血塗れの戦乙女と木偶人形1
数日前。
ドメキア王国にセリム一行が現れた日。
グルド帝国研究施設。
***
カールは力の入らない身体に目一杯力を込めた。しかしロクに動かない。
灰色の窓のない建造物では、昼か夜かも分からない。捕縛されてから繰り返されていた、針を刺して血を抜くという行為が終わって恐らく半日。身動き出来ない拘束服を破ろうと、何度目の挑戦をした時に扉が開いた。
重く、鉛色の扉がゆっくりと開いた時に「またか」と奥歯を噛み締めた。
しかし、現れた泥人形のような塊、パストュムとかいう生物なのか何なのか分からないものは何故か今回は部屋に入ってこない。
今この瞬間まで、真っ赤な瞳をしているパストュムしか見ていなかったが、眼前にいるパストュムは青い瞳をしていた。
空色の目に覚えがあった。この世で唯一心の底から
パストュムが扉を閉めた。
「貴様、ハクか?」
ペジテ大工房から一先ず逃亡した際に、追ってきた兵士。セリムという青年に、ハクと呼ばれていた男はグルド帝国兵に一緒に捕まった。
捕縛前、
ーーセリム様ならば、貴方の主を庇護するだろう!剣を納めよ!
燃えるような信頼の瞳、ゼロースと似ている視線だと感じたのを思い出した。
現れたパストュムの目はやはりハクと良く似ている。
ーーひっく。分析してもちっとも分からねえな。連れも連れで
タルウィと呼ばれる、地位がありそうなグルド人の酒臭い言葉が
「
またパストュムが頭部だろう部位を揺らした。それからカールに近寄ってきた。
「何しにきた?」
問わずとも予感がした。どれだけ非道な
蟲を操る女、その連れらしき者。何処の誰なのかを吐けという問いに
この世で最も許せないのは裏切り。生きたまま灰にされようと、絶対に裏切らない。同種だと感じている味方は散っていった師であり盟友メルビン、ラーハルト。ラーハルトの直弟子ゼロース。そして最近知ったバース。
ハクは同じ匂いがする。
ハクがカールの拘束服を破いた。全裸になったが気にすることでもない。
やはり、助けにきたのか。そんな予感がしていた。何故か、ハクという男はカールを見捨てないという自信があった。
「礼を言おう。化物となろうとも自我持つとは貴様の心が
ハクは頭部を下に曲げている。
付いてこないならば放置。カールはハクの脇を抜けた。
「好きに生きよ。来ないならば置いていくまで」
ーー僕は
ノアグレス平野で出会ったセリムのことを思い出した。
シュナを一目見て、尊敬するような眼差し向けた男。そんな者は初めてだった。即座に見目の良いカールを否定し、シュナを肯定した。
セリムというあの青年、何処までも
シュナ、憎々しいが確固たる信念持ちそうなティダ、そして亡きラーハルト以外に懐かなかった馬がすぐさま懐いた。三つあれば十分だ。
不思議な青年、その臣下。
殺されかけようと主を裏切らない男。
「やはり貴様も来い」
ハクと向き合った。
返事はない。そもそも口がない。思わず舌打ちが出た。三本指の手、そして目は二つ。他のパストュムは三つだった。空色の丸く小さい目の間、
「付いて来ないならば引きずる」
カールはそっと扉を開いた。長い廊下に同じ形の扉が並ぶ。体がまだ不自由、武器もない。どうしたものか。背後に気配がしたので、カールは思わず回し
さっと後退するハク。手に破れた拘束服を持っていた。頭部を背けるハクが、拘束服を両手で差してきた。
「裸体など何とも思わん。しかしまあ使えるものは使うか」
調子が狂うなと、カールは破れた拘束服を適当に身体に巻きつけて縛った。
ハクが扉と反対側、壁の方に歩き出した。
ハクが壁を強く殴りつけた。勢い良く腕を突き出すと、壁が大きく凹んだ。代わりに轟音
三発目で壁に穴が空いた。破壊された壁を観察してみると金属のようで金属ではない。カールの義手、義足と同じ、蟲の殻に似ていると思った。
穴の向こうは絶壁。窓の数で五階だと分かる。壁に凹凸があるから降りれるか?
パストュムがカールの身体に腕を伸ばしてきた。任せるか、とカールは大人しくなすがままでいた。伸びた左腕がカールの身体に巻き付いた。
「この恩、必ず返す。タルウィとかいう男、必ず地獄に突き落としてくれるわ!ペジテ大工房はその次!」
凍てつくような寒さ。
地獄など何度も超えてきた。
死ぬものか。
ーーそう、カールと言うの。今日から
二十五年前、飢えで倒れた後に目を覚ますと優しく抱きしめられた。黒髪
ナーナ。
娘のシュナと、それも姫君と同様に扱ってくれた恩人。
ーーメルビン!カールに毒味役などさせないで!シュナが苦しむべきことです!止めさせて!
シュナ。
ーー貴方も飢えて死んでいたかもしれない。だから手を伸ばすのよ。私に出来ることはしないとお母様の顔に泥を塗るわ。
シュナ。
ーーカール。貴方が私を
本物の姫だと知られればシュナより自分が選ばれる。たかが容姿のせいで。その可能性を捨てたくて憎きペジテ大工房に乗り込んだ。
殺すなら殺せ。
捕虜として利用してみろ。
シュナの為になりそうならば何でもしてやる。
ーードメキアの真の姫よ。何故そのように死に急ぐ
ペジテ大工房御曹司アシタカ。グスタフとシャルル王子に一度謁見に来たことがあるから城の絵画を見ていたのだろう。あの見る目のなさ、シュナに何をするか分かったもんじゃない。
ーー貴方の主と軍も守られる。あの姫とペジテは友好を結べる筈だ。本国に怯える必要はもうない。戦をやめてペジテ大工房へ来いと伝えよ。何もかも受け入れる。反乱を続けるならペジテ大工房は関与しない
不信感たっぷりなあの目。絶対にシュナに害なす。
一旦引いて、殺してやろうと思ったのが間違いだった。あの場で即殺してやれば良かった。
無事だろうか。
カールより忠臣だと噛み付いてくるゼロースが守り通してなかったら首を
シュナと離れなければ良かった。
「シュナ……」
猛吹雪が
貴方の姉です。
もしもシュナの腕の中で死ねるなら、そう言い残して死にたい。
きっと悲しむよりも喜んでくれるだろう。
その瞬間の為に隠さねばならない。
嘆き悲しむ中に、喜びを。
***
六日後
***
熱で意識が
巡回兵から
途中馬も手に入れた。
水も食料も適度に見つかった。
ハクは何も口にしなかった。口がないから仕方ない。エネルギー源は何だ?
星座を頼りにひたすら進んだ。その道中、休憩がてら土に枝で文字を書いて筆談した。あまり学に興味が無かったせいで、カールのせいで言葉通じにくかった。
しかし文字と、頭部を縦に揺らすか横に揺らすかで十分互いの意思を伝達出来た。
しかし熱発。
今度こそ死ぬかもしれない。
回り
くるくる。
くるくる。
狂狂。
「ハク……私が死んでもドメキア王国へ行って欲しい……」
戦場で知り合い、そう月日は経過していない。ハクの今の姿でドメキア王国の国土に一人で現れればどうなるか想像に容易い。
カールの連れ、そう示すものは何もない。
言葉も
「シュナ姫に……私は姉だと伝えて欲しい……。王に……王になっていたら……私は戻らない……死んだとは言わずに……。隠れて会えば貴方を無下には……」
熱が出てからハクの冷たい腕の中で何度も何度も繰り返して言葉を伝える。
頭が上手く回らない。元々頭は良くない。
馬の揺れが辛くてならなかった。
明け方、ハクが馬を止めた。
大嫌いだが懐かしい毒蛇の巣、ドメキア城が遠くに見えた。
「何だあれ……」
巨大な蛇が二匹。ドメキア城の砦の上に君臨している。
角のある特大の蛇、それから頭が
蛇と
ドメキア王国の守護神エリニースとシュナの真の姿。シュナからそう教えてもらったことがある。
ゆらゆらと七色の光が空中を舞っている。
虹の雪?
「海岸沿い……城の後方に回れ……禁足地……」
ドメキア城後方の海は神が住まうと伝わり、王族以外は基本的に進入禁止。
ハクが馬を進めた。
途中、大地が大きく揺れて馬が逃げ出した。
二匹の蛇の大咆哮に貫かれる雲。
天には蟲の群れ。
何だ、何だこの天変地異は。
ハクが逃げようというようにドメキア城に背を向けた。
カールは力を振り絞ってハクの腕から降りてドメキア城へと歩き出した。今のハクは怪力。弱り切っているカールの抵抗など軽くあしらえる。分かっていて腕を離した。
なのにハクがまたカールを抱えて走り出した。
前方、かなり遠くに騎士団が見える。
見つかれば不審者として殺される。
「死ぬな……あの騎士団がこちらに攻撃してくれば……私を投げ捨てて逃げよ……私は地位が高いから大丈……かならず迎えに行き恩を返す……」
風に
しかし……。
カールはハクを見上げた。短いながらも戦友。見捨てれば、裏切れば、シュナに顔向け出来ない。決して裏切らない、人殺しだがそれだけは守ってきた。カールを人として繋ぐ唯一のもの。
音も聞き辛い程苦しい。息がしにくい。このような熱、何度か経験あるが人生で最も酷い。
騎士団はドメキア城に注目していてこちらに気がつかない。
ハクがカールを掲げながら駆け寄っていく。
無抵抗。
そんなもの見せつけてどうする。
殺されるつもりか。
この国を知らな過ぎる。
案の定、弓矢が大量に降り注いできた。
「逃げ……よ……」
眼前が一瞬真っ白になった。
『
聞き覚えのある声に憎悪込み上げてきて意識が少しはっきりした。
目の前にティダが従える大狼がいた。名は何と言ったか。そう考えた時に少し冷静になった。
先程の声はアシタカ。そして内容。何が起きている?
大狼が背を向けた。大咆哮が大地に響き渡った。
『そもそも、どいつもこいつも恥を知れ!このような澄んだ美麗な瞳に決意
『その続きを口にすると聖人といえど罰しなければなりません。
この声はティダ。何だ。シュナはどうした?アシタカの怒号がシュナに対する思慕、尊敬からであるというのは察しがついた。
ノアグレス平野でのあの状況から何が起こった?
騎士団に向かって
「ゼロース様!危険です!」
ゼロース。
その名で安堵が押し寄せてきて一気に意識が混濁した。
ハクがカールを地に下ろした。
背を向けて遠ざかっていく。
『そんなことよりもシュナだ。彼女を一番に守らねばならない。それに忙しい。祖国から山のように仕事を持ってきている。テントに寝台を用意しよう。見張ってないとすぐに働こうとする。それに君の提案はいつも有益だ。だから常に近くにいて欲しい。離れないで同じ道を歩んでもらいたい』
裏切りには反目。
信頼すれば剣刺されようと信じる。
裏切りは万死。
カールは立とうとしても立てなかった。ハクが遠ざかっていく。
『
『真心ではなく何もかもだ。彼女を守り、一つでも多くの幸福を与える為に今までよりも身を粉にして働く。平穏も休憩もなくて構わない。その時間分、その労力分、与え続ける。僕は忙しいのでより
「待て……」
カールは無理やり立ち上がった。立つのもままならない。
『
状況が読めない。
しかし、シュナはもうカールなしで生きていける。それだけは分かった。
あまりにも寂しい反面、心底安心した。
恩には恩を返せ。
それがナーナの教え。シュナの生き様。
もうきっと、シュナはカールがいなくとも大丈夫だ。
今、行くべきなのはシュナの所ではない。
裏切りは万死。
『何もかも。流星落ちてきた夜、あの日限りの命となりたいとまで思いました。偽りの流星が降り、まだ病に苦しんでいた夜です。アシタカ様、貴方が駆けつけて
侵略した国の御曹司と
虹色の雪が増えている。このような美しい世界でシュナは幸福を得た。
見たい。
見たくてならない。
しかし恩は返す。
動いて死ぬというのならば死ぬ。元より殺されるところだった。
「待て……待てハク……」
倒れかけた時に大歓声が聞こえた。
シュナとアシタカの名前が呼ばれ続けている。
報われた。
気づく者は気づく。
どんなに隠されていても見い出す。
ハクを一人にしてはならない。
カールは、自分を抱き上げたゼロースにしがみついた。
「ゼロース……一生の頼み……。あの者捕らえ……恩人……」
いつの間にか泣いていた。泣くのはいつ以来か。メルビンが死んだ時だ。カールの命守るために命を捨てた年の離れた盟友。父親のようだったメルビン。泣いたのは、必ず、必ず、シュナを守ると約束したあの日が最後だ。
ぼやける視界にまた白が過った。
「この匂いやはりカールか!さすが忠犬!シュナの祝言見にきたにしては随分弱っていやがるな!ゼロース!シュナを預かってろ!あのパストュムを捕虜にする!」
大狼の上にティダが
パストュム。ティダはその名を知っているのか。
ハクはまた拷問されるに違いない。腹の底見えぬハイエナ、殺したくても明らかな力量差で叶わなかった。
力が無ければ何も守れない。
悔しい。
悔しい。
誰よりも努力してきた。
自惚れだった。
余りにもティダとは差が広かった。力だけではない求心力。
シュナを討たれると激しく憎悪した。
「カール!」
人影がゼロースに向かって落ちてきたのと同時に、シュナの声がした。次の瞬間にはきつく、きつく抱きしめられていた。震える小さな体。抱いたことがない体型に、カールはシュナの声を出す女を引き離した。
自分に似ながらも、目元が懐かしくて恋しくてならないナーナだった。
一目、大空色の瞳を見れば誰だか分かる。
「シュナ様……」
「すぐに医者を呼びます。生きていて良かった……。
また抱きしめられた。シュナは
姉上。
もう知っているのか。カールが何をしようとしたのかも、シュナならばもう理解しているだろう。裏切るつもりなくとも、背中突き刺した。苦痛与えただろう。
「シュナさ……貴方こそ生きていて良かっ……。シュナ様……あの者は恩人……」
嘔気に耐えきれないとカールはシュナを押し離そうとした。しかしシュナは非力なのに離れない。それ程弱っているというのか。
カールは吐いた。
純白のドレスが
カールの意識はそこで途切れた。
***
さらさら、さらさらという音でカールの目は覚めた。
見慣れた天井。随分具合が良い。手に温もり感じると思ったら手を握られていた。シュナがカールの手を握っていた。シュナが寝台に突っ伏している。体に毛布がかけられていた。
さらさら、さらさらという音の正体は羽根ペン走らせる音。よくシュナがこの音を立てていた。寝台脇のテーブルで音を立てているのは、アシタカだった。
「目が覚めて良かった。しかしまだ日も登らない。横になっているといい」
あまりにも穏やかな声と微笑みにカールは面食らった。殺してやろうと思っていたことを忘れてしまう程、無防備。
「ああ、最後に会った時は怒鳴り合いでしたね。互いに誤解していることもあるでしょう。もう少し元気になったら語り合いたいです」
シュナの体から毛布が落ちそうになって、アシタカがカールよりも早く毛布を掴んだ。それからシュナに優しく毛布を掛けた。
「感染すると言っても絶対に離れないと聞かなくてね。隣で眠れば貴方の休養の邪魔になると
浮腫みと硬質化酷かった手は艶やかで滑らか。その分随分小さく感じた。カールの左手を両手で握るシュナの、左手薬指に指輪が
ルビーで形作られた紅の
やはり全く状況が読めない。
「何もかも分からない。しかしシュナ様の発言を聞いた。
アシタカが肩を
「僕を殺そうとした者を死刑となると、大勢死ぬ。ましてや貴方はシュナの姉。つまり僕の義姉。今の謝罪は僕への
あはは、とまるで昔からの親しい友だというようにアシタカが呑気な笑い声を立てた。このような者、カールとシュナの周りにはいなかった。
ーー僕を殺そうとした者を死刑となると、大勢死ぬ
何でもないというように告げたが、アシタカは殺されかけたことがあるということだ。
今の今まで忘れていた。
聖人一族のアシタカ・サングリアルはやはり国の至宝。名案にて追放会議は今回も否決。そういう文章を目にしたことがある。
カールはまたシュナの指輪に目を落とした。
紅の
その中央の美しい宝石。至宝。
そして聞いた、まるで永遠の
少なくともシュナの今の姿、ペジテ大工房の高水準の医療技術で治ったのだろう。
「んっ……」
シュナが小さな声を出した。目元が濡れている。アシタカが指の腹でシュナの涙を
もうシュナにカールは必要ない。そう感じたのは正解だったようだ。打算では無いのは明らか。
「ずっと心配だったのでしょう。まだペジテ大工房にいた時、何でもするからカールを見つけたらどうか慈悲をと嘆願された。病が治ったのを見てもらいたい。もう必要以上に守ってもらわなくても済む。カールはカールの人生を歩んで欲しい。そう言っていましたよ。僕は逆だと思いますけどね。それ程慕われたら絶対に離れたくないし守り続ける」
追い詰められていた時の言葉は、「許すから許せ」という怒号。腹の底まで清々しいのだろう。
「すみませんでした」
自分でも驚く程、すんなりと謝罪の言葉が自然と出てきた。毎日張り詰めていた糸が事切れたように、
カールはシュナの手をそうっと引き
カールは自分の両手を見つめた。
幾人の心臓の返り血で汚れたか。数えたこともない。誤解で殺した者も多いだろう。
急に寒気がした。
「今のように
胸が熱い。穏やかだからか、偽りないからからか、どちらもだろう。するりと
「はい。ありがとうございます。状況が全く分からないので教えて下さい。シュナ様を守っていただいたのは理解出来ます。ありがとうございました」
また自然と感謝が
アシタカがカールに左手を差し出した。
「ええ
迷いを一瞬感じた。それから深く息が出来るような穏やかな空気が届いてきた。
ーー殺せただろうに、見定めようと逃げた。
疑っているのに信頼示してきた。カールは恐る恐るアシタカの手を握った。予想外に、カールの手は
これは
ーーそう、カールと言うの。今日から
三つの時にナーナに抱きしめられた感情と全く同じ。
「んん……カール?カール!」
ゆっくりと目を開いたシュナが飛び起きた。カールと目が合うとみるみる涙を浮かべて大粒の
「シュナ様……独断で心配かけました。このカール、帰国しました。護衛という最も優先するべき任務を離れたことを
シュナがぶんぶんと勢い良く首を横に振った。
「生きていれば絶対に
何を言おうとしているのか分かった。
「カール!起きたか!死ぬかと思ったぞ!」
飛び込んできたのはゼロースだった。今にも泣きそうな顔をしている。いつも涼しげで自信溢れる男がこのような顔、カールが知る限りでは師であり父親代わりのラーハルトが病死した時以来だ。
競い合いながらも、カールの忠臣。というよりもシュナの忠実なる
ゼロースの
口にするつもりはない。
「もう
アシタカがすっと立ち上がった。家族?
「カール。先日分かったのですがゼロースは
カールは絶句した。
双子?ゼロースと?
ゼロースがシュナごとカールに抱きついてきたので思わず鉄拳が出た。ゼロースが上半身を
「すみません。カール様ではなくシュナを抱きしめようとしただけです」
シュナに様を付けるのを止めたらしいゼロース。シュナの兄だと知ったゼロースの姿は嬉々としていただろうと脳裏に浮かんだ。道化演じるシュナに貰った折り紙で作った星を、十年も経った今も家に飾っているらしい。そんな噂を聞いたことがある。
ゼロースと双子とは違和感あるのに妙に納得してしまう。
不穏な気配を感じてカールは顔を向けた。アシタカのこめかみに血管が浮かんでいる。
「
ゼロースに噛みつきそうなアシタカにカールは
「問題ありませんアシタカ様。兄妹です。貴方様と同じ行為です。どうして怒っていらっしゃるのでしょう?」
指摘されたアシタカが目を丸めた。
「怒っている?僕が?そうだ、ゼロースさんはシュナの兄。兄なら妹を大切にするのは
アシタカが髪の毛を掻きながら、罰が悪そうに苦笑い浮かべた。
「ああ、カール殿。貴方が恩人と言っていたパストュムとかいう生物。友と一緒にいる。もう少し顔色が良くなったら共に会いに行こう。ずっと上の部屋の隅で座って大人しくしている」
カールは思わず立ち上がった。ティダに殺されたと思って聞けなかった。よろめきながらカールは一目散に階段を駆け上がった。
生きている。
生きている。
ハクは死んでいない。
階段を登りきるとカールは目の前の光景にへたり込んだ。
「起きたのか忠犬。こいつ何なんだ?お前が必死だから捕まえたが中々腕が良い」
ティダが口角を上げて笑った。
床に座るティダと、向かい側に座るハク。
ティダの顔、目元は青黒く変色していた。それにガーゼも当てられている。
二人の間には将棋盤が置かれていた。
カールはしばし声が出せなかった。
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