千里の恋

閻魔天(ヤマ)

第1話

「暑い」

 わたし竹村千里たけむらちさとは寝転がって畳に長い黒髪を垂らしながらアイスをくわえながら言った。

 ジージー、ミンミンと蝉時雨がまざりあう。五月蠅いジャイアンリサイタルだ。

「ねえ真暑い」

 わたしは縁側で座って同じくアイスを食べてる相川真あいかわまことに言った。真とわたしは保育園からずっと家が隣同士の幼馴染だ。

「俺に言われても困る。俺も暑いから」

「はあ、なんでこの真夏にクーラー壊れてんのよ、ありえないんですけど」

「まったくもって同感だな」

 現在相川家の空調は壊れて、窓を明け扇風機のみで涼をとっている。

「あづい〜」

「……海でも行く?」

「いいね、行こう!」

「おう、了解」

 わたしたちが住んでるのは神奈川県横須賀市。海が近く、自転車でも行ける距離だ。ただ坂が多くて大変だけど。

「わたし一度家に戻って水着とって来るからちょっと待ってて」

「おう」


「着いた~」

 わたしは海へ着くなり真っ先に服を脱いだ。

「ちょっお前……」

「何?」

 何故か真が顔を赤くして目を逸らした。

「水着なんだから恥ずかしがることないじゃん」

「そうだけど、人前で脱ぐなよ。ここ俺以外にもいるんだから。てか着て来たのか」

「うん」

 黒いビキニタイプの水着を眺めながら真は言った。

「どう?」

「え?」

「え? じゃないよ。どう、って言ってんだけど」

 ぼうっとしてる真にわたしは少し頬を膨らませて言った。

「ああ、ごめん似合い過ぎてて正直見とれてた」

「え、そ、そう」

「うん」

 真の言葉に嬉しくなってわたしは頬が紅潮するのを抑えられなかった。

 わたしは真のことが好きだ。けど真はそう思ってないんじゃないかと怖くて中々告白できない。保育園のころからずっと一緒にいるから兄妹みたいなもんだし、真にとってわたしは恋愛対象には入ってないんじゃないかと思えてならない。

「ねえ、水の中入ろうよ」

「そうだな」

「ひゃっ、冷た」

 海の中は丁度いい感じの冷たさで気持ちよかった。

「ああ、気持ちいい」

 と、言ったのは真。

 なんかその仕種がちょっと爺臭い。

「風呂に入っているおっさんみたい」

「失礼だな、まだ17ですよ」

 ちなみにわたしと真の誕生日は、6月が真、11月がわたし。真の方が年上だったりする。

「くらえ」

 呑気に水につかってる幼馴染に海水アッタク攻撃。

 バシャッ。

「ぶっ」

 真の顔面に直撃した。

「てめえ、何しやがる!」

 真が額に怒りマークを浮かべて言った。

「水に入ったらやることは一つしかないでしょ」

「上等じゃねえか! どりゃあ」

 真が両手を使って水を押し出す。

 バシャア。

 水がわたしに直撃した。

「きゃっ」

 ほどよい冷たさがわたしの身体に伝わってくる。

「やったな」

 やられたらやり返す、本来はあまりいい言葉ではないが遊びでは例外だ。いや少なくてもこの水掛けあいではそうだと思う。

 バシャア。

「ごふっ」

「真がKOした」

「してねえ……」

 冗談のつもりでいったのだがどういうわけか真が言葉を途中で止めた。

「うん、どうしたの? 本当にもうダウン」

「お前、まえまえ」

「へ、まえ?」

 わたしは自分の目の前に目を向けてみる。特に何もない。

「おい、あの娘水着とれてるぞ」

「ポロリだ、初めて見た」

「エロス」

「やべえ美乳だ。嘗めまわしてえ」

 この周囲の声を聞いた瞬間わたしは葡萄のように顔を青ざめさせた。 

 わたしは自分の胸に視線を下げる。

 Fカップの巨乳を覆っていたブラが外れて何処かに消えていた。

 今度は夕焼けのように顔を真っ赤にし

「きゃあああああああああああああああ」

 涙目になって悲鳴を上げた。


 ★


「あの千里さん……」

「何」

「これじゃあ水着探せないよ」

 後ろから抱き着くわたしに困ったよう真がに言った。その表情は赤みがさしている。それに気づいてわたしも恥ずかしくなって赤くなる。

「仕方ないでしょ、ブラないんだから。水に潜れる深さじゃないし」

「まあな」

 わたしの言葉に真が渋々納得する。

「ねえ、大事な話があるんだけど」

 わたしは勇気を振り絞って真に告白することにした。

「水着が見つかってからじゃダメなのか?」

「うん」

「わかった、何?」

「……」

 わたしはすぐには話さなかった。というか話せなかった。今の関係が壊れるのが怖いのだ。だからこれまでずっと告白できずじまいだったのだ。なのになんで今告白しようと決めたのか。雰囲気に呑まれているんじゃないだろうか。ええい、話すと決めたのであれば言わなければ。

 わたしは告白する決心をした。

「わたしね、真のことが好き」

「え」

 真の表情が驚愕で彩られる。

「そ、その、へ、返事は?」

 答えを聞くまでの間が凄い時間が立っているように思えた。

「あ、ああ。俺も好きだよ」

「ほ、ほんと!?」

「幼馴染としてじゃなくて?」

「勿論それもないわけじゃないけど、一人の女の子として好き」

「あ、ありがとう」

 わたしはその答えに嬉しさでいっぱいになった。

「俺も千里に告白しようとしたことはあったんだけど中々怖くて言えなくて」

「そうだったんだ」

「うん、告白したら今の関係が壊れちゃうような気がして」

「一緒だ、わたしもそれが怖くて中々告白できなかった。でもよかった。真がわたしのこと好きでいてくれて」

「こちらこそありがとう」

 こうしてわたしたちははれて恋人になったのだった。


「ところで水着どうすんの?」

「あ」

 ブラはどっかいきましたが。

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