないので電話で呼ぶ。

するとすぐに玄関の扉が開き沙織が出てくる。

家の鍵を閉めこちらに向かってくる。

そうして助手席のドアを開け車に乗ってくる。

「こんな時間に起こしておいてなんだけどいいの?明日仕事でしょ?」

「一日くらい多少寝てなくても大丈夫だよ」

そう返事をして車を出す。

「それでどこに連れてってくれるの?」

「それは着いてからのお楽しみだ。それよりコンビニ寄っていい?」

「いいよ、私も何か飲みたいし」

そのまましばらく車を走らせるとコンビニが見えてくる。

そこに入り車を止める。

「私が買ってくるから待ってて。何がいい?」

「コーヒー、無糖がいいな」

「無糖コーヒーね、わかった」

そう言って彼女は車を降りた。


コンビニに入り真っ先に缶コーヒーを見つめる。

そうして自分用のカフェオレと無糖コーヒーを手に取りレジに行こうとしたがこれだけでは物足りないと思いお菓子を見つめる。

「コーヒーに合いそうなお菓子…チョコかな?」

そう一人で呟いて一口チョコを手に取る。

変にストロベリーや抹茶などにせずいたって普通のミルクチョコを選んだ。

「ありがとーございましたー」

やる気のない声を背にコンビニを出る。

この時間なんてお客さんはほとんど来ないだろうからどうしても退屈に感じてしまうのだろう。

そんなことを思いながら悠の車に戻る。

「はい、コーヒー」

コーヒーを手渡しシートベルトを締める。

悠は一口コーヒーを含むと車を発進させる。

私は買ってきたチョコを開けて口に入れる。

するとそれに気づいた悠が信号に引っかかった瞬間こちらを向いて口を開ける。

「せめて欲しいって言ってほしいんだけどな」

「いや、わかるかなと思って」

そんな彼に軽くため息を吐いてチョコを一つとる。

そうして彼の口に投げ入れる。

それをおいしそうに食べながらご機嫌で運転をする。

どんどん信号の数も減り外灯も減っていく。

「ねぇ、どこまで行くの?もう周り木しかないんだけど」

「そうだな、一言で言うなら田舎だ」

「い、田舎って…」

「心配すんなって、ちゃんと楽しみはあるから」

正直不安だった。

こんな山の中に楽しみなんて…

悠は私の気も知らないでどんどんと車を進める。

「着いたぞ。あ、車からは降りなくてもいいぞ。とりあえずちょっと空を眺めてみろ」

「空?」

悠に言われフロントガラス越しで空を眺める。

私たちの町では見れないくらいの星が夜空に散りばめられていた。

「綺麗、ちょっと町から離れるだけでこんなに星が見えるものなんだね」

「まだまだ、これからだぞ?」

悠がチョコを口に投げ入れながら言う。

「これからって?」

「ほれ、目を離すなって」

そう言われ再び視線を夜空に戻す。

その数秒後、夜空に浮かんでいた星の一つが流れる。

「え、え?今のって―」

「そ、流れ星。今日が流星群が一番見れる日らしいからな」

そう言っている間にも一つ、また一つと流れていく。

目に見えているだけでも結構な数が流れている。

「ほれ、もっと楽な姿勢で見よう」

そう言って悠は座席を軽く倒して楽な姿勢をとる。

私もそれに習って楽な姿勢をとる。

「そういや、流れ星に三回お願いを言ったら願いが叶うって言うよな」

「それって無理じゃない?」

流れ星はいつ流れるかもわからない上に本当に一瞬なのだ。

そんな中三回も願い事を言えるとは思えない。

「だよな。誰だよ、そんなこと言い出したわ」

「もしかしたら本当にやった人がいて願いが叶ったのかもよ?」

「そんなの隕石が地球に落ちてくる途中で『でっかい隕石でが降ってきて恐竜時代が終わりますように』って願いでもない限り無理だろ」

「なんでそんな変にピンポイントなのよ」

なんて他愛もない話を悠としながら流れ星を見ていると自然と瞼が落ちてきた。


「おい、寝てるのか?」

途中から話のペースが遅れてきた沙織に問う。

「ぅう、寝て…ない……よ?」

なんてテンプレな返しだろうか。

自然と笑みがこぼれる。

「願い事ね…」

今の自分の願いか。そうだな、今の願いは―

「沙織(こいつ)が安心して寝れることかな」

と呟いてみる。

きっと自分も知らないうちにストレスを感じているのだろう。

そのストレスを軽減してやりたいと思いながら流れ星を見つめる。

「んぅ…ゆ、う」

一体どんな夢を見ているのだろうか、そう思いながら沙織を見る。

幸せそうな顔。きっと悪い夢ではないのだろう。

そろそろ戻ろうと思い座席を戻す。

エンジンをかけシートベルトを―締める前に沙織の方を見る。

どうやらぐっすり寝ているようでラジオの音でも起きる様子はない。

それでも音量を下げさらに積んであったひざ掛けをかけてやる。

そうして軽く頭を撫でてやりながら「起こさないようにしないとな」と呟いてシートベルトを締め静かに走り出した。

翌朝、沙織が目を覚ましたのは悠のベッドでそのベッドの主は硬い床で寝ていたという。

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