第763話

「だから、朝倉は俺にお前を預けた。俺はお前に、精神的な平衡を与えるための修業を課した――それが今日に至るまでの修業という訳だ」


「……別に山を駆けて、落ちてくる薪を拾って、薪を担いで山を下っただけです。これで精神が鍛えられるとは、とても思えないんですが?」


 むしろ体の方を鍛えているのでは、と、ノエルがまた首を傾げた。


 その問いに対する答えは、既にギムレットは回答済みである。


 彼女の身体は、その歳にしては出来過ぎるほどに出来上がっている――と。


「朝倉の修練のおかげと言っただろう。お前さんの身体は、既にここに来た時点で出来上がっていた」


「けどけど、ノエル、最初のころ、バテバテでしたよ」


「それは体力がないからではなく、お前の集中力が――つまるところ心が、散漫で一点に集中するだけの力を発揮することができない状態だったからだ」


「にゅにゅにゅ?」


 よく分からないぞ、と、ノエル。

 すると、不意にギムレットが、テーブルの上を転がっていた胡桃を手に取る。


 すぐさま彼はそれを振りかぶり、ノエルに向かって投げつけた。

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