第677話

「――なんともありませんけど、師匠?」


「――そんな馬鹿な」


 待てども待てども一向に状況は変わらない。

 ジャン・バルジャンが二人の魂に乗っ取りをしかけてくることはなかった。


 それこそ、先ほど朝倉の体をして、言っておいてのこれである。

 二人が困惑するのは無理もなかった。


「どういうことだこれは」


「もしかして、恐れをなして逃げ出したとか。考えられなくもないですか?」


「――ありえん、あのジャン・バルジャンが、か?」


「じゃぁ、ノエルの強力な一撃で、再生する間もなくあの世行き――とか?」


「それなら俺はこんなに苦労しとらんちゅうの」


 何があったのだ、と、一応、考えては見る。

 だが、まったくその答えに思い当たれない。


 そう、この時、ジャン・バルジャンは確かに師弟の魂を乗っ取ろうとしていた。

 そして、不死の秘術『強制輪廻』を発動させていた。


 しかし、ここに予想外の落とし穴があったのだ。

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