さよなら、サイキック 1.恋と重力のロンド 著/清野 静

角川スニーカー文庫

第1章-01 ソーリー・ロンリー・ファイヤ・スターター

 数時間にも及ぶ大手術を終え、病室のベッドで意識を取り戻したとき、ロンドは最初にこう言った。


「わたし、元気になったら、きっと天下を取ってみせるわ。見ていてログ」


 その発言は死の淵からつま先立ちで帰ってきたばかりの女の子のものとしては、いささか威勢がよすぎるように思えた。枕元のぼくに消え入るような声で囁いたあと、この美少女は薄目を開けてつけ加えた。


「ほんとよ。もしベッドから起きあがれるようになったら、立てるようになったら……わたし、きっとこの世界でしたいことをするの。今までできなかった……。だから、ログも一緒についてきて───」


「わかった。わかったからもうしゃべるな」


 ぼくは懸命にうなずきかけた。ロンドは微笑むと、鼻先をその金髪につっこむようにこてんと眠ったが、三日後、今度はやや元気になって言った。


「この間のあれ、超本気よ。わたし、きっとやってやるんだから。そーね。あなたにはわたしの野望をささえる参謀役を与えるわっ。古来、いい王様には必ずいい補佐役がいるものだもんね!」


「……とりあえず、まずは病室を出ることから考えようぜ」


 ぼくはつっこんだが、このときぼくはこの子の意志と生命力の強さを甘く見ていたのだろう。なぜなら彼女はその翌日から立ち上がる練習を始め、一週間後には一般病棟へ、さらに一か月後にはリハビリセンターに移り、死に物狂いで入院中に萎えきった四肢の筋肉を鍛えまくっていたからだ。そう、ロンドは一点の曇りもなく本気だった。



 そして、三か月がすぎた。


 夏になった。ロンドは元気に退院した。───奇跡的に。





 一方、そのころぼくは別の女の子にうつつを抜かしていた。

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