血塗れの戦乙女と木偶人形3
シュナ達から十分に離れると、カールはハクの腕から降ろしてもらった。
「ゼロース、ペジテ大工房から帰還し何があったのかおおよそを知りたい」
空き部屋だろう、客間を親指で示した。
「ティダ様から聞いたのでは?」
「あの男、私に謝罪してきた。それだけ。恩を着せてくるのかと思ったら何だあの男。意味が分からない。ゼロース、お前から聞きたい。あと唯一信頼する部下として話がある」
カールはハクの背中に手を回した。それから寝室の扉を開いて中へと入った。
「分かった。しかし部下ではなく兄だ」
カールは振り返ってゼロースを
「そもそもラーハルト様の兄弟弟子。弟だと思って下に甘んじていたが、このゼロースは兄だった。そしてカール不在時に最も頼りになる騎士となった。ふははははは!残念だったなカール!俺は今やシュナが認める
室内のソファにゼロースがどかりと座ると満足そうに微笑んだ。笑い方がティダそっくり。シュナから離れたカールと、ずっと側で護衛していたゼロース。反論出来ない。
「紅の騎馬隊長はどうした」
そのまま昇格ならビアー。あんな小者、ゼロース不在では役に立たない。カールはゼロースの向かい側にハクと共に腰を下ろした。
「素直にビアーだ。育て上げる。カール、この国は大きく変わる」
ゼロースが今日まで何があったのかを語り始めた。
嘘としか思えない話が次々と現れた。
***
状況と人間関係はおおよそ把握したが、カールはまだ混乱していた。
約半月。
こんなにも変わるものなのか。
ゼロースは泣いていた。
「アシタカ様とシュナ様は大陸和平に踏み出す。含まれるのは人だけではない。矢面に立って恩人であるセリム様とラステル様、崖の国を隠すそうだ。ティダ様はお二人の見張りと護衛につくという。セリム様は上手く丸め込まれて、故郷と近隣の蟲森から外交を始める。アシタカ様とシュナ様の後押しになるように偉大な民になると大張り切り。そもそも背を押したのはセリム様なのに不思議な方だ」
オルゴー国。
領土はない。必要なのは誇り。命を慈しむ気持ち。人と他の生物の誤解を解いて住み良い世界を作る者は全て国民。蟲と語り、蛇と語り、大狼とも語るから常に中間に立つ。その為の仕組みを作る。
ノアグレス平野の雪原で、蟲を森へ返すと言ってきた男は、セリムという男はそんなとんでもない発想をする人間だったのか。
生き様で国民にしたのは異次元の大国ペジテ大工房御曹司アシタカ、外界一の歴史と武力誇るドメキア王国の聖女という地位を確立させたシュナ。
そしてベルセルグ皇国の犬皇子。本性はハイエナだと睨んでいたが本当に犬だった。アンリの指摘通りらしい。個人的な戦闘能力、護衛という点においては最強だろう。巨大な蛇の王を投げ飛ばすとはどれだけ怪力。人なのか?そして常に遠くを見て計画を練っている。シュナと同様だ。機転も利くようなので予想外の事態でもすり抜けていくだろう。
最強の護衛。シュナではなく、アシタカでもなく、セリムが選ばれた。
「俺達は今まで通りシュナを守ろう。それが絶対にセリム様やラステル様の為になる。二人にはティダ様がついている。カール、お前がずっとシュナを裏切らず支え続けた結果だ。お前が帰ってきたら見せたい、教えたい、しきりに話している。人として正しく生きられたのは、勇気を持てるのはずっと心身共に味方だったカールのおかげだそうだ。殺人狂みたいなお前でも人を救う。俺はこの先なるべく命は奪わないように鍛える」
ゼロースの瞳が「お前もそうしろ」と訴えている。手にかけた命に後悔はない。しかしカールも涙が抑えられなかった。
ーーカール。貴方が私を
シュナがこの城からなんだかんだ出ていかないのは、カールがナーナや盟友の死に関与した者を激しく憎みシュナを王にしたかったから。そういう慕われ方ではなかった。
カールを人殺しにしたのは自分だと責めている。だからこの城から出て行かなかった。多くの慈悲を民に与えようとした。容姿が良い方が人心掌握すると、カールを矢面に立たせていた真の理由。シュナならそういう考え方をする。何故今まで気がつかなかったのだろう。
密かにルイを支援していたことなんて知らなかった。ヴラドの兄ハルベルとかいう男も知らない。王座の裏側についても、シュナは王になる気などさらさらなかった。無血革命の過程はシュナの予想と大きく違うだろうが、下地は長年シュナが作り上げてきたもの。
新たな王がカールを殺すよりも使うように、シュナはカールをずっと祭り上げていた。現にカールは自身の心根とは真逆の評価を受けてきた。ゼロースのようにカールを「殺人狂」などと呼ぶのは、人を見る目がある者だけ。
「同じように育ったのに、いやシュナ様の方が辛かったのに私とは違い過ぎる……なんて尊い……姉だなと恐れ多過ぎる……。守らねばならない。私はずっとシュナ様を刺してきたというこどだ……。ついにシュナ様は逃亡という選択肢も捨ててしまった。シュナを囲うもの全てを守らねば……」
ハクがカールの肩を優しく叩いた。それから自分の胸部を叩いた。自分もシュナを守る、そう言ってくれる気がした。
「そうだ。敵に
カールとは違って、ゼロースはスラム出身という悪評跳ね除けて、叩き上げで第四軍の花形である騎馬隊隊長まで登りつめた。カール不在時では他の師団長押しのけて
「お前と双子だなんて信じられん。ゼロース、貴方はシュナに似てる。指摘通り殺人狂で、人らしく生きるなど中々困難。腹立たしく悔しいが、見張って
「帰還する際の船でセリム様に力比べを申し入れて、力を誇示するなと説教食らった。俺達のような人種は戦場が無くなると
カールとゼロースは攻撃的な所は同じ。そう言ってくれているのが伝わってくる。昔から憎たらしかったが、こういう人の気持ちに寄り添おうとする所はシュナそっくりだ。事実を知ればカールとゼロースは顔立ちも良く似ている。
「アンリという娘がこう言った。我が国では毎年治安維持部隊が武道等の競技を行う。戦う高揚感も勝利の優越感も得られる、らしい。内容聞いて取り入れたらどうだ?少しはマシだろう」
ゼロースが目を丸めてから破顔した。
「ティダ様が言うように毒気消えたな」
カールはハクを見つめた。グルド帝国への報復、実験施設だろう場所の破壊。出直してやり遂げようと持ちかけても一度も首を縦に振らなかった。タルウィ個人ならともかく他は別。何とも言えない気持ちになり、道中考えさせられた。
筆談で言われた、こんな姿でも生きている。中身まで化物にはならない、その言葉。
カールを人らしくさせるシュナと重なった。命の恩人というのもあるが、見捨てたらシュナを捨てるのと同意義に感じられてならなかった。
「ゼロース、このパストュムというのはグルド帝国の妙な技術で人から作られる」
ハクが立ち上がって拳振り上げた。カールはハクの殺気のなさから殴らないだろうと無視した。
「この者、名はハク。セリム殿の近衛兵だ。
ゼロースが
「騎士の鏡中の鏡!そして敗北の恥と屈辱も分かる。分かるぞハク。いや、オルゴーか。オルゴー、決してお前の不名誉は口外しない。主を守り通した名誉を語れば主に苦痛与える。カールの言う通りシュナはセリム様とラステル様のような方だ。そのような姿で故郷は辛い。この地で俺達と誇り高き騎士として生き、面白楽しく過ごそう。蟲に蛇に大狼、シュナだけでなく我が直属の部下は何でも受け入れる」
ハクがカールとゼロースを交互に見た。カールは部屋を見渡して紙とペンを探した。その間にゼロースがハクの体に手を回した。三回背中を叩くとゼロースがハクに向き合った。
「男は生き様や背中で語る。喋れなくても問題なし。文字を覚える振りが終われば語り合うことも出来るしな。特注で鎧作らせよう。よし、三人揃いで紅の甲冑だな。オルゴーよ、俺の部下にはパズーが居る。セリム様と離れて独り立ちしたいという。共に
ゼロースがいきなり床を足で踏み鳴らした。
「決して裏切らないという矜持。見事也!」
またゼロースが床を踏んだ。先程よりも大きな音が出た。
「主を害した者さえも救うという矜持。敬意に値する。よってこのゼロース、常に貴方の味方となろう。但しシュナと家族に
ハクの体がゆらゆら揺れた。ゼロースがもう一度床を踏んで、三回の中で一番大きな音を立てた。それからハクの腕を両手で掴んだ。
「憎しみで殺すよりも許して刺されろ。今の貴方は主人の信念に従えば豊かな人生歩めると証明出来る。よくぞ覚悟した!シュナはセリム様を信じて突き進み、結果あらゆるものを手に入れた。貴方がカールを助けたから、シュナが後ろ盾。その後ろにアシタカ様がいる。この件預かったということはそういうことだ。ペジテ大工房は技術大国。元に戻る道もあるかもしれん。奇跡起こればひょっこり帰って来たということにするだけだ。この世界、奇跡がよく起こる」
ハクが腕を大きく広げてゼロースの手を離させた。大きく体を揺らしてから、ゼロースの肩に手を回した。反対側の手で拳を握ると突き出した。空気を切り裂く音がした。
「その正拳、腰も入っていないのに何と鋭い。ティダ様の顔に傷をつけられるとは
ハクがやる気満々というように両手で突きを繰り出した。もっと悲壮感抱いているかと思ったら、心配する程でもないということか?それともゼロースの鼓舞や、ペジテ大工房なら元の体に戻れる技術があるかもしれないということに希望抱いたか?
ゼロースが高笑いしながらハクと部屋を出ていこうとした。ハクが部屋を見渡して、ゼロースから離れた。紙とペンを見つけて、何やら書いて持って来た。
【シュナ姫に救われた。国に戻りたくないがセリム様とラステル様の支援も出来る。呼び止めてくれてありがとう。こんな姿、独りで生きていくつもりだった。助けて良かった】
ハクがカールにメモを見せてからゼロースにも見せた。カールはメモを受け取ってビリビリと破って投げ捨てた。
「恩には恩を返す。裏切りは万死匹敵。これで借りは返した。あとは好きに生きよ!我が妹シュナに
ゼロースがため息を吐いた。
「カール、雰囲気変わったか?と思ったら全然変わってないな。オルゴーよ、シュナという妹はとても素晴らしい。セリム様と同等程に守るに値する。しかしカールという妹は狂犬。口より先に手が出るから共に見張り止めて欲しい」
カールは肩を
「いくぞゼロース、オルゴー。軍では強ければ正義。弱く愚図な上官では死ぬからだ。ゼロース、全軍統一なら余計に有象無象になる。我等三人で頂点に立つぞ。シュナに反目する者を嗅ぎ分けて首を
ゼロースが高笑いした。やはりティダと似ている笑い方。ゼロースが相当ティダを気に入っていると伝わってくる。
「何だ、変わる気があるのか。まあ、俺も加減が分からん。時代が進み騎士など廃れるか、逆行して戦場で大活躍か。それとも別の道か。命短し、
ゼロースが扉を開きながら告げると、ハクがまた拳を突き出した。
「やはりゼロースには話したかカール。そしてゼロースよ、俺の口癖真似るのは良いが借り物ではなく己の言葉を使え。大物にならぬぞ」
部屋の向かいの壁にティダがもたれかかっていた。背中を離して近寄ってくる。何もかも見透かしているような目が嫌だが、目を逸らすのも腹が立つ。相変わらずの地獄耳。扉越しでも聞こえていたのだろう。
「いえティダ様。良い言葉や生き様は伝えてなんぼです」
ティダがゼロースに満足げに笑みを浮かべてからカールに視線をずらした。
「話が残ってたのできた。ゼロース、オルゴー、聞かれて困る話でもないのでそのままで
どんな男か知ったが、最初の印象が最悪なのでやはり憎々しい。追いかけて何の話だ?しかもどうやって居場所を見つけた?
「カール、先程見聞きしたようにアシタカは頭がイカれている。訳が分からん。本気でシュナに
アンリと同じ内容。カールはどういう態度を取って良いのか分からなかった。それからラステルという少女。
「アンリが同じ内容のことを私に話してきた」
「ふむ、やはりな。流石気配り上手の我が妻。その顔、承知したんだな」
ティダがもう用はないという言うようにカール達から離れた。
「待て。少し聞きたい。ラステルという娘について。先程少しだけ会った」
ティダが振り返った。
「ふむ。その顔、話を聞く価値がありそうだ。ゼロース、我が騎士団にオルゴーを挨拶させておけ。話が終わったら手合わせに行く。パストュムの力、能力、把握しておきたい」
ティダがスタスタと部屋に入っていった。
「我が騎士団ね……」
「捨てると言ったり、我が騎士団と言ったり好き勝手。何と表現して良いのか分からない雰囲気。カール、言えば殴られると思っていたので言わなかったがお前に似ているぞ。色々折り合いつけるとカールはティダ様のようになるかもな」
さあ行こう、とゼロースがハクと歩き出した。これで二人目。
ーー俺は裏切りが1番嫌いだ。誓った通り愛し抜くさ。やっと真実の情も知れた。見習うよ
白白しい。
そう思った。
「何が真実の情も知れただ。最初から知っていた
一人、
眠れぬ晩の、バースとの会話を思い出した。
ーー何故私に従う。この小娘に。血塗れの鬼の化身に
ーー美しいからです。その忠誠心。恐ろしいのに惹かれる。見目の麗しさも拍車をかけていますよ。誰よりも真っ先に戦場へ飛び出す勇猛果敢さ
ーー恐ろしいのに
本日二度目の、理屈ではなく本能で何となく理解した。ゼロースの言う通り「何と表現して良いのか分からない雰囲気」は
「そんな経ってないのに随分昔のようで懐かしいな。俺は裏切りが1番嫌いだ。これは
「その上で捨てられた
皮肉に言い返すかと思ったらティダは楽しそうに笑った。
「まあその通りだな。
肘置きに肩肘ついて頬杖ついたティダが舌打ちを三回した。それから思いっきり嫌そうな顔をした。
「ゼロースからおおよその話は聞いた。シュナがしているようだから私からは
カールはティダの向かい側のソファに腰掛けた。近寄ると圧迫感が押し寄せてくる。初対面からこうだった。絶対的拒否。一方、シュナには軟化した態度。
「手駒として使える上に、死なせるべきではない良い女だったからだ。そしてその女が真っ先に庇ったのはカール、お前。俺は庇われるのが大嫌いだ。まさに恥。カール、お前と似た立ち位置になる予定だった俺はシュナに傾倒すれば地獄。だから逃げられるうちに逃げた。シュナも俺なんぞ本質的には好みではないから捨てた。折角逃げたのに別の女に捕まって
ティダが髪を掻き上げた。自信なさげで、恐れ抱いているという態度に面食らった。
「アンリ、不思議な方だ。あのような女性がシュナの側にいれば良かったと本気で思った。なのに負けず嫌いで凶暴そうでもある。私と張り合ってきだぞ」
ティダの瞳に愛おしそうな光が浮かんだ。微笑みもそう。こんな顔が出来る男だったのか。カールはまた驚いたが、顔に出さないように力を入れた。
「アンリはシュナと離れるがシュナを相当気に入っている。アシタカとも
吐きそうという仕草をしてから、ティダが
「変わったな。というか本質がこれか。まるで見抜けなかった。そこそこ人を見る目があると自負していたが粉々だ」
「ああ?お前は正しかったぜ。俺をぶっ壊したのはヴァナルガンド。この国に来た時はシュナを懐柔し、祭り上げ、伴侶としてドメキア王国を乗っ取りベルセルグ皇国を叩き
ティダがまた愛おしいというような微笑みを浮かんだ。先程とは少し毛色が違う。ナーナがシュナやカールを見る目、メルビンやラーハルトがシュナやカールを見る目。そういう種類の視線と笑み。
「シュナは偽りになど
「俺は人を見る目はある。一方で女の本質を見抜く目はない。この一月、最悪だ。次から次へと俺や友を庇うような、それどころか危険な高みに登りたがる、ひ弱なのに強情で
三人。アンリ、シュナ、そうくれば残り一人はラステルだろう。ここからが本題だというようにティダが頬杖を止めた。ティダが膝に肘をのせて手を組んで
「一人はシュナだな」
「言わずもがな。アシタカがやってきて、俺が作る神話をぶち壊し、この国を
ティダが大きくため息を吐いた。
「小気味良いわ。シュナに一生こき使われろ。初夜からの横暴が過ちだったな」
「痛いところを突くな。アシタカの阿呆、
カールを追い出し、シュナの部屋に居座り続けていた男の
「シュナと同じように使おうとすると我が妻が怒るぞ。俺の為でも
最悪だ、と呟いてからティダが「あはは」と呑気そうな笑い声を上げた。
「シュナ、アンリ。そしてあの娘だろう?ラステル。セリムの妻だと聞いた。ゼロースからこの夫婦は蟲の民とかいう者だと聞いた。蟲と懇意で夫は蟲と語る。貴方も蟲と話すと聞いた。シュナの病を治したのが蟲だなどと信じられなかった。しかし、ついさっき確信した。蟲ではない、あのラステルだろう」
ティダの眼光鋭くなった。カールは続けた。
「
ティダは黙って聞いている。探るような視線に背中に汗が伝った。強い殺気からして、カールの推測は当たっている。
「化物……そう思った。この私がシュナを置いて逃げたかった。
体が震えた。また込み上げてくるこの感情は
ーー強く生きて。どんなに辛くても人には優しくするのよ。母の教えを守って。そうすれば私の可愛い子供達は守られるわ
ゼロースから聞いたグスタフとナーナの関係から考察すると、ナーナの最後の言葉はグスタフへの信頼だ。許しを選んで夫を信じて斬首された。シュナは真実知らなくとも正しくナーナの意思を継いで、ついにナーナの正しさを証明した。
一歩でも誤れば死んでいたのに、シュナには慈悲しかない。いや、敬愛か。母親をひたすら尊敬して生きている。
「蟲の血を取り込むと、死ぬか蟲と
ああ、やはりそうか。言われる前からそんな気がしていた。
「蟲姫……。シュナと同じだと思ったよ……。タルウィが探していたのはラステルだろう?ハクがあんな姿になってまで守り通した。化物に間違えられて刺されてしまう、非力で優しい娘。力があるからと利用され、狙われる
ティダが手を組むのを止めてソファにもたれかかった。
「流石シュナの忠犬。見る目があるではないか。お前は決してラステルを売れない。殺せない。違えば俺が食い殺す。俺の直下、ヴァナルガンドの愛妻。俺の中ではアシタカやシュナより上だ。ヴァナルガンドは妻を愛し過ぎて、蟲も大好きになり、子蟲の王子という訳の分からん地位を手に入れた。人を激しく憎悪する蟲の本能と子蟲の間に堂々と君臨し親達よりも強く阻害している。ラステルはぬくぬく守られて、カールお前が聞いたように輝いて兄弟と清らかに育ち新たな未来を築くだろう。妙な夫婦だ」
ティダが立ち上がった。カールは
「信頼したから話した。ラステルはすっかりシュナの妹分。シュナと姉貴面してやれ。あの娘、お喋りで脳みそ足りない阿呆だ。しかし
ティダが部屋から出て行くとカールは
ーーセリム様ならば、貴方の主を庇護するだろう!剣を納めよ!
一歩間違えればカールの独断がシュナを刺していた。
【シュナ姫に救われた】
ラステルだ。
シュナの埋められないどうしょうもない孤独を埋めたのはラステル。
見目美しいカールでは決して
ーーカール。貴方が私を
シュナはもうあの言葉は言わないだろう。
きっとこう言う。
***
化物で良いわ。貴方がいるもの。私が美しいということを本当に知ってくれている人がいるから、この世で最も幸せよ。
***
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