顔⑰
薄暗い部屋。
なんだか白い物が敷き詰められて、まるで冷蔵庫みたいに冷たい押し入れ。
その開けた眼前、座ってる。
人のようなモノ。
「うそっ……!」
じっと見る。
だって、コイツ!
アタシは、もっとよく見たくて自分のスマホの電源入れてライトで照らす。
「ねぇ、なにやってんの?」
明るいスマホのライトが照らしたのは、いなくなった隣のクラスのハーフの男子。
廊下ですれ違うくらいしか接点なかったけど、連日の騒ぎや石川の家で見た写真とかで見たから間違いない。
いた。
こんな所に。
この家に。
「どうしよう……!」
ハーフ男子____名前はなんだっけ……石川はなんて言ってたっけ?
確か…。
「ね、あの、『けんちー』?」
押し入れの中で、壁に寄りかかる感じで座っている『けんちー』は虚ろな瞳で俯ていたけどプルプルと小刻みに震えながら顔を上げる。
「えと、あのね……だいじょ……ばないよね?」
「……」
ぼんやりとまるで、人形の目みたいに感情の乗らない。
「と、とりあえずこっから出よ、マジで冷たい……つか、何これ? 保冷剤?」
けんちーが座っている押し入れの中には、下にも壁にも枕くらいの大きさの保冷剤みたいのがみっしりと隙間なく敷き詰められていてまるで冷蔵庫かそれよりも冷たいかもしれない!
「ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガ」
寒さでガチガチする歯。
スマホの明かりで照らすその顔は、真っ白で唇も青い。
一体何時間ここにいたんだろう?
「ねぇ! 立って!」
アタシは、体育座りのまま掌を合わせて握ってぴくりとも動こうとしないけんちーの腕を掴んだ。
「寒いよ? 早く出てってば______」
ぐっと引っ張った右腕。
引っ張ったのは右腕だけのはずだったのに、まるで左手が張り付いたみたいについてくる。
え?
なに?
別に手と手を組んでいる訳でもないのに、張り付いてるみたいに?
「ぅ ぅ ぅ」
けんちーが顔を歪める。
「なに? 痛いの??」
アタシは、手に持っていたスマホのライトとけんちーのくっついた手の平に向けた。
「なに? 痛いの??」
アタシは、手に持っていたスマホのライトとけんちーのくっついた手の平に向けた。
「ぇ?」
けんちーの真っ白な手。
正確には、手の甲。
スマホの白いライトが、ぽちっとした何かに反射してキラリ。
十字の見慣れた穴のついたそれが沢山。
乾いた血が筋を作って突き抜ける。
ひ、ヒドイ!
これ、ネジだ!
ネジで、ネジで、手と手を縫いつけてるの?!
「ガチガチガチガチガチガチガチガチ」
「ぁ、ああっ! ひっ、ひっぱってごめっゴメン!」
アタシは、掴んだ腕をはなして飛びのいた!
「で、でも、とりあえずそこから出よっ、ね______ぁ」
引いたから初めて気が付いた。
脚も、脚もだ!
体育座りしてるように見えたのは、手と同じように長いネジを何本もねじ込んでぴったりとくっつけられていたから。
だから、動けないんだ!
「うそっ! なんでこんなっ、だ、だれが? こんなのヒドイ!」
駄目!
こんなのアタシじゃどうすることも出来ない……ぁ、そうだ!
アタシは、自分のスマホをタップして電話帳を開く!
どれだっけ!?
どれだっけ??
指が震えて、上手くタップできないけど何とかその番号を見つける!
『刑事のおっさん』
それは、刑事の青沼さんの番号。
「け、けんちー! もうちょっとまってて、刑事さん呼ぶから! ぁ、それから石川もこっちくるって言ってたから!」
「ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
がたん!
ばたん!
「ぅわっつ?!」
突然、転げだしたけんちーが襖の戸から畳に頭から落ちた!
「ちょ! なにやってんの!」
「な"っ"、な"っ"、み"、み"、がっ、なんでっつ!! おえっ、なんのだめ"に"っ"つ"!!」
まるで大きな芋虫みたいに蠢くけんちーが、ぐちゃぐちゃに乱れた茶色の髪をふりみだして今にも零れ落ちそうなぎょろっとした目で睨みつける!
「み"がっ! だめだっ! ゆ"っ"ぼ"ん"、おでっ! あ"あ"あ"ぁ"あ"あ"ぁ"……」
声を荒げ、訳の分からないこと言いながら泣きじゃくるけんちー。
一体何が?
この家で何があったの?
「あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"!!」
みちっ。
ミチチチ……!
けんちーが泣きじゃくり、もだもだとするとそのネジで貫かれた場所から血がにじんで畳にシミをつくる!
「だ、ダメ! 暴れないで! 千切れちゃう! 千切れるって!!」
そう言っても、けんちーは石川の名前を叫びながら暴れて聞く耳を持たないからどんどん血があふれちゃうけど怖くて止めたくても触れない!
「ま、まってて! すぐに助けを呼んで____」
アタシは、スマホを片手に一歩下がった。
_______トス。
背中に何か当たる生暖かい感じ。
それは人の温もり。
ひゅっと、喉が鳴って思わず息が止まる。
後頭部に感じる平らな固い肉の感触。
鼻につく紅茶の匂い。
あの子じゃない。
あの子ならこんなに固い筈ないし。
あの子なら今日はカレーの匂いがする筈。
だからわかる、アタシはこの紅茶の匂いを知っている。
ギシッ。
廊下の方で床が鳴った。
「ともこちゃん?」
開け放たれた襖におどおどしながら覗き込む丸い顔。
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