お酒の力
いつも不愛想な悠木。
そんな彼と今日は一緒にお酒を飲むことになった。
それはもちろん彼が二十歳の誕生日を迎えたからだ。
そんな悠木のために比較的飲みやすいお酒をチョイスしてきた。
「それが…これ?」
そう言って手に持っていたのは梅酒。
「そう、梅酒ならジュースっぽくて飲めるかな~なんて」
「アルコール度数を見てください、とてもじゃないけど初めてでこれは怖い」
そう言ってパッケージのアルコール度数のところを見せてくる。
「だれもそのまま飲めとは言わないわよ。水割りやソーダ割りって言うのがあるんだから」
そういいながら炭酸水で割ってあげる。
(ただソーダ割りはあんまりおいしくないのよね)
それを渡し私は自分用で買ってきたビールを開ける。
「それじゃ、カンパーイ!」
「か、カンパーイ…」
とりあえず渡されたソーダ割りの梅酒を一口。
確かにジュースのような感じだがあまりおいしいとは思えなかった。
「どう?初めてのお酒のお味は?」
彼女、瑞希がそう聞いてくる。
「これなら普通にジュース飲んだ方がいい気がしますけど」
「でもそれが大人の味よ?」
そういう瑞希の手にはもっと大人の味がしそうなビールが…
ひとまず貰った分の梅酒は飲み切らないといけないかなと思いちびちびと飲み始める。
しかし本当においしくない。
半分くらい飲んだところで瑞希のビールが無くなったのかこちらの梅酒を見ていた。
「飲む?」
欲しそうに見ていたので聞いてみると頷いたので渡す。
そして一気に飲み干す。
「うわぁ、あんまり友達から聞いていたけどあんまりおいしくないね」
「知っていたなら何で飲ませたんですか」
「ほら、お酒初めてならこれがおいしいって思うかなって」
「まずいです」
「ごめんって。それじゃロックで行ってみる?おいしいっていうけど」
瑞希にそういわれ仕方なくロックでも飲んでみることに。
恐る恐る口にする。
確かにソーダ割りよりはおいしい。
「こっちの方が確かにおいしい」
結局ロックで飲み続けることにした。
それから30分後、梅酒も無くなり今飲んでいるのは瑞希だけになった。
瑞希は3本目のビールを開けていた。
「ビールっておいしい?」
先ほどから気になっていた疑問を瑞希にぶつける。
「ん?おいしいかおいしくないかって聞かれたらそりゃおいしいに決まってるでしょ。じゃないと飲まないし」
「それもそうか、一口貰ってもいい?」
「どうぞ~」
そう言って缶ビールを差し出してくる。
それを受け取り一口飲んでみる。
「!?!?にっが!!!!」
「あははは、そりゃそうなるよね。私も初めはそうだったんだから」
缶ビールを瑞希に返して睨みながら呟く。
「ビールなんて絶対に飲まない」
ビールを一口飲んでからというもの悠木はちっともしゃべってくれなくなった。
「ねぇ、そんなにまずかったなら謝るから」
何度もそういってもしゃべってくれない。
仕方なく無言で新しいビールの缶を取り出し開ける。
すると横から奪われてしまう。
「あ、ちょっと!!」
先ほどまでしゃべりもしなかった悠木が突然私のビールを奪ってまた飲み始める。
仕方なく新しいのを取りに行こうと冷蔵庫に向かおうと立ち上がった瞬間服の裾を引っ張られる。
「これあげるから立っちゃダメ」
突然のことに思考が追いつかない。
そのまま立ち尽くしているともう一度言われようやく思考が追いつきその場にもう一度座る。
「はい、これ飲んで」
そういう悠木は今まで見せてくれたことのないくらいの笑顔だった。
受け取ってとりあえず飲む。
「えへへ~、間接キス~」
なんの前触れもなく突然そんなことを言うものだから思わず吹き出しそうになる。
「ごほっごほっ、突然どうしたの!?」
「ん?なんでもな~い」
そういうとさらに表情を崩す悠木。
今まで何があってもこんなことを言ってこなかったのに…。
もしかして…酔っておかしくなってる!?
酔った悠木の暴走は止まらない。
ハグを求めてきたり頭を撫でてくれと言って来たり…。
「でもこれはこれでいいかも♪」
その夜は普段見ることの出来ない悠木をたくさん見た気がした。
翌朝、起きると目の前に瑞希の顔が目の前にあった。
瞬間真っ赤になる悠木の顔。
(昨日の夜…何言ってんだ)
昨日のことははっきりと覚えている。
頭を撫でてもらったりハグを要求したり…。
思い出すだけでも恥ずかしい。
もぞもぞ動いていると瑞希の方も目を覚ます。
「あら、おはよう。どうしたの?顔真っ赤にして」
悠木はそういわれか細い声で言った。
「昨日のことは…忘れてください」
「昨日のこと?あー、『ハグして~』―」
「それを言わないでください!!!」
顔を真っ赤にしながら言う悠木。
これからしばらくは絶対に瑞希の前ではお酒を飲まないでおこうと心に誓った悠木だった。
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