忘れ形見の後継者
水沢洸
プロローグ 新たな伝説の幕開け
「
男が剣を振り上げる。
かなり使い込んでいるのだろう、
けれどもその
それはさながら、
……ただまぁ、それは当然の話だろう。
これはそういう試合なんだから。
ルフレイア大陸のフェルバルト国で、四年に一度行われる
勇者祭。
かつて世界を救った者たちが始めたとされる、平和を願う記念の祭り。
今年はその第七十三回、その決勝戦がいままさに行われていた。
男は剣を高々と
「あはは……さすが、前回のファイナリスト。スッゲェ強いわ」
と、
青年は左手を裏向けて目の上に乗せ、
「初戦でその
「いやいや、あれはたまたまラッキーだっただけですよ。現に俺はこうして倒れてる」
倒れた青年に
対し男にはかすかな傷一つ付いていない。
それほど二人の力量には差があった。
青年は言う。
「そんでやっぱ、俺ってまだまだ全然だなぁ~って思うわけですよ」
そう言って
「ほんっと、まだまだなんだよなぁ~……俺達の、物語は」
青年の口が、ニヤリとゆがんだ。
――直後、二つほど向こうの
そこを中心として建物が
「……向こうは随分と
男はそれを
「ッ、
男は突然剣に振りかかった衝撃にバランスを崩すもすぐに立て直し、
しかしその
なんとも正確
敵ながら
しかしこのままでは勝利条件のひとつである『敵チーム大将の撃破』を満たせない。
「カナ!
このままでは勝てないと、男は
それだけで仲間に通じるからだ。
彼の仲間には
その者が連絡役となり全員を
それが彼らの戦い方だった。
しかし……
「……応答はなし、か」
それはつまり、連絡役がやられたことを意味する。
そしてそいつは『宝玉』と共にカナの結界に護られていたはずだ。
この宝玉は、もうひとつの勝利条件。
敵チームの宝玉を
つまりこの瞬間、彼らの敗北が確定した。
男は
「ちょっとちょっと、なに諦めた顔してんですか。勝負はまだ終わってないでしょう?」
と、青年が立ち上がり、
男は何を言っているんだとばかりに眉をひそめ、剣を
「ハーゲンがやられた。あいつは宝玉と一緒にいたはずだ。ならばもう、勝負はついてる」
「俺たちが目指すは勇者でしょう。それならどんな
「
「あ、それ
あるのかよ、と男はげんなりする。
「でもね」
しかし、それは一理。
勇者たるはそれだけでないと、青年は続ける。
「昔の話聞いてると、思うんです。あの頃、誰もが諦めてた世界で、ただ勇者の一団だけは諦めなかった。不可能だと、
そこまで言って、青年は男を見る。
男の
それに思わず、ため息をつきそうになった。
敗けの決まった勝負。
それでも諦めずに戦えなんて、馬鹿もいいところだ。
けれど、それが勇者。
それこそが勇者なのだ。
かつて世界に
男はため息の代わりに、
「わかった。諦めないでやるよ。それで? 制限時間はどうするつもりだ?」
「ああ、宝玉は壊さない」
「は……?」
男は
「宝玉は壊さない。制限時間はなしだ。俺とあんたの
それは実にふざけた言葉だった。
馬鹿げた宣言だった。
青年は先ほど一騎討ちに破れ、地に伏していた。
それも、男に一太刀すらも
確かに見込みはあるし、後半は対応していたが、それでも勝てるとまでは思わない。
青年は勝ちを目前にして、優勝を目前にして、勇者を
男は怒りに
「随分と、
「舐めてなんかいませんよ。言ったでしょ? 勇者は逆境を
青年はさも当然のごとくそう言って、剣を
「さっきは負けた。でも今度は負けない。俺は
青年の銀髪がなびき、金の瞳が強く輝く。
その
が、男は気の迷いだと
しかし、もしも、もしもそうであるならば……と思い、
「……はは。そいつはいい。なら超えてみろや、この
男は叫び、
青年もそれに合わせて走りだし……
――その戦いはのちに伝説の一戦と呼ばれ、世界中の者たちが
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