第9話 First Contact
昼食時に得た情報をもとに、同期メンバーの顔ぶれを紹介しよう。
先ずは男性陣から福岡出身のナオキくん。
大泉洋によく似た彼はどこか愛嬌を感じさせるが、白いTシャツの隙間からいかついタトゥをチラつかせ、胸元ではシルバーのチェーンが光っている。
傍からみると、一見アウトローの匂いを漂わせるも、歌舞伎町で飽きるほど「やんちゃな男」と関わってきた私は、すぐに本物のワルではないと分かった。
2人目は広島から来た中年男性のトムさんだ。
老けた伊集院光のようなこの巨漢はメタボ特有の汗っかきで、日本ではIT企業に勤めながら月1ペースでバンコクに通っていたタイフリークである。
隣のテーブルの女子大生をいやらしい目つきで物色するところをみると、おおかた風俗好きのエロオヤジといったタイプか。
その様子に気付いた女性メンバーは早くも彼に嫌悪感を抱いたようだ。
根は悪い人ではなさそうだが、堂々たる体躯とはアンバランスに挙動不審なため、コールセンターでやっていけるのか?と疑問が残った。
続いて女性陣の紹介に移ろう。
同期メンバーの中で一番若いマツジュンは23歳のイマドキ女子である。
地元群馬でアパレル店員とキャバ嬢を掛け持ちしていたと話す彼女は、頑張り屋でしっかり者の印象だ。
マツジュンというのは勿論あだ名で、ジャニーズの松本潤にそっくりなところからついたそうだ。
そこらの男よりイケメンで、尚且つかなりの美人さんのマツジュンは「タイで英語の勉強がしたい」と元気に夢を語ってくれた。
次に紹介するのは神奈川県からやって来たミヤコさんだ。
この人はいかにも幸薄そうな顔立ちのアラフィフおばさんである。あえて例えるなら陰気な久本雅美といったところか。
日本では近所の介護施設で20年も働いたが、離婚を原因に親族関係がギクシャクしてしまい、そのウザったいしがらみから逃げてきたのだという。
それにしても、50過ぎの年輩とバンコクで同期入社になるとは驚きだ。このメンバーを見る限り、求人のうたい文句である「語学、学歴、年齢不問」の宣伝文句に嘘偽りはなかったようだ。
さて、ここまで男性と女性がそれぞれ2名ずつ登場したが、忘れてはならない最後の一人はカズさんだ。
「どこかで会ったことがある・・・」と感じた彼は、よくよく思い返すと東京の面接会場で必死に自分を売り込んでいた、あの冴えない男だったのだ。
上から目線で恐縮だが、正直、全くタイプではない・・・。
ところが、意外や意外。目が合うとパッと顔を赤らめたカズさんに私の心は徐々に傾くのである。
何はともあれ、トランスジェンダーにとって最大の難関である「ファーストコンタクト」をクリアできた私はホッと胸を撫で下ろした。また、これは後になって知ったのだが、バンコクコールセンターには、かなりの数のLGBT当事者が在籍するそうだ。社内の人間が得体の知れないオカマに自然体で接してくれた理由もうなずける。
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