第五十三話 完全始動の凶行、動く二人の最強


 ――???視点――


 さて、俺は今松本駅のロータリーにいる。

 ここからだ、ここから俺の破壊が始まる!

 壊したい物を壊す、殺したい奴を殺す。

 最強である俺は、何をしてもいいんだ!

 あぁ、まさに自由。

 俺は自由なんだ!

 この世に俺を止められる奴なんて、誰一人いない。

 何故なら、俺が最強だからな!!

 自衛隊でも警察でも引っ張って来いよ。全員消し炭にしてやるからさ!


 では、栄誉あるぶっ壊される建物第一号として、目の前のビルを破壊してやろう。

 俺の第三の能力、《ファイア・ボール》でな!

 俺は掌をビルに向ける。

 すると俺の掌から、スイカと同じ位の大きさの火の玉が生成される。

 

「バンッ!」


 俺の掛け声に反応して、火の玉はビルに向かってビュンって飛んでいった。

 着弾と同時に、巨大な爆発が轟音と共に発生する。ビルはたちまち崩れ落ち、瓦礫は近くを通っていた通行人達に直撃していく。

 あはは、やっべぇ、超気持ちいい!

 ありゃ絶対に死んだろ、瓦礫が直撃した奴等!

 周りは悲鳴や慌てる声に支配される。

 これだよこれ、聞きたかった声!

 あぁ、俺の力がどんどん高まっているのを感じるぜ!!


「おいあんた! 今あんたが何かしたの見たぞ! 何をした!!」


 ん?

 スーツを来たサラリーマンっぽい男が俺に突っ掛かってきた。

 ありゃ、見られてたか。

 まぁ別にいくら見られても困るもんじゃないからいいんだけどさ。

 でもちょっと五月蝿いから、死んでもらおう。

 前までは指先を的に向けないと発火出来なかったが、今の俺なら視線で発火出来る。そう思った。


「うっさい、燃えてろ」


 サラリーマンを睨み付けてみた。

 すると、全身から火が勢い良く出てきて、心地よい悲鳴を上げて暴れている。

 いいねいいね!

 もっと鳴き声を聞かせてくれよ!!

 俺は松本城に向かって歩き出した。

 その辺の建物、人をぶっ壊しながら。

 本当に気持ちいい……。

 あのムカつく女を犯した時より数倍も気持ちいい。

 これはマジで最高だな!

 俺は笑いながら、破壊を楽しんだ。










 ――アタル視点――


「ふぃ~~、極楽極楽……ん?」


 温泉に浸かっている僕とアデルさんだが、急に頭の中でたくさんの悲鳴が聞こえた。

 まさか、動き出した!?

 えっ、松本城壊されちゃうの?

 

「アタルさん、嫌な力の流れを感じます」


「僕も悲鳴が聞こえた。でもこの力、魔力じゃない気がする」


「ええ、全く違いますね。むしろ……いや、そんな事より急ぎましょう。私達の観光は邪魔されたくない!」


「ああ、その通りだね!」


 僕達は急いで温泉から出て、浴室で服を着る。

 飛び出すように建物から出ようとしたら、受付の女性に止められた。


「お客様、松本市に戻ろうとしてませんか!?」


「ええ、そうですけど」


「今は止めた方がいいです! 今ニュースで爆発テロが起きてるみたいなんです!!」


 なるほど、変な力は奥野さんが言ってた発火能力だけじゃなく、爆発させる能力も持ってるって事かな?

 アデルさんも同じ考えみたいだ。


「そうなんですか。とりあえず僕達は大丈夫ですよ。ご忠告ありがとうございます」


 僕達は女性の制止を降りきって、外へと出た。

 そして僕とアデルさんは空を飛んで、上空から様子を見る。

 松本駅の近くから炎と黒煙が上がっており、爆発が度々起きている。

 しかも、それがどんどん松本城に近づいているじゃないか!

 未だに僕の頭には無数の悲鳴と、助けを求める無数の声が聞こえてくる。

 これは、ライトブリンガーの能力だ。

 勇者として女神様から貰ったライトブリンガーは、一人でも多くの人を救えるようにと、本当に助けを求める声を拾う能力が備わっている。

 そのおかげで由加理ちゃんを助ける事が出来ている訳なんだけどね。


 ……くそ、結構死人が出てる。

 急いで止めよう。

 現場に急行しようとした時、僕のスマホが震えた。

 ポケットから取り出して画面を見ると、奥野さんからだ。

 とりあえず出る事にした。


『勇者、俺だ。奥野だ!』


「今松本市で起こってる爆発の件ですよね!? 今からそっちに向かいます!!」


『いや、今お前達が出てくるのは不味い! マスコミがもう沸いてきてるんだ!』


「はぁっ!? 早すぎでしょ!!」


『どうやらグルメ番組の収録中だったらしい! そこでシフトチェンジして今生放送でこの惨状を報道してやがる!!』


 つまり、僕達が助けに行ったら、その様子をバッチリ報道される。

 僕達の顔が全国ネットに乗っちゃう。

 ……面倒な事になるな。

 でも――


「顔がばれるかもしれないけど、人は救えるでしょ! 命に変えられない!!」


『勇者、気持ちは嬉しいが色々不味い事が起きるんだ。だから、一度俺と合流してくれ! 俺は松本駅にいるから!!』


 不味い事か……。

 僕にはどういう事が起こるかわからないから、とりあえず指示に従っておくかな。

 僕はアデルさんに電話の内容を説明して、松本駅へ飛んでいく。

 松本駅の上空に着くと、もう人はいない。

 あるのは黒こげになっている死体と、口元を押さえている奥野さんだけだった。

 うっわ、想像以上に暴れているな、お相手さんは。

 僕達は上空から奥野さんの元へ着地した。


「うおっ!? まさか空から来たのか!?」


「急いできたよ! ……相当相手はヒャッハーしてるね」


 辺りは色んな建物が瓦礫となっていた。

 それに無数の黒こげの死体。

 相当頭がぶっ飛んだ奴じゃないと、こんな事は出来ないだろうね。

 僕は、やったらきっと正気じゃなくなるだろうな。


「とりあえず、お前達二人には、犯人を止めて欲しい」


「それはやりますよ。私達の観光を邪魔されているのですから」


 うおっ、アデルさんから魔力が漏れてる!

 静かに怒ってるなぁ、アデルさん……。


「では二人共、顔がバレたら色々不味いから、これから好きなのを選んでくれ」


 どれどれ?


 ………………?


「「何これ」」


 僕とアデルさんはハモった。

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