第5章 オアシス
オアシス着
ホリル、クー、それにミコシエの三人が中継地点であるオアシスの町に到着した。
ヨッドが、テイーテイルで僧侶シシメシの容態を見つつ、ハガル、レーネが戻るのを待つことになったのだ。
オアシスに着くと、船乗り達が龍の危険が去ったことをオアシス側に伝え、オアシスからのテイーテイル行きの便も再開されることになった。
護衛として乗船した三人は、すぐにテイーテイルに戻るか聞かれ、そうすることにしたが、この日はもう午後も遅く、船の準備等もあっていちばん早い便で明朝ということであった。
「ミコシエさま大丈夫?」
「ああ、少し、船酔したみたいだ。なにすぐ直るさ」
砂の港に着いて、船を降りる三人。
中継地点なのでテイーテイルよりはかなり小さいが、周囲を椰子林に囲まれ広い湖が広がっており、景色は良い。
幾つかの大きなホテルも立ち並んでいるのが見えている。
船の近くにしゃがみ込むミコシエとそれを心配そうにするホリルをよそに、クーはぴょんぴょん飛び回っている。船の上でも一人はしゃいで終始元気そうであった。
「おおー、一足先にぃ、オアシス到着だー解放感っ」
ヨッドもシシメシもこのまま置いてっちゃおうか。などとクーは言っている。
「ヨッドは辛気臭いし、シシメシは変態だし」
言いたい放題のクーに、ミコシエはシシメシ殿は病人だろう、と言う。
「まあ、そうだけど、あれは簡単に死にはしないと思う。あの木こりのおじさんと女の人の二人が薬草を採ってきたらすぐに治っちゃうよ」
それにもちろん、冗談ですよ、とクーは言って、
「ねえ。ミコシエさまにとっては、あの女の人は置いていけない大事な人?」
と聞く。
ホリルは、おい、とクーを注意しかけたが、ミコシエは、
「あの人とは、約束があるからな。置いていくわけにはいかないさ。オーラスまではな」
と答えた。
「ふぅん……」
気になるけど、とクーは聞こえないくらいの声でぼやき、
「ともあれ、明日の朝までは船は出ないのだし、せっかくのオアシスなんだからあ、今夜はゆっくりしてゆきましょうよう!」
と明るく言うのだった。
「だめだ、どうせクーのことだから、そんなこと言ってたら朝の便に乗り遅れるのがオチ」
そう言うホリル。
「わぁったわよ。じゃ、ミコシエさまと二人で楽しむからいいんだから! ね、ミコシエさま」
ホリルが呆れるばかりだったが、ミコシエはふとしたのりで「ま、それもいいかもしれんな」などと答えた。
「無事、一難は去ったのだ。もちろん、朝の便に間に合うよう、適度にな」
「ほ、本当ですかミコシエさん。その、そいつ……酒癖悪いですよ。気をつけてくださいよ」
「何。ホリルは一緒しないのか」
「ホリルは要りません。つまらないですから」
クーはホリルにべーっと言う。
「くっ、この、ほんとにちょっといらっと……ま、まあ、僕は遠慮します。勇者たるもの、こんな盗賊娘に付き合って品格を落とすようなことはしたくありませんからね」
「あははっ。子どもね。ミコシエさまのように大人であれば、わたしみたいな盗賊娘に付き合って簡単に落ちるような品格ではないわ。まあ、まだ勇者になってさえない見習いホリルには無理でしょうけど」
そう言うクーを見て、解放感も後押ししてなのか随分と悪態を付くなと、ミコシエも思った。
「……いや、私も半分冗談のつもりだったのだが。ともあれ、夕食にしよう。ホリルも夕食抜きはないだろう?」
「え、ええ。もちろん。お腹はぺこぺこです。恥ずかしながら、いつ龍が戻ってこないかと、船旅は緊張しっぱなしでした」
三人は、食事どころを探し、歩き出す。
ホリルはほら、ミコシエさんは冗談で言ったんだってさ、とクーに向かって言っているが、クーはもう約束したんだから、とすでに今夜は楽しむつもりでいるらしい。
立ち上がると、少しふらつくミコシエ。
砂漠船酔いがまだ少しだけ醒めていないらしい。
「ほらクー。ミコシエさんには休んでもらった方がいいな」
「そんなあ! せっかくなのにぃ」
「いやいや」
ミコシエはすぐ立ち上がり、
「すぐ直るさ」と言ってまた、ふらつく。
さっきも言っていたと二人は思う。
「せっかくのオアシスだ。私も少しだけ、楽しもうと思う」
「ほらね! やった」
これは、明日ミコシエが起きれるかが心配だなとホリルは思った。
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