Pert.18 荒ぶる奈津子先生

 凄い勢いで誰かが梯子段を駆け下りてきた。

 あれ? 警察にはちょっと早過ぎるような……。それは保健室の奈津子先生だった。

 いきなり床に転がされていた根岸先生の髪の毛を掴んで、

「あんた! あたしと田村教頭のアレをネット配信したでしょう?」

「ウグ、ウググ……」

 猿轡さるぐつわされているので根岸は喋れない。

「生徒の父兄にバレて大変なことになったのよ。教師クビになったら、どうしてくれるの!?」

 凄い剣幕けんまくで奈津子先生が怒っている。

 てか、これも身から出たさびだと思うんだが……。

「絶対にAVにしない約束だったのに騙したのね? 何とか言いなさいよ! このオカマ野郎がっ!!」

 そう言って、往復ビンタで顔をバシバシ叩いていた。

 殴られて、猿轡が外れた根岸先生が反論する。

「やめろ! この糞ビッチが!! 女教師物はAVでは需要が高いからな。だから盗撮してやったんだ」

 こんな屑に教育されて大人になっていく俺らが……可哀相すぎるぜぇー。

 ああ、そう言えば……体育準備室の窓から見えた、赤い光はビデオカメラを回していたからなんだ。謎がひとつ解けた!

「あんな禿げオヤジとやってるのは嫌よ、恥かしいわ」

「田村教頭もおまえとは飽きたと言ってた」

「キィ―――ッ 禿げのくせに許さない! ぶっ殺してやるぅ―――!!」

 さっきまで田村教頭と仲よく***していたと思えない、奈津子先生の言動に驚いた。愛もないくせにあんな行為ができるなんて……淫靡いんびな大人の世界を覗き見たようで、まだ子どもの俺には理解できないよ。

 俺はぜったいに好きな女の子としかやりたくない!

 その時、俺の腕を掴んでピッタリと身を寄せている真美まみの髪からシャンプーの甘い香りがした。ああ、女の子っていい香りがするんだなぁー。

 昨日までは、ただの幼馴染だと思っていた真美に“ 女 ”を感じて、うろたえてしまった俺――。


「田村はわたしが消した」

 しゃくった顎の先に、田村教頭の死体が転がっている。

「う、嘘? 本当に死んでるの?」

「ああ」

「あんたが禿げオヤジを殺したのね」

「そうだ」

「あ、あたしは知らない……共犯者じゃないから……あんた一人でやったことよ!」

 早速、自分の保身か、やりたい放題やって……大人って汚い。二人の教師のやり取りをムカつきながら俺は聞いていた。

「それより、早くわたしのいましめをほどくんだ」

「えっ?」

 興奮し過ぎて、状況が把握できていない奈津子先生はかなり天然女だ。

「このスイッチなぁ~に?」

 側に落ちていた電流スイッチを拾って、キョトンとしている。

「それを押すな―――!!」

 根岸先生が叫んだ瞬間! 

 バリバリと落雷のような音がして、閃光せんこうが二人の教師を包んだ。――俺と真美はなす術もなく、その有様ありさまを見ていた。

 だらしなく倒れた二人の教師、命は大丈夫なのか? だが同情する気持ちは微塵みじんもない。《不謹慎ふきんしんだが、俺は笑いを堪えていた……》これが自業自得じごうじとくってことなんだと、身をもって教えてくれたことを感謝します。

 しっかり学習させていただきました。あははっ……。

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