顔⑭


 アタシは、取れてしまった浮きとゴム栓を絡まらない様に手繰り寄せる。


 だって、これ以上絡まったらホントに困るじゃない! 



 「取りあえず、取り出して……それから____ん?」


 取り出したチェーンの先、ゴム栓の所に真っ赤なビニール袋? 


 それは、チェーンに何か茶色い糸みたいので何重にもぐるぐる巻きにされて絡みつく。



 「何これ? これが水を赤くしてたの?」


 そのビニール袋は、中身が無くなってしまったのかぺっちゃんこだけど____あれ?



 あともう一つ。


 それは、浮きの所に同じように茶色い糸で結ばれている。


 これも、ビニール袋。


 けれども、その中身はスマホ?



 「スマホじゃん……え? なんでトイレのタンクにスマホ??」



 アタシは絡みつく茶色の糸からビニールを剥がして中身を出してみた。


 うん、間違いない。


 液晶に傷がついてるけど、アタシが欲しかった機種だ。


 どうして?

 

 ……電源入るかな?



 電源ボタンを長押ししてみる。



 シャラララァアアアン♪



 ポップアップ画面に今流行りのらびっちゅウサギが跳ねる。


 可愛い。


 やっぱ、最新式じゃん……ホントなんでこんな所に?



 ヴヴウ!゙ウウヴ!ウヴウウ!



 「えっ? え、え??」


 画面が通常画面になった瞬間、連続でスマホが震える。


 RINEだ、電源が落ちてる間溜まってたのかな?



 「……」


 

 気になる。


 当然だけど、こんな所からスマホとかマジでおかしい。


 ま、この家のトイレから出てきたんだからあの子に見せれば早いんだろうけど、勝手にトイレのタンクを漁ってたら出てきました言うのもおかしいし……。



 トットトト。


 好奇心に負けて、アタシはRINEの着信を知らせるアイコンをタップしてしまった。


 だって、トイレから出てきたスマホに届いたRINEだよ?


 気になるじゃん!




 ぱっと開かれるいつもの見慣れた緑の画面から青いトークの画面に切り替わって、そこにはいつもの吹き出しが躍る。


 ん?


 このアイコン……石川?


 吹き出しのアイコンは、猫耳と髭がラクガキされてるけど石川に間違いない。




 ●月×1日 23:45




 石川?<ねぇ、今どこにいるの?


 石川?<怖いよ! ミカどうしていいか分かんないよ!


 石川?<ねぇ! 答えてよ! ゆっぽんも一緒??


 石川?<返事して!


 石川?<読んでよ!


 石川?<既読がついてない


 石川?<二人がいなきゃ ミカどうしていいか分かんないよ!


 石川?<嫌だ、こわいよ、一人にしないで!


 

 ●月×▽日 16:00



 石川?<今日、ともこが家にプリントを届けに来た。


 石川?<自分が何をしたか気付いてないふりして、白々しい。


 石川?<ともこがアイツを苛めなければゆっぽんやけんちーがこんな目に合わなかったのに!


 石川?<待ってて、ミカ、ともこに謝らせるから! それでも駄目なら






 ここで、トークは切れている。



 全て一方的な石川のトークだけで、会話は成り立っていない。


 

 「何これ?」


 やっぱ、石川って頭おかしくなってんだ……。


 アタシは、RINEの画面を閉じる。


 

 コンコン。


 

 不意にトイレの戸が叩かれる!


 

 「ともこちゃん? 大丈夫?」



 思わずビックってしちゃったけど、聞こえてきたの心配そうな優しい声。



 「あ、うん、大丈夫っ!」



 アタシは我に返って、このトレイの惨状を直視する!


 

 ゴム栓を無くし流れっぱなしのトイレの水に、無残にもトイレタンクから引き出されたパーツに水たまりの床。


 う~わ~どうしよう……。



 「とこもちゃん? 何かあったの?」



 心配そうな声。



 どうにかごまかせないかと悩んだけど……ああ、無理だコレ。


 罪悪感に負けたアタシは、スマホを濡らさない様に自分のスカートのポケットに入れてガチャッとドアを開ける。



 「ぁ、あのさ……ごめん! トイレ急に流れなくなって、タンクを開けたら余計壊しちゃって! それで、それで……!」

 

 

 まくし立てるように謝るアタシの背後のトイレの惨状に、アンタは眉一つ動かさずに中に入るとタンクの下の蛇口の上のとこみたいなのをキュキュキュと締めた。


 すると、流れっぱなしの水がとまる。


 「大丈夫だよ、とこもちゃん。 水止めたから」


 怒りもせず冷静に水を止めたアンタは、アタシの握りしめていた浮きとゴム栓のついたボールチェーンを受け取ると『掃除するから台所で休んでて』と言う。


 「ぁ」


 アタシは、ポケットに入れたスマホも渡そうとしたけど掃除道具を取りに行くのかその丸い背中はどすどすと風呂場の戸を開けて素早く締めてしまった。



 後で言うかな……。



 風呂場の方でガタガタとする音を背に、アタシは台所へ戻って椅子に座って冷えた紅茶を一口。



 「……やっぱ、変だよね……?」



 しんとする台所でアタシはポケットからスマホを取り出してあらためて思う。


 

 普通に考えてトイレのタンクからなんて、誰かか意図的に沈めておかなきゃ無理だしちゃんとビニールに入っていたしあの赤い方のビニールは明らかに誰かに見つけて貰うための仕掛けだ。



 誰か?


 あの子が?


 自分の家で??


 

 アタシは、もう一度スマホの画面をタップしてRINEの画面を開く。



 このトークは間違いなく石川だ。


 けど誰に?


 このスマホは……誰のモノ?



 ガタン!

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