リーネの葉

 翌日、ミコシエらはホリル一行と改めて合流した。

 

 墓所に行くことや龍の対策を練る前に、レーネは、熱病に倒れているという仲間の僧侶のことは大丈夫なのか、問うた。

 

「その人の助けにはなれないかしら? とは言え、治癒に長けた人はいないけど……」

 

 それにホリルが答える。

「宿のすぐ近くの医院にいます。医師達が診ていますが、この熱病は数ヶ月熱が引かないこともあり、治る治らないは五分五分である、と……治らない場合には、命を落とします」

 

 まあ……と言い、レーネは言葉をなくした。

 医師が診てそうなのだから、自分達にできることはないだろう。

 レーネは、旅立ちの前にせめて見舞いにだけでも、と言ったが、ホリルが言うには、今は面会が叶う状態ではないとのことだった。

 

「昔は、近隣の山々でも採れたらしいのですが、特効薬に必要なリーネという植物の葉が、今はもうないのだそうです」

 

 それを聞いてハガルが、思いついたように、

「リーネの葉か」

 と呟いた。

 

「わかるの? ハガル」

「ああ、普通にわかるぜ。おまえたちが越してきたエルゾ峠にも、昔あった。昔と言っても、まだ俺が子どもの頃だが、熱を出した村人を直すのに、ちょっと葉っぱを採ってきてくれとか言われて」

 

「採ってきたのですか、実際に?」

 ホリルは、驚いたようにハガルに問う。

 「ここで聞いた話だと、昔というのはもう百年以上とかも昔の話だということでしたが、あなたが子どもの頃だとまだ、そんなに……四、五十年くらいですか」

 

「おい待て。俺はまだ三十前だから、せいぜい二十年かそこら前だろ。ただ、今じゃリーネの葉っぱなんか使わなくても、町から買ってこれる薬で用が足りてたが、なんでい、リーネの葉の方が効果あるのかね。まだ、俺の山の近くで普通に採れると思うんだが……」

 

「そ、そうなのですね。エルゾ峠ですか。聞いたことはあるけど、あちらの方面から来る旅人は少ないから、まさかそこでリーネの葉が採れるとは皆知らないのでしょう」

 

 ホリルはそう言い、

「では、僕達はそこへ向かうことにしましょう……それでうちの僧侶が治れば、ミコシエさん達に迷惑をかけることもないし」

 と述べた。

 

 ハガルはそれを聞いて、

「だが勇者さんよ。目の前で困っている人々を助けるのも、勇者の役目だろう?」

 と言い、

「薬草のことぁ、おれに任せな。採ってきてやらぁ」

 と胸を張った。

 

 ホリルは、ハガルまで巻き込むことに、本当に申し訳ないと謝った。

 

「おいおい。勇者が、そんなうじうじしてどうする? ここはがつんと、俺に任せな! 悪霊の方は、ミコシエがいれば何とかなるだろう。悪霊と友達のような面してるそいつのことだ」

 

「龍はどうする?」

 ミコシエがぽつりと述べる。

 

「龍については、私に任せてください」

 そう言ったのは、ヨッドだ。

「龍は、どのみち、あなたのような力任せの戦士でどうにかなる相手ではない。正直、今のホリルの手にも負えないでしょう。まだ、勇者としては駆け出しですからね」

 

 ヨッドがそう言っても、ホリルは今の自身の実力はわきまえているので、何も言わなかった。

 

「龍は古い知恵を持つ者。私か、あるいはミコシエ殿が対峙すべき相手となるでしょう」

 

「やれやれ」

 とミコシエは言った。

「悪霊だけではなく、龍も私の相手か」

 

「すみません……勇者になる者なのに、今は力がなくて」

 ホリルはまた申し訳なさそうにした。

 

「ホリルは、しっかり見ておくといいでしょう。あなたが勇者になる前の、語られざる出来事として……ホリルあなたにとっても、それに、ミコシエ殿」

 

 ヨッドは鋭い目線をミコシエに向ける。

 

「あなたにとっても、この戦いは意味のあるものになるはずだ」

 

 ミコシエは、答えずに、頷いた。

 うつむいただけにも見えたが。

 

「じゃあ、私は」

 と、そのやり取りを見ていたレーネが切り出す。

「薬草採りの方を手伝いにいきましょう。私はもう勇者の旅には関係のない人だし……」

 

「わ、あたしはミコシエさまと、や、ホリルと行くからね」

 あたしを忘れないでよと、クーが間に入ってくる。

 

 それからクーはレーネの発言から、やっぱレーネとハガルができてるの? などと密かに勘ぐるのだった。

 

 こうして、ホリル一行に、熱病で倒れた僧侶の代わりにミコシエが加わる形で、一行は墓所へ。

 ハガルとレーネはリーネの葉を採取すべく、一度エルゾ峠に戻るということになった。

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