サード・オブ・ザ・ピッチ〜約束の場所〜
@guruzonhomuri
1-30
「うて!シュートだ!」
立港市立精悍小学校のグランドは土曜日の晴天に包まれて陽下に土埃を上げていた。もうユニフォームの色が判別できないぐらい泥だらけになった赤色っぽいユニフォームと白く泥の一つも付いていない綺麗なユニフォームが入り混じりそしてグランドの中央に動く白い点それはボールだ。
精悍SSS 0前半16 立港ハイラットFCU-12
精悍SSS 0後半13 立港ハイラットFCU-12
前半後半15分ハーフ1ゲーム
精悍SSS側の保護者の声援には前半ほどの勢いはなく逆に
するとハイラットFCはすぐにボールを奪おうとせずに自陣に戻って精悍SSSの7番ユニフォームをつける柿常 陽気の勝気にはやるドリブルを吸収するように抑え込んだ。そしてすぐに前線へ細かいボールタッチでパスを回していく。精悍SSS保護者は気づいていないが後半から立港ハイラットFCは全選手がツータッチ以内でボールをパスしている。これは相手が弱小のどこにでもある市立小学校チームと舐められた何よりの証拠だ。
早いハイラットFCの前線へのワンツーに精悍SSSのディフェンスは釘付けになり身うごきの一つも出来なかった。あっというまペナルティエリアの中でゴールキーパーに低い弾道の早いボールが飛んだ。
ピーッ
「またか……………………」
得点版係の工藤京香は得点版と同じ後半に入って14度目の溜息を吐く。たまたま通りかかった所を精悍SSS唯一の女子六道秋華に呼び止められてそのまま得点版係になったのはいいものの多くの親御さんがいる中で得点版を操るのには人見知りな京香にはなかなか勇気のいる行動だった。
だがこうして特等席で自分の小学校のチームが痛めつけられるのは中々に堪えた。京香は早く試合が終わる事を切実に願った。
その刹那
ボールを保持していた精悍SSSの
監督はベンチに戻り今の今までベンチにはいなかったはずのいや存在が消えていた選手を呼んで背中を押しながらピッチに出した。身長は150センチほどの瘦せ型のスポーツメガネをかけた少年が入ってきた。身長はまあまあだが体が明らかに細い。
工藤京香はその姿を見たとき咄嗟に驚きとも不安とも似つかない声で彼を読んだ。
「キョーヤ君?」
夕方精悍小学校の畑を耕し終えた精悍小学校校長区枝正道は校長室からグラウンドの戦況を見ていた。スコアから見て精悍小学校のチームが満身創痍であることは明白だ。スコアボードもすでに得点版が30を記録している。区枝は未だかつて精悍小学校がここまで大差で敗北した試合を見たことはなかった。
「仕方ないか」
区枝は校長室の椅子に座りながら再び敵チームボールで動き出した試合をながめる。こちらに分がないのは明らかだというのに精悍小学校のチームはよく走る。そんな彼らを見ていると高校生時代の自分を少しだけ思い出してそれを彼らに重ねてみる。状況は何も変わらない。それでも必死にボールを追っていたあの頃。
区枝は少し悲しいような感覚に包まれながら視線と体の向きを扉の先に移した。
状況は何も変わらない。恭弥はそれを理解しながらピッチに立っていた。押し寄せる敵のディフェンス。状況は相変わらずよくない。味方が敵の策略的なゾーンディフェンスにはまりどんどんボールを取られていくだけだ。
「(
恭弥は選手達を見回す。視野を広くした。
見えてこない。
おかしい。ゾーンディフェンスの隙が見えない。どこに言ってもボールはゾーンの網にかかり押し切られてしまう。
どうする!?どうする!?僕!
このままじゃどんなにボールを取って回したところで即詰みだ。戦略性と集算の高い攻撃に押されてるようじゃ勝てない。それなら一か八かやってみるしかない。
恭弥は前線に突出し左
でも、うたなきゃ入らない。絶対に入れるんだ。この右足にかけて。
足を振り上げ思いっきりボールに当てる。
そして
シュート!
〜シュート直後ハイラットFC GK橘宗三視点〜
なんだそのシュート。橘は心の中で薄っすらと笑った。シュートの弾道はまあまあ高く初心者にしては上出来だがコースはGK正面だ。橘の丁度腰あたりにボールの弾道を予測した。
「(よし正面に入ってきて………………)」
ん?なんだこのボール回転がかかってない。まて!起動が下に落ちてきて
ピーッ
グラウンドにどよめきと驚きが入り混じった声が響いた。グラウンドの土埃が強くなり風が吹き抜けていく。
試合終了
精悍SSS対立港ハイラットFCU-12
精悍SSS 0前半16 立港ハイラットFCU-12
精悍SSS 1後半14 立港ハイラットFCU-12
15分ハーフ一本。
「やった…………………やったあ!」
工藤京香の目に始めて喜びが映った。
「おお…………………」
区枝正道は驚嘆しながらグラウンドを去ろうとする細身な彼の背中を見つめていた。そして区枝は自分の心に決心ししばらく動かしていない体をあの時のように再び動かした。
「一ノ瀬恭弥君」
彼は振り向いた。
「ちょっと君に話しておきたいことがある」
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