バンコクキッド2~私は恋するMtF~

綾瀬一浩

第1話 迷い込んだ風俗街

 ここはバンコクの中心を東西に走る「スクンビット通り」を奥に入った三つ星ホテルだ。エントランスにはインド系や中東系のゲストが多くみられ、エキゾチックな香りが漂っている。

老舗ホテルのためインテリアの古さは否めないが、ナナ駅(BTS)までのアクセスがよく、プールやジムまで完備とくればコスパは十分であろう。


     ※     ※


 私がタイに来るのは二回目だ。


 数年前にプーケットを訪れた理由は、性別適合手術 (Sex Reassignment Surgery) を受けるのが目的だった。

つまり、いきなり素性を明かしてしまうと、私はトランスジェンダーなのである。(タイではレディボーイと呼ぶのが一般的)

詳しくは生物学的性別が男性で、性の自己意識が女性である事例を「MtF」(Male-to-Female)と呼ぶのだが、このあたりの話は複雑なのでひとまず置いておこう。


 5日間の予定でチェックインを済ませた私はさっそく夜の街に繰り出した。

アラブ料理店で食べた羊肉のバーベキューと焼き立てのナンはリーズナブルで味も抜群だった。戒律からか酒類の提供がないのは残念だが「郷に入っては郷に従え」であろう。


 街の熱気で高ぶった私は、シーシャバー(水タバコ)を横目にアルコールが飲める店を求めてスクンビット通りへ足を向けた。

すると、BTSの高架を渡ったところで、「Nana Plaza(ナナプラザ)」と看板のかかるの密集地帯を見つけたのだ。


毒々しいほど派手なネオンと、そこら中から漏れ聞こえるダンスミュージック。


一帯は異常なほどの賑わいである。


ゆえか、客のほとんどは男性だが、他を探すのが面倒になった私は中庭のカウンターに腰をおろした。


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