第548話
台風一過。
きれいさっぱりと、黒雲の消え去った水平線の向こうに日が落ちようとしている。
ワイバーンの背に乗りながら、それを振り返って眺めるノエル。
いい景色ですね、なんて、どこか自慢げにいう彼女。そんなのんきな弟子と裏腹、朝倉の胸中はざわついていた。
「師匠やほかの理事はなんていうだろうかな。一発で、こいつが台風を吹き飛ばしたなんて報告したら」
ノエルは確かにタイフーンを相殺し、大陸を救ってみせた。
しかし同時に自身の魔力の危険性をも具体的に示してみせた。
タイフーンを個人の魔力で吹き飛ばすなど、普通、余人をもってしてできる芸当などではない。
様々な魔術の業を織り交ぜて、その上で、それを成すのならばまだわかる道理だ。
しかしだ、彼女はただの力ずく、ごり押しで、台風を吹き飛ばして見せた。
これが、もし、タイフーンの中でなかったとしたらどうだろう。
王都の中で、ふいにこの力が発動したらどうなるだろう。
「今回の一件、素直に伝えるべきか、適当に誤魔化すべきか」
もちろん、信頼できる師匠には相談するとして、理事会にそのまま話題を上げるのは危険ではないのだろうか。
暗い北の地平を眺めながら、暗澹とした思いでそんなことをつぶやく朝倉。
ここのところ、ちょっといいところのなかったノエルが、嬉しそうに肩を揺らして微笑む姿を横で眺めながら、彼女はそののんきな弟子の身の上をついつい案じてしまうのであった。
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