第10話:計画
グンデリクは、1日の作業を終えてまったりとソファーに腰掛けて居た。淹れたてのぬるい茶が入ったコップを口に近付けた時だった。
ドン
という音と共に部屋の扉が開かれた。
「グンデリクー!! 聞いてよ! トラサムントが婚約したって」
そう叫んで部屋に入って来たのは、エリスだった。
突然の訪問にグンデリクは、驚いて茶をこぼしてしまった。
「突然なんじゃ!? ノックもせんと驚いたぞ」
「トラサムントがぁ・・・・・・」
「知っておるよ。噂になっておるな。王子がやっと婚約したとな」
グンデリクは、そう言って自分の対面にあるソファーにエリスを座らせた。
「おおかた、ヤキモチを焼いて逃げて来たんじゃろ?」
「やっヤキモチなんて・・・・・・。いきなりだったんで驚いただけ」
エリスがそう言うとグンデリクは、可笑しそうに笑う。
グンデリクは、この期に及んで自分の心に正直になれないエリスの姿が可笑しかったのだ。
「エリスは、どう思っているじゃ? 」
「どうって・・・・・・。トラサムントが結婚したら、今まで通りとはいかないでしょ? 関係が変わると言うかぁ。トラサムントとどう接して良いかわかんなくなっちゃって」
「こじらせておるのう。そうじゃ、全てを解決する良い方法が有ったぞ」
グンデリクは、何かを閃いた様子で今まで見せた事の無い邪悪な笑みを浮かべていた。
トラサムントは、グンデリクの部屋に来て居た。
グンデリクの呼び出しに素直に応じたトラサムントだったが何かいつもと違う雰囲気を感じとって居た。
「トラサムント様、ご足労ありがとうございます。歳のせいか足腰が弱くなっておりましてな」
「それは、問題ない。それよりも話しとは何だ? グンデリクにしては、よそよそしい」
トラサムントは、少し不満げにグンデリクの顔を見据えた。
グンデリクは、トラサムントをソファーに座らせると口を開いた。
「噂で聞いたのだが。婚約したと言うのは、本当なのか? 」
「ああ、その事か。本当だよ」
「ベリサリウス家の令嬢と聞いたが。それでは、貴族派の力が強くなってしまうぞ」
グンデリクが声を落として言うと、トラサムントは、自信に満ちた笑みを浮かべる。
「その対策は、考えている。アリウスも動いてくれている。デオドラも協力的でね」
「どうするのじゃ?」
「ベリサリウス家頭首ギバムントの不正の証拠集めをデオドラが行っている。証拠が集まったら議会に提出するつもりだ。議会でギバムントの失脚を狙う」
「そう上手くいくかのう」
グンデリクは、トラサムントの対策に懐疑的であった。
ギバムントもただ座して待っているわけではない事をグンデリクは、良く知って居た。
「うむ、そのデオドラと言う令嬢は、信用出来るのか? 」
「彼女にも思うところがあるのでしょう。協力的ですよ」
「それで、デオドラの事は、どう思っているんじゃ?」
突然、グンデリクにそんな事を問われてトラサムントは、少し驚いた様子で口を開く。
「恋愛感情は、ありませんよ。同じ目的を達成するための同士と言う関係です」
「この話しの流れでついでに聞くがな。エリスの事は、どうするつもりじゃ? 婚約の件でずいぶんと、取り乱しておったぞ」
エリスの事を問われてトラサムントは、ピクリと表情をふるわせた。
「ああぁ、そんなに動揺してましたか。エリスにはこの計画に参加して欲しくてね、デオドラを紹介しんたんですよ」
「エリスは、焦っておるようじゃ。城内では、微妙な立場だからな。例え、トラサムント様の庇護下にあろうともな」
「それは、・・・・・・。エリスには、活躍してもらって、爵位を与えてるつもりだよ。その後、全ての準備が整えば、プロポーズをするよ」
トラサムントがそう言うとグンデリクは、ニンマリを笑みを浮かべた。
「そうかそうか。エリスも幸せ者だのう。だっそうだぞ、そろそろ出て来たらどうだ?」
グンデリクのその言葉が合図のようにヒョコリとソファーの真下から人影が現れた。
その人影は、トラサムントを下から見上げるようにだらしない笑顔を浮かべていたのだ。
「えへへっ」
「エリス。居たのか!? 」
トラサムントは、顔を引きつらせて足元にいるエリスを見るのだった。
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