婚約破棄から始まるフリー・ライフ

ゆあ

第1話 目覚め

「マキナ!貴様との婚約を破棄するっ!!」


きらびやかなパーティーホールに響く我が婚約者である、フィスマ王国第1王子ルシウス・レ・フィスマの声。

その声に集まっていた貴族の方々が、一斉にこちらを見る。

皆、耳を疑っているような表情だ。


「...一体、どういう事ですの?」

「貴様は俺の愛するレレシアに常々、暴言を吐いただろう!それだけじゃない。先程レレシアを階段から突き落としていただろう!見損なったぞ!!」


わたくしの問いに、声を荒げて叫ぶが、本当に何の事だか分からない。

それに、


「レレシア、とはどなたで御座いましょうか?」

「貴様ぁ!!よくもぬけぬけとっ!」

「きゃっ?!」


ルシウス様はあろうことか、女性であるわたくしを殴った。

正直、避けようと思えば避けられたが、一応、貴族界では、『儚麗華(はくれいか)の令嬢』と呼ばれ、儚く、か弱いイメージで通っているので、それを崩さない為に殴られておいた。

が、その直後、わたくしの頭に膨大な情報が流れ込んでくる。


「(転生、ね。)」


その記憶は、こことは別の、表だった争いの少ない平和な世界で93歳まで生きた女性の記憶。

でも、今はそんなものは関係ない。


「お嬢様っ!(マキナちゃん!!)大丈夫ですか(かしら)?!」


わたくしの元に駆け寄ってきてくれるのは、わたくしの家族と、使用人の方々。

とてもーー大切な人達である。


「ええ。少し痛みますけれど、大丈夫ですわ...」


わたくしが殴られた頬を擦りながら笑顔を向けると、何故かお母様のお顔が真っ青になった。

わたくしは何故か分からずにお母様を見つめていると、お母様が急いでわたくしを抱き締め、〝治癒魔法〟でわたくしの頬を治してくださった。

一通り治し終わった後、使用人の方々はわたくしを援護するように後ろに立ち、お母様は、わたくしの横で、ルシウス様と対面する。


「な、何なんだ!」

「それは、こちらの台詞で御座いますわ、殿下。このような場で我が娘に恥をかかせただけでなく、暴力まで振るわれるとはどういう事ですの?」


お母様がルシウス様へ微笑みを浮かべながら容赦なく言葉を叩き付ける。

それに、お母様、目が全く笑ってない。綺麗な水色の瞳の奥がどろどろとした青色に染まってるし、扇を持つ手も鬱血している。

急いでこの場を乗りきらなくては。


「貴様等...調子に乗るな!!たかが(・・・)公爵位の分際で!!」

「「「「......?!」」」」


............イマナント?

〝たかが公爵位〟??


「............良いでしょう。婚約の破棄、お受けいたしますわ。」

「マキナちゃん!?」

「お母様、私とてイージス公爵家の娘です。そのイージス公爵家の名を汚されるのならば、黙っている訳にはいきません。」

「でもっ、」


お母様は酷く動揺しており、取り繕うのさえ忘れてしまっている。

まぁ、普通の令嬢ならば、婚約破棄された瞬間、領地戻りになる。

事実上の社交界追放だ。

けれど、〝普通の令嬢ならば〟の話。


「私が、隣国リーベ王国でなんと呼ばれているか、御存知でしょう?」

「......!!そうね。『リーベ王のお気に入り』『リーベの戦女神』『戦聖女』『リーベ王国名誉伯爵』の〝シファーファ〟ちゃん?」

「お母様...わざわざ全部仰らなくても......」

「ふふ...心配させた罰よ?」


私とお母様、使用人の方々のほんわかした雰囲気、何を言ってんだと言いたそうなルシウス様とは別に、周囲の貴族達はざわめきつく。

〝シファーファ〟という人物がフィスマ王国に居ることは知っていたが、まさか私だとは思わなかったのだろう。

この世界には交通記録を録る様なものは無いから調べられなかっただろうし。


「はっはっはっ!バレちゃったか、愛娘よ!」

「はっはっはっ!まだまだユリアには勝てんか、マキナ嬢!」

「ご無沙汰しております、陛下。そもそも勝とうとは思っておりません。お父様、呑み過ぎですよ。お顔が真っ赤です。」


肩を組んで登場するという貴族のパーティーで非常識な行動をやってのけたのは、我が父、ジュード・イージス公爵とこの国の国王、アルコス・ロワ・フィスマ王国陛下。

お二人共後でこってり搾られてしまえ。

ナニを、とは言いませんが。


「お父様、陛下。私、マキナ・イージスはルシウス・レ・フィスマ第一王子に婚約破棄をされた為、近日中に〝領地に戻り〟ます。」

「本当に良いのだな?」

「はい。」

「うむ。では、余、アルコス・ロワ・フィスマの名において承認する。更に、領地に戻った後のマキナ・イージス嬢に貴族が干渉することを禁ずる触れを出しておこう。自由に生きなさい。」

「感謝に絶えません。」


これで私の自由は約束された。

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