顔②
イラつく。
アタシは、日が落ち始めた歩道を自分の家と全くの正反対の方向にある石川の家に向けて歩く。
なにあの態度?
脂肪の癖に…!
「最近、生意気になったなぁ…もっと…」
そうこう考えている間に通学路から住宅地に入って、その中の一軒の家の前でアタシは足を止めた。
「ふん…ここか…」
そこは、よくある感じのj住宅密集地の二階建ての無理やりねじ込んだみたいな小さな庭のついた白い一軒家。
アタシはスマホの地図アプリを終了する。
石川ミカ。
今回、ウチのクラスから行方不明になった月島友華の金魚の糞。
特に、一緒につるんでたハーフの男子にたいするかわい子ぶってにゃんつくのがあり得ない。
はぁ、なんでそんな奴の為にアタシがプリント届けてやんなきゃなんないのよ…。
ピーンポーン。
アタシは、さっさと済まそうとドアの前まで行ってチャイムを鳴らす。
少し待つけど返事がない。
「…」
ピーンポーン。
「…」
ピーンポーン。
なんだよ!
出ねぇのかよ!!
「ったく…!」
アタシが取り敢えずトートバッグからプリントの封筒を出して、郵便受けに突っ込もうとした時だった。
「あらぁ~確か山下さんだったかしら?」
背後から間の抜けた声。
振り向くと、そこには買い物袋を下げた中年太りのおばさん…あ。
このおばさん、石川のお母さんだ!
「あらあら~ミカのお見舞い?」
「は、はい! 先生にプリントを頼まれて…」
「まぁまぁ~そうなの~どうぞどうぞ上がってちょうだいな~」
「ぇ? いえ、あのっ」
こっちの都合などお構いないしに石川のお母さんは、ざかざかとアタシを家の中へと押し込んでそのまま二階へと続く階段へと背中を押す!
「それじゃぁ~ミカのお部屋で待ってて~あの子ったら今お風呂みたいだから~」
「あ、あの!」
「…今日はありがとうね」
階段を上がった先、突き当りの石川の部屋にアタシ放り込んで立ち去ろうとする横顔から笑顔が消える。
「え?」
「『あんな事』があって、あの子…クラスのお友達が来てくれるなんて…本当にありがとうね」
パタン。
げ、ドアが閉じた。
「…ちっ、これからピア_____」
ヴゥーヴゥー!
不意にアタシのトートバッグのスマホが震える…RINE?
それは、ピアノ教室からのグループRINEの通知でそこには…
<●●小学校区域の生徒に連絡:最近の事件を受け安全が確認されるまでピアノ教室への来所を控えて頂くようお願いいたします>
え?
コンクール近いのに!
つか、ピアノ教室すら休校みたいなもんなのに何でうちの小学校は休校になんないの!?
「…まぁ、これで焦って帰る心配もなくなったんだけどね…」
アタシは、気を取り直して石川の部屋を見渡す。
フローロングの床にベッドに机…パステルカラーを基調にした何の変哲もない女の子の部屋。
締め切っていたのか空気が少し淀んだ感じがするけど、さっきまで寝ていたっぽいベッドのへこみ以外は片付いても散らかってもいない。
ふと、窓がわの隣の机の上に写真立てを見つけて気になってみてみる。
紅い縁取りの写真立てに飾られているのは、石川、月島、ハーフの男の子の三人の映った砂浜の写真。
見た感じ今の写真じゃなくて、多分小3くらいの頃の物かな?
「ふぅん…幼馴染だったんだ…」
幼馴染が二人もいなくなった…確かにそれは凹むだろうね…。
アタシは写真をもとに戻してベッドの横に置かれた小さい丸テーブルの上にプリントの封筒を置いてフローリングの床に座って石川を待つことにし____がちゃ!
「山下さ~ん♪」
「あ、石川さんのお母さん…」
アタシが床に座った途端、部屋の戸がノックもなしに開いてお茶とお菓子をトレーに乗せた石川のお母さんがにこにこ入ってきた。
「あの子、もう少しで上がるからこれ食べて待っててね~」
「あ、ありがとうございます…」
「遠慮しないでね~じゃ、おばさん下にいるからね~」
そう言って、丸テーブルにそれらを置いた石川のお母さんはさっさと下へ降りていた。
「…あ…和菓子だ…餡子嫌いなんだよなぁ…」
アタシは、テーブルの上の大福にげんなりとする。
はぁ…出されたモンは食べないと…けどなぁ~…。
大福の皿にため息をついていると、またガチャっと背後で部屋のドアが開く。
「…」
振り向けば、そこにはピンクのフリースのパジャマを着て頭にタオルを巻いた石川がなぜかこちらを睨み付けながら見下ろしている。
ん?
なんだその目?
「…何しに来たの…」
いつもの頭悪そうな雰囲気とはまるで違う…まるでアタシに対して怒ってるみたいな声。
「何って…ああ、部屋にはアンタのお母さんが入れたの、コレ渡すように高島先生に言われたから持ってきてやったんじゃない…ナニその態度?」
「そ…用が済んだならさっさと帰って」
なにこれ?
月島の金魚の糞の癖に生意気…!
「何? その態度…喧嘩売ってんの?」
いつもならちょっと睨めば月島の背中に隠れて怯えていた筈の石川は、まるで別人みたいな鋭い視線をアタシに浴びせる。
「…お前らの…ううん、お前の所為だ…」
「は?」
「あんな化け物…ゆっぽんもけんちーも…きっとアイツにやられたんだ!」
「はぁ? なに言ってんの? ちょと、マジで怖いんですけど?」
「なんで! なんで! ゆっぽんとけんちーがこんな目に合うんだよ! お前がやられればいいんだ!」
石川は頭を掻きむしる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます