1話 音楽禁止の町[ハーメルン]

 想区を旅する調律の巫女一行。休息を取るために入った想区にて。

 ネズミいっぴきいない綺麗な町並み。そこそこ豊かなのか町自体も広く、店も充実している。過ごしやすい町だ。エクスだけでなく他3名も同じことを思ったのだろう。

 だが、レイナがそんな町並みを見ることなく地面を見つめトボトボと歩いている理由となった問題点がひとつ。

「……レイナ、もう終わったことだからいい加減機嫌治そ……?」

「……」

「……あーあ…すっかり落ち込んでるのか、食い物屋にも見向きしねぇ」

「姉御、アップルパイですよ、リンゴジャムのパンですよ、ほら、ほら」

「…………」

レイナは相変わらず返事がない。ズゥンというように黒いオーラーをまとっていた。

「…………い、いちごのジャムパンも、あります……」

「シェイン、林檎だから黙ってるわけじゃないと思うよ……」

 エクスはその様子に苦笑を浮かべながら、発端となった出来事を思い出していた。


 発端。それは食事を取ろうとして立ち寄った食堂。

 人が空いてた時間、食事も美味しく、今とは真逆にレイナのテンションは高く、少し口ずさんで歌を歌ったのだ。

「♪~♪♪~」

「おい!歌うのをやめろ!」

「♪―!?……え?」

 店主が調理場から飛んできてカウンターにいたレイナにそう叱る。

 レイナといえばきょとんとして逆に怒るのすら忘れていた。

「う、うるさかったですか?」そうエクスが聞いてみるが違うらしい。

「……あんたら旅人か」

 店主は歌をやめたのを確認すればそう4名に呼びかける。

 肯定を示せば、店主は口を開いた。

「そんなら教えてやる。この街には絶対やぶっちゃいけねぇ規則がある。それは―――」


 ***


「……だって……楽しい気分だっただけなのに……」

 やっと口を開いたと思えばやはり言葉が暗い。楽しんでいたところに水を差され、変に元の調子に戻れないのだろう。叱られた子供が拗ねるようにレイナはつぶやく。

「知らなかったんだから仕方ないよ……。ね?」

 シェインやエクスは宥めているがあまり効果はなさそうだ。ズーンという効果音とともに、レイナの楽しい気分が沈んできている。

「にしても中々変な町、だよなぁ」

 タオは理由がよくわかんねぇなぁ。とあの時告げられた禁則事項を口に出した。

「音楽を禁止している なんて」


 *****(回想)

「音楽……今口ずさんだそれだけでも、だめなの?」

 店主の言葉に、そうレイナが聞けば、答えは意外にもNOであった。

「正式には"楽器の演奏を禁止"だ。……だが、最近出来た法律だし、頭の硬い奴はいる。そう思っての注意だ」

 俺の中ではセーフだと思ってるから今の歌は聞かなかったことにしてやる、とレイナへ言う。

「笛の音を使って子供をかっさらった笛吹き男……がいるんだよ。その野郎に今後二度と子どもたちを連れてかれないように、っつうことでな」

 特に子持ちの親御さんは敏感だから怒らせないように気をつけろよ?そう優しい店主は忠告を送ってくれた。

 *****


「笛吹き男のせいよぉ……私怒られる必要もなかったのに……、ん?」

 落ち込みつつ恨み言をつぶやくレイナは何かを聞き取りふと顔を上げる。その様子に

 数人の街人がこちらへ走ってくる。正しくは逃げているのだというのはすぐに分かった。街人の背後には影。それはとても見覚えのあるもので……。


「!ヴィラン!」

「ここ、ヴィランが出るのかよ……!」

 家の中から現れたそいつは、町の人がその姿を変えたのだろうか。それとも潜んでいたのだろうか。

 分からないが、こいつらを倒さねばいけない。4人は導きの栞を手に取り、戦いを始めた。



 ****


 戦闘は続く。だが、ヴィランの数は一向に減らない。メガ・ヴィランが紛れていないだけ幸いだが、どうにも長期戦は分が悪い。1匹1匹が弱くとも、こちらは4人しかいないのだ。数で攻められるとやはり苦しいものはある。


「キリがねぇな……」

「一体どこから湧いて出てきているのかしら……」

 むしろ、戦闘開始よりも増えた。心なしか町の人の気配も減ってきている気がする。

「これ、町の人全員ヴィランになりそうってこと……?」

「ちょっとそれはシャレになりませんね、こんなおっきい町の人たち全員ヴィランは。想像したくないです」


 まだ増える蠢く影にどうするか、闘いながら思案を始める。そこに、戦いの音とは似つかわしくない音が聞こえてきた。


 ピーヒャラリ  笛の音だ。

 かといって直接耳に聞こえる、というよりは、何か音を拡散する魔法のようなものを使い、ここまで音を運んできている印象を受けた。


「笛の音……?」

「ここって演奏禁止よね、どこから……」


 不意の音楽にエクスたちだけでなくヴィランたちも動きを止める。町の外れに見える山を、そこにいたヴィラン全員が見つめていた。


「音はあそこからってこと……?」


 エクスがそう呟くのと同時に、ヴィランたちは戦いをやめその山へと走りだす。


「は?おい!お前らどこいくんだ!」

 タオの呼びかけもつゆ知らず、どどどと土煙を上げてヴィランたちは去っていく。コチラの勝利……と見たいところだが、山に向かったヴィランたちを放っておく訳にはいかない。


「町の外なら音楽はセーフなのかしら……ってそうじゃない!!あの演奏者が危ないわ!」

「数もありますが、演奏してるだけの人が戦えるかというのも微妙ですね」

「なら急いで助けに行かないと!」


 ヴィランたちを追いかけ、エクスたちもその山……「ポッペンベルク山」へ向かうことになる。

 笛はまだ、どこか悲しく、けど強い音を響かせていた。

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