人はなぜ産まれてくるのか。

あきさ

第1話

私はごく普通のサラリーマンだ。 前世の記憶があることを除いては。


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俺は貧乏男爵家の三男だった。

家を継ぐ人間も、それを補佐する人間もいた、極小貧乏貴族に、俺の働く場などありはしなかった。

俺にとって窮屈な実家は、早く出たい場でしかなかったが、両親の 「成人までは私たちの子供」という方針のもと育てられた俺は、成人前に家を出ようという発想はなかった。



別に家族と不仲だったわけではない。

むしろその逆で歳の離れた末っ子だからと、可愛がられてすら、いた。

それでも俺は、必要とされたかった。

いてもいなくてもいい存在ではなくいなければならない存在になりたかった。

産まれた意味が欲しかった。


だから、国中にお触れ書きが出た時に、これだ!と思った。



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未来あるの若者へ

我が国一の占星師より占いが出た


「2年後、我が国が所有する東の森の奥地より、魔物の大氾濫が起こる。

何人なんぴとたりとも、防ぐことはできぬ。

しかし今から二ヶ月後、この国の王都にあらわれし魔物をめっし、国民を魔より守る若者が現れるだろう。

その者こそ勇者なり。」


未来ある若者に頼り切ることは胸が痛むが この国を守るために 力を貸して欲しい


第132代メラキア国王 ファルナンディア・メラキア

~~~~~~


俺はすぐさま剣の鍛錬を始めた。

友は皆、嘲り笑った。 両親、兄弟たちでさえも、失望した目で俺を見ていた。

俺はそれでも構わなかった。何故なら自分こそが勇者だと信じて疑わなかったから。

自分以外に誰がいるのかとさえ思っていた。


幸い俺には才能があったらしく、剣術はみるみるうちに上達していった。

そしていよいよ予言の日……。


俺は魔物が来ると言われていた場所へ向かった。

そこにはすでに数多くの腕に覚えのあるものたちが集まっていた。

そこで初めて俺は、魔物を倒すということは殺すということだということに気がついた。後悔してももう遅かった。

魔物は次から次へと押し寄せて来る。周りのものは皆、覚悟を決めて、魔物の群れに飛び込んでいった。

辺りは血の臭いでいっぱいだった。

自分に生き物を殺すことができるのか。覚悟は、なかなか決まらない。



そして、、、

気がつくと、辺りには誰もいなくなっていた。

そして目の前には大きな魔物がいた。大きな口を開けて。


ここでやらなきゃ俺は死ぬ。

覚悟を決めたその時、一本の矢が飛んできた。そしてそれは吸い込まれたかのように魔物の口の中へと飛び込んだ。


魔物が怯んだその瞬間、今だ、と思った。魔物の首をめがけ、渾身の力で剣を振るった。


魔物が消えた。 跡形もなく。

俺には信じ難く、何度も目をこすり、瞬きをし、ようやく終わったのだと感じた。

死体の一つも残らなかった。

剣についた、自身に飛び散った、返り血だけが、魔物が確かにいたのだと、証明していた。


その後のことはあまり覚えていない。

誰が矢を放ったのかさえも、判らなかった。

気がつけば家の部屋にいて、両親の顔がみえた。

そして、張り詰めていた何かが切れたかのように、力が抜けた。

血だらけの、薄汚れた私に、両親は抱きついてきた。


そこで初めて気がついた。


とされる必要なんてなかった。



なぜ俺は産まれたのか。








生きるためだったのだ。





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あの、魔との戦いの後間もなく、俺は死んだ。

今思えば、破傷風だったのだと思う。

ろくに傷の手当てもしなかったのだから。




そして、は生まれ変わった。

今度の人生こそは、親孝行のためにも、長生きをしたい。


人は生きるために生まれてくるのだから。

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