王子様に拾われたら貴族達の嫌がらせが止まりません
@serai
第1話 カラリスの王子
ユーラシア大陸の西。カラリス地方。ヴァンダル王国が支配する土地である。その山脈が連なるふもとで、遺跡の発掘作業が行われていた。遺跡の発掘作業を行っているのは、ヴァンダル王国の研究部門の一組織である。
その責任者、グンデリクは、 遺跡の調査に長年心血を注いでいいる人物だ。グンデリクは、70歳近い老人であるが、その探究心と知性は、国王フネリックに一目を置かれている。そんな遺跡に一人の少年。歳は、10才になる国王の息子トラサムント王子が馬に乗ってやってきた。単身、護衛も付けずにトラサムント王子は、遺跡にやってくるとすぐにグンデリクを呼び出した。
「これはこれは、王子。こんな所まで、護衛も付けずにいささか無謀すぎますぞ」
トラサムントの前に現れたグンデリクは、最初にそう口を開いた。
「護衛なんて、型ぐるしい。この辺りは、治安がいいと聞く。それよりもこの遺跡に興味があって来たのだ。少し見て周りたい」
10才の少年とは思えないほど、しっかりとした口調でトラサムントは、そうグンデリクに告げた。
「そう言う事でしたら、こちらに」
グンデリクは、この聡明なトラサムント王子をとても気に入っている。将来王国を背負ってたつ人間に相応しい人間だと心の底からそう思っているからだ。
グンデリクは、トラサムント王子をとあるテントの中へと案内した。そのテントの中には、遺跡から発掘されたさまざまな物がきれいに配置されている。その発掘品についての説明を始めたグンデリクに話をトラサムント王子は、興味津々に聞きはじめた。
「古代シュメール人が残した文明は、まだまだ我々の理解を遥かに超えるものが多く。このテントに集めた発掘品も何に使うものなのか、まだ解明しておりません」
「古代シュメールの文明は、かなり特殊だと聞く」
「はい。そのとおりでございます。発掘品の機能が解かれば、王国の発展に寄与すると信じておりますれば……」
グンデリクが説明していると、テントの外が騒がしいのに気がついたトラサムント王子が外へ飛び出していった。
「どうした!? 何があった?」
トラサムント王子の声に発掘作業にあたっていた労働者の一人がそそくさと近づいてきた。
「それが……あのう。遺跡の地下で人間を発見しまして」
「何!? 人間だと?」
トラサムント王子は、驚きの声をあげ、その後ろで聞いていたグンデリクも怪訝な表情を浮かべる。そして、しばらくして、遺跡の地下で発見された人間の両脇を抱えて、二人の労働者がトラサムント王子達の前に現れた。その遺跡で発見された人間は、どうみてみトラサムント王子と同じ歳ぐらいの少女だった。それも素っ裸でトラサムント王子達の前に姿を現したののだから、それを見ていた誰もが驚きの声をあげる。
「少女……。それも生きているじゃないか」
トラサムント王子は、その少女が生きている事を確認すると、考え込むように左手の親指を噛んだ。遺跡の中がから人間が発見されたと報告を受けた時、トラサムント王子は、おそらくミイラか死体のような物を想像していたのである。しかし、実際に目の前に居るのは、気を失っているが呼吸をくりかえす生きた人間の少女である事に戸惑いを隠せなかった。
「これは、奇怪な。このような事は、初めてですぞ」
「まて。もしかしたら、この少女。近くの村の娘では、ないのか? 夜に遺跡に忍び込み。迷子になっただけではないのか?」
トラサムント王子の冷静な推理にグンデリクは、驚いたがその現実性の低さから否定するしかなかった。遺跡の近くには、村や町など存在しないからだ。馬に乗って半日の距離に小さな町が存在するが、子供の足で来れるような距離では、ない。
「ですが。それは、あまりにも荒唐無稽すぎますぞ」
「しかし、そう考えるほか理解できぬ」
トラサムント王子は、再び気を失っている少女の姿を観察する。
「肌の色が違うな。我らより白い」
「確かにそうですな。リュージイ族の血が入っておるかもしれません」
グンデリクのその言葉にトラサムント王子は、頷いて見せた。トラサムント王子は、少し顔をうつむけると、何かを閃いた様子で直ぐに顔上げる。
「とりあえず。この少女を城へ運ぼう。目を覚ませば、色々話が聞けるかもしれぬ」
「王子がそれで良いと言うのでしたら、直ぐにでも手配いたしましょう」
グンデリクは、トラサムント王子に軽く頭を下げると、すぐさま少女を運び出す準備を始めるのだった。
一週間後。トラサムントは、城の中にある自室で優雅に紅茶を飲んでいた。部屋の机に紅茶の入ったカップを置くと、後ろに控えている一人の侍従に声をかける。
「アリウス、あの少女は、目を覚ましただろうか?」
「あの少女と申されますと?」
アリウスと呼ばれた侍従は、不思議そうに聞き返した。
「一週間ほど前に城に連れて来た少女だよ。気を失っていた。君も見たはずだ」
トラサムントにそう言われ、アリウスは、「ああ」っと思い出した様子で声を上げた。
「確か、二日前に目を覚まされたそうです。グンデリク様が何度かお会いになれたとか……」
そこの話を聞いてトラサムントは、少し考え込んだ。
「アリウス。グンデリクを呼んで来てくれないか」
「かしこまりました」
アリウスは、一礼すると、グンデリクを呼びに部屋を出て行くのだった。
しばらくするとグンデリクがアリウスに連れられて、トラサムントの部屋にやって来た。
「これはこれは。王子、何かご用でしょうか?」
「グンデリク、あの少女の事だよ。何度が会ったと聞いているが。何か解かったのか?」
トラサムントがそう聞くとグンデリクは、大きく目を見開いて、頭を左右に振った。
「まったくでございます。それどこか、会話もままならぬ状況でして。ある種の単語には、反応を示すのですが。会話が出来るほど、言語を理解しておりませんでした。まるで、この国の言葉をしらぬ異邦人のようですな」
「異邦人!? 言葉が通じないとなると、ますます理解しがたい状況になってきたな」
トラサムントは、腰掛けてた椅子から立ち上がると部屋から出ようと扉に向かって歩きだした。
「王子、どちらへ?」
トラサムントの突然の行動に驚いた様子でグンデリクは、そう声を掛けた。
「決まっている。会いに行くのだ。あの少女に」
トラサムントのその言葉にとても驚いて、アリウスとグンデリクは、お互いの顔を見る。
「どうして。そんな事になっている!? 僕は、城に連れて行けとは、言ったが、そんな事までしろとは、言ってない!!」
トラサムントは、ものすごい剣幕でアリウスとグンデリクを城の外を歩きながら叱り付けていた。
「お言葉ですが、王子。素性の知れぬ者を城の中に入れるのは……」
「だが、少女であろう。まだ、幼く小さい娘だ。そう考えれば、酷だとは、思わないのか?」
「……」
そのトラサムントの問いかけにアリウスとグンデリクは、黙り込んでしまった。3人が向かっているのは、城から少し離れた所にある地下施設。特に犯罪者、捕虜などを留置する為の施設である。今は、戦時中では無い為、もっぱら、犯罪者達がその施設に留置されている。そんな所へあの少女を監禁していると聞いてトラサムントは、怒りで我を忘れそうになった。
地下施設の入り口に足を踏み入れた所でトラサムントは、強烈な臭いに顔を歪ませた。
「なんだ? この臭いは……」
「この臭いは、腐敗臭ですな。肉が腐るような……」
「説明は、いい。あの少女は、この中のどの辺りに居るのだ?」
「一番奥の突き当たりの牢屋でございます。王子」
グンデリクがそう言うと、トラサムントは、先頭を歩き、その後をグンデリクとアリウスがついて行くのだった。暫く地下施設の中を進んでいると腐敗臭の他に糞尿の臭いが混ざり合いなんとも気分が悪くなるような臭気がトラサムントの鼻を刺激する。
「これは、気分が悪くなる」
トラサムントは、すでに一刻もはやくこの地下施設から出て、外の空気を吸いたくなっていた。
一番奥の牢屋にたどり着いたトラサムント達は、中に居る少女の姿を見て息を飲み込んだ。薄汚れたボロの服を身に包んで、その少女は、呆然と何も無いはずの天井を眺めていたのだ。そんな少女の姿に見とれていたトラサムントは、グンデリクの「王子」と言う言葉に我にかえった。
「アリウス、早くこの子をここから連れ出せ」
トラサムントのそこ言葉にアリウスは、迅速に行動し始めた。少女を閉じ込めていた牢屋の鍵を開けるとアリウスは、中に入ってその小さな少女の体を抱き上げる。牢屋から出た所で少女がジッと自分の顔を見ている事にトラサムントは、気がついた。
「どうした? 何か言いたい事でもあるのか?」
トラサムントのその問いかけに少女は、ゆっくりと左右に首を振るだけだった。そんな少女の行動をみて、トラサムントは、「なるほど」っと思った。グンデリクが言ったように言葉の単語に反応してる様子だったからだ。
会話できるほどの言語を知らないが単語レベルなら理解しているかもしれない。それなら、教育を受けさせれば短い時間で会話ができるようになるのでは、ないか。トラサムントは、そう思うのだった。
少女を城へ連れ帰ってから、トラサムントは、少女の為に風呂と綺麗な洋服をアリウスに用意させた。そして、二時間ほどして、少女は、見違えた姿でトラサムントの居る部屋にやってきたのだ。自分の前にやって来た少女を見て、トラサムントは、正直戸惑いを隠せなかった。
遺跡で発見された時や、牢屋の中では、判らなかったがその透き通るような白い肌に整った顔立ちにトラサムントは、一目惚れをしてしまったのである。大人になればきっと美人になる。そんあオーラのような物をトラサムントは、少女から感じとっていた。
「うむ。これは、予想していなかった」
トラサムントのその言葉に少女を連れて来たアリウスは、「はっ」っと目を向ける。
「気にいったよ。僕の妃にしよう」
そんなトラサムントの言葉にアリウスは、声を荒げて前のめりに割ってはいった。
「王子、めったな事を言うものでは、ありません。王子の妃は、王がお決めになるのです」
アリウスの剣幕にトラサムントは、やれやれと苦笑した。
「解かっている。冗談だよ」
「……。でしたら、よろしいのですが」
アリウスは、少し不満そうな様子でトラサムントの前から、少し引き下がる。
「ならば、こうしよう。お前は、一生この僕に仕えるのだ。まあ、そばに居るだけでいい」
トラサムントがそう言うと少女は、理解しているのかどうか解からない表情のままコクリと頷いてみせた 。
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